上 下
170 / 203
第七章ー隣国ー

新たな出会い

しおりを挟む
*エディオル視点*






「大丈夫か?」

「あぁ…助かった…」



王都から離れて行くにつれて、穢れがより目立つようになった。そのような街には、すでに人の姿も無く─。

ー無事に逃げれたり、他の街に移動していたのなら良いがー

と思いながら、その街を進んで行くとヘルハウンドと対峙している男が居た。その対峙している男の近くには、2人の男が倒れていた。その立っている1人の男も遠目でもフラフラ状態な事が判る程だった。リュウが何とか防御魔法を展開させ、ヘルハウンドの攻撃を防ぎ、その間に辺境地の騎士達と共に、そのヘルハウンドを仕留めた。

結局は、倒れていた2人は既に手遅れで、生き残っていた1人も、足に怪我を負っていた。
その男の手当てをしている間、リュウは穢れを少しずつ祓っている。

「何故、穢れの酷いこんな所に?」

と訊けば

「たまに、穢れが酷い場所だと言うのに、色んな事情を抱えて残ってしまっている者が居るんだ。だから、穢れが酷い場所に人は居ないか─居たら説得して移動させたりしていたんだ。国が何もしてくれないから…。それで、今迄は何とかうまくいっていたんだけど…ヘルハウンドに出くわしてしまって─。」

ギュッと手を握り締める。
どうやら、亡くなった2人とは幼い頃からの付き合いだったらしい。

「本当に…この国の王は…狂っているんだな。いや─この現状さえ知らないのか。」

王都から離れていると言う理由だけで、王都から騎士や魔導師も派遣されていないのだ。この辺境地で対処しなければ、穢れもどんどん増えて、王都でも被害が出て来るだろうに─。

ー本当に、ウォーランド王国は運が良かったなー

と思う。5年程前に召喚された3人ともが、歴代に無いほどのレベルの聖女様達だった。浄化の旅は完璧、且つ、過去に無い早さで終わった。しかも、2年経った今でも、未だに穢れが発生していないのだ。

ーそう言えば、弱い魔獣もあの聖女様達は浄化の力で祓い除けていたなー

同行していた騎士達が、“出番が無い”と愚痴っていたのを思い出す。

そして─には…薬師のハル殿が居た─。




元の世界に還ったと思っていた。それが、ハル殿は還れずにこの世界に居て─また俺の目の前に現れた。この世界に居るのなら─と、ハル殿に手を伸ばした。手を伸ばせば─もう離さない、離せないと思った。

囲って追い込んで…ようやくハル殿をこの手の中に入れられる─と思ったのに。この腕の中に…居たのに─。



『ハルは俺を…この世界で生きる事を…拒絶した。』

『ハルは…元の世界に還ったんだよ─。』


彼女は魔法使いだった。それに─“ハル”も本当の名前ではなかった。彼女に近付けたと思っていたが…彼女の本当の名前すら知らなかった─教えてもらえなかったのだ。それなのに、少しは俺に気持ちを寄せてくれている─なんて…

ー本当に…自分自身に呆れるなー

でももう…それも、どうでも良いか─。ハル殿は…もう居ないんだ。元の世界には魔法が存在しないと言っていた。と言うことは、が召喚しない限り、ハル殿がここに戻って来る事は無い─と言う事だ。


「あの魔法使いは、国の管理下に置かれている者…だったと思うが…あなたは…この国の者では無いよね?なのに、どうして…」

思考の波に囚われていると、手当てをしていた男が声を掛けて来て、ハッと意識を戻した。

「あぁ─俺は隣国ウォーランド王国の者だ。エディオルだ。今は訳あって、あの魔法使いと行動を共にしているんだ。」

「ウォーランドの…。あなたの国…王族が羨ましい。」

「……」

泣くのを我慢するように、顔を歪ませなが呟いた。

「私は…ジン─だ。本当に、助けてくれてありがとう。」

彼─ジン─の手当てが終わり、俺もこの辺の見回りに行こうかと立ち上がった時


「全員、退避しろ!急げ!退避だ─!!」

少し先の方で穢れを祓っていたリュウが叫んだ。

「何故─」

リュウの上空に目をやると、そこには─

「─ハーピー…」

嘘だろ─。ヘルハウンドでも仕留めるのに苦労したのだ。負傷した者も多く、負傷していなくてもかなり疲弊している。そこへ、今度はハーピー…。

穢れを放置し過ぎた結果が…コレなのか…。
ハーピーは、真っ先に弱った者を狙って来る─。チラリと目の前にいるジン殿を見る。

ージン殿はおそらく…ー

少し思案した後、俺は左耳に着けていたピアスを外した。

「ジン殿、このピアスを持っていてくれ。」

「ピアス?これは?」

「防御の魔法が掛けられているんだ。怪我をしているジン殿は狙われるだろうから─。」

このピアスは、きっとジン殿を護ってくれるだろう。

「ありがたいが─でも…」

「これは─だと思ってくれ。無事に生き残れたら、ジン殿には…ができると思うから─。」

俺がそう言うと、ジン殿は軽く目を見張り

「私にできる事ならね─。」

と、辛そうな笑顔を浮かべた。

そして、俺は剣を取り出し、そこに填め込まれている魔石にソッと触れる。淡い水色の魔石。

ー何とか…リュウとジン殿だけでも助かれば…良いかー

ハーピーを見上げながら剣を握り直して、そのままリュウの元へ走り出した。







しおりを挟む
感想 152

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚された賢者は追放メンツでパーティー組んで旅をする。

彩世幻夜
ファンタジー
2019年ファンタジー小説大賞 190位! 読者の皆様、ありがとうございました! 婚約破棄され家から追放された悪役令嬢が実は優秀な槍斧使いだったり。 実力不足と勇者パーティーを追放された魔物使いだったり。 鑑定で無職判定され村を追放された村人の少年が優秀な剣士だったり。 巻き込まれ召喚され捨てられたヒカルはそんな追放メンツとひょんな事からパーティー組み、チート街道まっしぐら。まずはお約束通りざまあを目指しましょう! ※4/30(火) 本編完結。 ※6/7(金) 外伝完結。 ※9/1(日)番外編 完結 小説大賞参加中

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

出戻り巫女の日常

饕餮
ファンタジー
転生者であり、転生前にいた世界に巻き込まれ召喚されて逆戻りしてしまった主人公、黒木 桜。桜と呼べない皆の為にセレシェイラと名乗るも、前世である『リーチェ』の記憶があるからか、懐かしさ故か、それにひっついて歩く元騎士団長やら元騎士やら元神官長やら元侍女やら神殿関係者やらとの、「もしかして私、巻き込まれ体質……?」とぼやく日常と冒険。……になる予定。逆ハーではありません。 ★本編完結済み。後日談を不定期更新。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...