23 / 62
失ったモノ
しおりを挟む『お姉さんが居て…良かった。目が覚めたら…知らない部屋に居たから、ひょっとして…私だけ何処かにとばされたのかなって。』
『ここ、王城の…私の部屋じゃないですよね?』
“お姉さん”
“王城の私の部屋”
そして、私を見上げて来るハルのこの目を───私は知っている。
自分の気持ちを押し殺して、ただただ一人で堪えていた。
還りたいとも、助けてとも──泣くことさえしなかった。
常に、周りを気にしていた。
ここに、巻き込まれて来た時のハルと───全く同じ目をしている。
ハルに笑顔を向けてから、顔を上げ、この部屋に居るグレン様とゼンさんとルナさんを見る。
「少し…ハルと2人で話をさせてくれるかしら?確認したい事があるの。それと、ハルが目を覚した事は、ここに居る人以外には…まだ口外しないで欲しいの。エディオルさんにも─ね。」
皆、困惑しつつも、ハルの様子が明らかにおかしいと分かっていた為、渋々といった様子だったけど、部屋から出て行ってくれた。
皆が退室し、ドアも閉じられたのを確認してから、私はまたハルへと視線を戻す。
『ハル、ちょっと…座って話をしようか?』
『……はい。』
体調は大丈夫そうだったけど、念の為に─と、ハルをベッドに座らせて、私はベッドの横に椅子を持って来て座った。
そこでハルから聞いた話は──私の予想を、アッサリと肯定するモノだった。
*****
“とても大事な話がある。明日の夜、パルヴァン辺境地の邸に来て欲しい”
そう手紙を飛ばしてもらった。
ランバルト様、エディオルさん、クレイルさん、イリスさん─それと、リュウ。その人達以外には、ハルが目を覚した事も口外しないように。
リュウに至っては、体調が万全でなくても、這ってでも来い─と念押ししておいた。
「ミヤ様!ハルが目を覚ましたと!ハルは、大丈夫なんですか!?」
と、“氷の騎士”とは何だっけ?と思う程必死な顔をしたエディオルさんが、パルヴァン辺境地のサロンに駆け込んで来た。
ーそりゃそうよね…溺愛してやまないハルの事だものね…だから…こそ……ー
サロンには既に、グレン様とシルヴィア様と、ゼンさん、ロンさんがソファーに座っていて、ルナさんとリディさんとティモスさんが、少し離れた位置に椅子を置き、そこに座ってもらっている。
「エディオルさん、今すぐ会いたいと言う気持ちは分かるんだけど…ハルに会う前に話しておかないといけない事があるのよ。」
「──っ。分かり…ました。それで…ハルは今…」
「安心して。ハルは体力は落ちてるけど…元気よ。今は、寝ているから。」
「それなら…良かった。」
くしゃりと、泣きそうに笑うエディオルさん。本当に、ハルの事が好きなんだなと分かる。分かるが故に─これから話さなければいけない事が余計に辛くなる。
「兎に角…部屋に入って座ってくれ。」
グレン様が声を掛けると、皆がソファーへと移動した。
「ミヤ様、大丈夫か?」
私の横に座ったランバルト様が、私にそっと話し掛けて来た。そのランバルト様の顔を見ると、心配そうな顔をしていた。
ー本当に、この人は私の事をよく見ているのねー
と、落ち込んでいる気持ちが少し浮上した気がした。
「ランバルト様、ありがとうございます。大丈夫です。」
「そうか…」
少し困ったように笑ったランバルト様から視線を外し、前を向いた。
「先ずは──結果から言わせてもらいます。」
チラリとエディオルさんに視線を向けて
「ハルは…この6年の間の記憶の殆どを──失っています。」
ヒュッ──と息を呑んだのは…誰だった?
「───この6年の殆どとは……では、逆に…何を…覚えているんだ?」
暫くの沈黙の後、やっとで口を開いたのは──リュウだった。
「私達─“3人の聖女に巻き込まれてこの世界に来ただけのモブ”って事と、王城で……虐められてる─と言う事だけよ。」
「虐めっ!?」
“虐め”に敏感に反応したのが、ランバルト様とエディオルさんだった。
ーまぁ…それも仕方無いけどー
「ただ、まだ虐められ始めた頃の記憶で、ランバルト様とエディオルさんがやらかす前だから…そこだけは大丈夫なんだと思うけど……だから…その……」
と、私が言い淀んでいると
「──あぁ、ハルは……俺─エディオル=カルザインの存在を…認識していない─と言う事…ですね?」
「そう言う…事に……なるわ。」
そう。あの頃のハルは、自分は巻き込まれただけのモブな存在だから─と、あの王城内の部屋から出る事が殆ど無かった。エディオルさんと接触したのも、あの召喚された日と、国王陛下に謁見した時だけだったし、その時は、挨拶も交わしていなかった。
エディオルさんだけではなく、今のハルにとっては…私以外は皆、“知らない人”なのだ。
「そうか────」
エディオルさんはそう呟いた後、目を閉じた。
その姿を、ゼンさんですら悲痛な表情で見ていた。
「エディオル─」
と、ランバルト様が声を掛けた時
「──なら、以前よりは…マシだな。」
と、微笑むエディオルさんが居た。
34
お気に入りに追加
1,076
あなたにおすすめの小説
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

侯爵令嬢セリーナ・マクギリウスは冷徹な鬼公爵に溺愛される。 わたくしが古の大聖女の生まれ変わり? そんなの聞いてません!!
友坂 悠
恋愛
「セリーナ・マクギリウス。貴女の魔法省への入省を許可します」
婚約破棄され修道院に入れられかけたあたしがなんとか採用されたのは国家の魔法を一手に司る魔法省。
そこであたしの前に現れたのは冷徹公爵と噂のオルファリド・グラキエスト様でした。
「君はバカか?」
あたしの話を聞いてくれた彼は開口一番そうのたまって。
ってちょっと待って。
いくらなんでもそれは言い過ぎじゃないですか!!?
⭐︎⭐︎⭐︎
「セリーナ嬢、君のこれまでの悪行、これ以上は見過ごすことはできない!」
貴族院の卒業記念パーティの会場で、茶番は起きました。
あたしの婚約者であったコーネリアス殿下。会場の真ん中をスタスタと進みあたしの前に立つと、彼はそう言い放ったのです。
「レミリア・マーベル男爵令嬢に対する数々の陰湿ないじめ。とても君は国母となるに相応しいとは思えない!」
「私、コーネリアス・ライネックの名においてここに宣言する! セリーナ・マクギリウス侯爵令嬢との婚約を破棄することを!!」
と、声を張り上げたのです。
「殿下! 待ってください! わたくしには何がなんだか。身に覚えがありません!」
周囲を見渡してみると、今まで仲良くしてくれていたはずのお友達たちも、良くしてくれていたコーネリアス殿下のお付きの人たちも、仲が良かった従兄弟のマクリアンまでもが殿下の横に立ち、あたしに非難めいた視線を送ってきているのに気がついて。
「言い逃れなど見苦しい! 証拠があるのだ。そして、ここにいる皆がそう証言をしているのだぞ!」
え?
どういうこと?
二人っきりの時に嫌味を言っただの、お茶会の場で彼女のドレスに飲み物をわざとかけただの。
彼女の私物を隠しただの、人を使って階段の踊り場から彼女を突き落とそうとしただの。
とそんな濡れ衣を着せられたあたし。
漂う黒い陰湿な気配。
そんな黒いもやが見え。
ふんわり歩いてきて殿下の横に縋り付くようにくっついて、そしてこちらを見て笑うレミリア。
「私は真実の愛を見つけた。これからはこのレミリア嬢と添い遂げてゆこうと思う」
あたしのことなんかもう忘れたかのようにレミリアに微笑むコーネリアス殿下。
背中にじっとりとつめたいものが走り、尋常でない様子に気分が悪くなったあたし。
ほんと、この先どうなっちゃうの?
このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
マーベル子爵とサブル侯爵の手から逃げていたイリヤは、なぜか悪女とか毒婦とか呼ばれるようになっていた。そのため、なかなか仕事も決まらない。運よく見つけた求人は家庭教師であるが、仕事先は王城である。
嬉々として王城を訪れると、本当の仕事は聖女の母親役とのこと。一か月前に聖女召喚の儀で召喚された聖女は、生後半年の赤ん坊であり、宰相クライブの養女となっていた。
イリヤは聖女マリアンヌの母親になるためクライブと(契約)結婚をしたが、結婚したその日の夜、彼はイリヤの身体を求めてきて――。
娘の聖女マリアンヌを立派な淑女に育てあげる使命に燃えている契約母イリヤと、そんな彼女が気になっている毒舌宰相クライブのちょっとずれている(契約)結婚、そして聖女マリアンヌの成長の物語。
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。
【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り
楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。
たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。
婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。
しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。
なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。
せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。
「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」
「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」
かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。
執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?!
見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。
*全16話+番外編の予定です
*あまあです(ざまあはありません)
*2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。

教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!
海空里和
恋愛
王都にある果実店の果実飴は、連日行列の人気店。
そこで働く孤児院出身のエレノアは、聖女として教会からやりがい搾取されたあげく、あっさり捨てられた。大切な人を失い、働くことへの意義を失ったエレノア。しかし、果実飴の成功により、働き方改革に成功して、穏やかな日常を取り戻していた。
そこにやって来たのは、場違いなイケメン騎士。
「エレノア殿、迎えに来ました」
「はあ?」
それから毎日果実飴を買いにやって来る騎士。
果実飴が気に入ったのかと思ったその騎士、イザークは、実はエレノアとの結婚が目的で?!
これは、エレノアにだけ距離感がおかしいイザークと、失意にいながらも大切な物を取り返していくエレノアが、次第に心を通わせていくラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる