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容赦無し

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*ゼン視点*


『さいきょーしつじー』

「ネロ──と、ノア…だったか?」

エディオルがハルを抱き上げて森から去った後、ティモスとルナとリディの4人で拘束した奴等をボコボ───躾け──矯正していると、エディオルの愛馬のノアが、懐かしい姿をしたネロを乗せてやって来た。

ー初めてあった頃のハルのようだなー

真っ黒に染まった心が、少し晴れたような気がする。

そのネロは、何の躊躇いもなく俺に抱きついて来た。

ー可愛いな!ハルがもし本当の娘だったなら…こんな事もあったのだろうかー

よしよしと、ネロの頭を撫でながらそんな事を考えていた。

すると、ネロは『ん?』と小首を傾げた後、身体がキラキラと光ったと思ったら、黒色の綺麗な毛並みのフェンリルの姿に戻っていた。

『ままがいるの』

『確かに…微かにだけど…ネージュの魔力の気配がするね。』

「ネージュ殿が、この森に?」

そう言えば、ここに来てからネージュ殿の姿を見ていない─と言う事に今更ながら気付いた。ハルの事で怒りに囚われていたようで、周りが見えていなかったのだろう。

「俺も…まだまだだな……」

と、ため息を吐いて、俺もネロとノアの後を付いていった。







『まま、ここにいるの!』

「え?」

ネロが、大樹の前で立ち止まり、前足でカリカリと大樹を優しく掻いている。

『この木には…独特な魔力が込められていますね。それと一緒に、ネージュとハル様の魔力も感じます。』

「その木は…以前ネージュ殿が、長い間眠りに就いていた木だ。そのせいか?」

『ちがうの。いま、ここでままがねむってるの!』

「今!?」

ー“今”とはどう言う事だ?ー

「ゼンさん、俺もよく分からないんですけど、ネージュ殿はサリスに枷を嵌められて操られそうになって…。でも、その前に急に姿が消えて居なくなったんです。」

その場に居た筈のティモスでさえ、ネージュ殿の事はよく分かってはいないようだ。

『でも、ネージュの魔力の乱れは感じませんから、この中でただ眠っている─だけなのかもしれませんね。以前と同じように…この中で傷を癒やしているのかもしれません。』

『ままがおきるまで、ネロはまってるの。』

ネロは、今度は大樹に頬をスリスリとした後、その根元にチョコンとお座りをした。

『私がずっとここに居る事はできないから、ネロはここで、ママが目覚める迄、待っててくれるかな?』

『パパのぶんまで、ここでまってるの!』

また、鼻先を上に上げてエッヘン顔で答えるネロを、ノアは勿論の事、ルナとリディが撫で回した。









*グレン視点*


「アンナ、ハル殿の状態は…どうだ?」

パルヴァン邸付きの薬師であるアンナに、ハル殿の状態を確認する。

「グレン様。ロンさんが用意してくれたポーションのお陰で、枯渇寸前までいっていた魔力も、少し回復しています。それでも、まだまだ─ですが…。ただ、特に怪我をしている訳ではないので、命に関わるような事はないと思います。」

「そうか…怪我はなかったのだな?良かった…。」






エディオル殿が、息をしているのかどうかも分からない程、グッタリとしたハル殿を抱き帰って来た時は本当に驚いた。すぐ側で起きていた異変にさえ…気付いていなかった。
遮断するように結界が張られていたからだそうだが…。

「一体、私達は何度ハル殿に助けられるのだろうな。」

「───本当に…いつも、ハルには助けられてばかりですね。“守るから”と言いながら…いつも…俺が守られてる……」

ベッドに寝ているハル殿の手をずっと握っているエディオル殿が、辛そうな顔で呟いた。

「エディオル殿は、大丈夫か?王城には…戻らなくても良いのか?」

ーまぁ、戻りたくない─のだろうが……ー

「クレイルが…気を使ってくれて一人で報告をしに行ってくれたので…このまま…ここに居て良いですか?」

「勿論だ。ただ、無理だけはするな?エディオル殿まで倒れたりしたら、目が覚めた時、ハル殿が気に病むだろうから。」

「そう…ですね……」

と、困ったように笑うエディオル殿の肩をポンポンと叩いてから私はその部屋を後にした。









「ゼン……気のせいか?さっき見た時よりも…いないか?」

「気のせいですね。」

しれっと答えるゼン。

呪い返しを喰らい、瀕死状態だったサリスに一番レベルの低いポーションを飲ませて、に回復させた。体中に痛みがあるのだろう。ハル殿の様子を見に行く前のサリスは、声を出しながらのたうち回っていた。でも今は──
息を切らせて無言で涙を流している。

ー絶対にゼンが…追い打ちを掛けたに違いないー

本当ならば、今日の浄化には、私かゼンが同行する予定だった。それが、昨日の夜遅くに地下牢に幽閉していたギデルが居なくなった─と言う報告が上がり、ギデルを探す為に今日の同行ができなくなったのだ。それも──

サリスお前の計算のうちだったんだな…。」


ハル殿達が森に入った後、パルヴァン領の外れの川沿いに、既に息をしていないギデルが見付かった。その死因が、呪いを掛けられたかのように、体中が赤黒く変色して爛れていた。

ギデルが死んだ事に関しては…何も思わないが…。
私かゼンが森に同行していれば…ハル殿が倒れる事がなかったのかもしれない─と思うと………。

「兎に角、サリス。我々パルヴァンは、ネージュ殿とハル殿に手を出したお前を赦す気は皆無。生かす気もないが───楽に死なせる事もしない。お前には、一体誰に手を出したのか…生きている間、じっくりその身体に教えてやるから……覚悟してとくことだな。」


「───っ!!」


ゼンをチラリと見ると、ハル殿には見せられないだろう笑顔をしていた。






あぁ、ゼンこいつは…サリスの喉を…潰したのか……






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