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第五章ー聖女と魔法使いとー

聖女様

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ーあぁ…本当に何もかもが上手くいかないー


私の名前は─宮下香─

優しかった両親が、私が15歳の時に交通事故で亡くなった。悲しくて悲しくて、いっぱい泣いたのを覚えている。そして、その時に気が付いた。

ーここは、私の為にあるゲームの世界だとー

とある恋愛ゲームの続編。前作でノーマルエンドを迎えた後の話だった。前作のゲームは全ルート制覇した。私の一推しは─エディオル=カルザイン─。あの氷の様に冷たい瞳が、ヒロインだけには蕩けるような顔を見せるのだ。クリア後にゲットしたスチルは、スマホの待ち受けにもした。

勿論、続編でも一番最初にエディオルを攻略した。前作より更に甘々な展開でヒロインを囲い込む様に攻めるエディオルは…最高だった。そして、あまり期待していなかった、隠しルートのレフコースエンド。これがまた良かった!擬人化したレフコースは美男子だった。

そんな2人を、これから先、私が手に入れる事ができるのだ。

ーその前に…親戚に引き取られた私って、苛められるんだよねー

家では義姉妹に苛められ、学校でも苛められ…いや…。どうせ、私はここから居なくなって、ウォーランド王国に行くんだ。別にやられっぱなしじゃなくても良いんじゃない?

「ふふっ…本当に、良いタイミングで気付いたわ。」




そして、シナリオ通りに、私は父方の従兄弟に引き取られ、そこでの生活が始まった。そして、義姉妹からの苛めも始まった─のだけど。

「お義父さん、お義母さん、お義姉さんが…私が居るから、この家の空気が汚れるって…だから、ごめんなさい…私、居ない方が良い?」

泣きながらチクると、優しい優しい義両親は

「そんな事ないわ!あなたはここに居て良いのよ!」

と言いながら義母は私を抱き締めてくれ、義父が義姉を叱りつける。

ーふんっ。様あみろ!私は黙って堪えたりなんかしない!ー

勿論、義両親の見えないところで仕返しもしてやった。


高校に入ると、更に苛められるようななったけど、それも、誰にも気付かれないように仕返しをしてやった。私の教科書を破った奴には、その子がをしている写真を教室の黒板に張り付けてやった。私をブスだと罵って来た子の彼氏を寝取ってやった時は、本当に胸がスカッとした。

ーだって、私は誰からも愛されるヒロインなんだものー



そして、ようやく。ようやく、ウォーランド王国に召喚されたと思ったら…前に召喚された聖女達の浄化が完璧で、1年経った今でも穢れが出ていないと言われたのだ。私は、歓迎されるどころか、どう扱って良いか分からない存在だった。

されど、私は聖女であり─この世界のヒロイン。このまま王城で過ごす事を許された。

シナリオ通り、王太子であるランバルトが私の世話役になった。そして、一緒に過ごすうちに気付いた。

ー私、“魅了”が使えてる?ー

ランバルトの瞳が日に日にトロンとなり、私の意見に全て賛同してくれるのだ。

ーあぁ…何て素敵なの!?ー

これだと、エディオルもレフコースも私のものにできるわ!










なのに─。







私が居る筈だった場所には、あのモブの薬師が居た。

パルヴァン辺境伯は死んでないし、私と名を交わす筈だったレフコースは、そのモブと交わしてしまっている。それに─。私に向ける筈だったエディオルの、あの蕩けるような優しい笑顔までもが、あのモブに向いているのだ。

「許さない─」

そう思っていると、急に、エディオルが私の護衛に付く事になった。それを機に、若い魔導師に魅了を掛け、私の魔力も少し使って城全体に、あのモブ薬師とエディオルが連絡が取れないように─と、遮断の魔術を掛けさせた。私の魔力は“流石はヒロイン!”と言った感じで特別な様で、魅了もそうだが、城全体に掛けた魔術も、そう簡単にバレたりもしなかった。

ー本当に、思い通りに事が運んできたー

でも─肝心のエディオルは、私がお願いしても、カオルとは呼んでくれない。エスコートはしてくれるけど、笑顔を向けられる事はない。



「聖女様…あの薬師が、王女殿下が管理をしている庭に来ているそうです。どうされますか?」

聖女わたしの信奉者の一人が、私に報告をしてきた。

ーふふっ…いい機会だわー

「エディオル様を呼んで来て下さい。私も…その庭のお花が見てみたいわ。一般の薬師が入れるなら…私でも大丈夫よね?」

「承知しました。カルザイン様を呼んで参ります。」

そのまま、その侍女が部屋から出て行く。

「ははっ…本当に、いいところに来たわね。」

ーエディオルが誰のものか…思い知らせてやるわ!ー



『あ…ごめんなさい…あの…私…帰りたい…』



あの時のあの薬師の顔は…最高だった。エディオルも私から離れなかったし。何と言っても、ようやくレフコースに会えた!ようやく、シナリオが元通りになって来たんだ!本当に、これからが楽しみだわ!

「私の邪魔をする奴は…絶対に排除してやるんだからね─。あの薬師も…早く消えてしまえば良いのに。」


そして、あの薬師がある店に行くと言う情報を得て、その日は急遽、外出の許可をもらい、その店へと向かった。

エディオルの色を纏って─。

残念な事に、あの薬師と遭遇する事はなかったけど、私とエディオルの仲を、王都の人達に見せつける事ができたから…良しとする。



「あの薬師がエディオル様にしつこく付きまとっていて…。」

「本当は私と居たいと…言ってくれているの…」

目を潤ませてそう言うと、皆が同情してくれる。

ー本当に、この世界の人間はチョロいわー

“聖女”と言うだけで、誰もが私を信じる。本当に素敵な世界。このゲームを作った人には感謝しなきゃね。


さて、後は…あの薬師を完璧に排除して、 レフコースと名を交わすだけ…本当に…楽しみだわ!



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