142 / 203
第五章ー聖女と魔法使いとー
届いた手紙
しおりを挟む「ゼンには、届くかどうかは分からないけど…。」
ロンはそう言いながら、領地に居る主君─グレン=パルヴァン─と、王城に居るであろうゼンに魔術で手紙を飛ばした。
「やっぱり、ハル様は見付からないか?」
「はい。ハル様が行きそうな所は一通り探したのですが…。」
名を交わして、魔力が繋がっていた筈のレフコース殿でさえ、ハル様の居場所が分からないと言う。
「ルナ、私と一緒にハル様の部屋に行くぞ。」
部屋に手懸かりがないかどうか調べる為に、ルナと共にハル様の部屋へと向かった。
「この部屋は特に問題なし…か…。」
ハル様がこの邸どころか、部屋から出て行く姿を誰も目にしていない。邸内にも外にも数多くの使用人達が行き来しているのだ。誰にも見られずに外に出るなんて事は不可能に近い。
「ロンさん!」
思案していると、ハル様の寝室を見ていたルナが慌てて出て来た。
「どうした?何かあったのか?」
「あったんじゃなくて…無くなってるんです!」
「無くなってる?」
「あの…ハル様が…もう着る事はないと思うけど…思い出として置いておきたいと…言って…大切にされていた…ハル様の元の世界の服が…無くなってるんです…。」
「ハル様の…元の世界の服が?」
どう言う事だ?
「と言うか…そもそも、その服をここに持って来ていたのか?領地の邸に置いて来ているんじゃないのか?」
「あぁ、持って来るつもりではなかったらしいのですが、領地から持って来た荷物に紛れ込んでしまっていたようで…。だから、寝室のクローゼットの奥の棚に置いていたんです。それが…」
「その服を見たことはないが、異世界の服だ。そんな服を着ていたら…目立つのではないのか?」
「はい。あの服を着ていたら…目立つとは思います。」
目立つ─それなのに…誰も見ていない。どうなっている?
「取り敢えず、他に手懸かりがないか確認を。後は…レフコース殿の帰りを待とう。」
その日は、父もカルザイン様も、レフコース殿も帰って来なかった。
*****
「お父様!これはどうなっていますの!?」
王城内、国王の執務室に、ベラトリス王女の声が響き渡った。
今、この執務室に居るのは、国王、宰相、ゼンである。
「な…何が…だ?」
我が娘であるベラトリスが、ここまで怒っている事は珍しい─と言うか、これで2回目だ。勿論、1回目はハル殿が苛められていた時だ。
「王都パルヴァン邸のロン様から、魔術で飛ばされた手紙が…私の庭園の池に捨て置かれていましたの!魔導師に確認してもらったところ、この城全体に、何かしらの魔術が掛けられていて、パルヴァン邸からの手紙が王城に届く事、その逆で、王城からパルヴァン邸に手紙が届かないようになっていましたの!お父様、ゼン様、何か…心当たりはございませんの!?城に…やすやすと…そんな魔術を掛けられるなんて…!!兎に角、後で魔導師長がこちらに説明しに来ます!」
と、そのタイミングで、ゼンの元に、パルヴァン邸のロンからの魔術での手紙が届いた。
「掛けられていた魔術は、先程魔導師長が解除しましたわ。良かったですわね。池に捨て置かれた手紙も、お渡ししておきますわ。」
と、ゼンはベラトリス王女から手紙を受け取り、取り敢えず、今来た手紙を開封して読み始めた。
「え?」
そして、読み始めてすぐに顔を強ばらせ、ガタガタとゼンらしくなく慌てて椅子から立ち上がった。
「ど…どうした?ゼン殿?」
「ハ─…あの薬師殿が…昨日から邸に帰って…来ていない…と。」
「あの犬と一緒なのだろう?大丈夫だろう。」
「…その犬も…彼女が何処に居るのか…分からないと…」
「「…え!?」」
「あの薬師殿って…誰ですの?」
国王と宰相の顔色が悪くなり過ぎていて、ベラトリスは少しひいている。
「あのー…発言しても宜しいでしょうか?」
と、ベラトリス王女の後ろに控えていたサエラが声を掛けた。
「サエラ…良いですわ。」
「その薬師様とは…プラチナブロンドの髪で淡い水色の瞳をした、若い女性の事でしょうか?」
「サエラ殿は、彼女に会ったのか?いつ?何処で?」
「あー、ゼン様、落ち着いて下さい。私が会ったその薬師様とは…少し言い難いのですが…。」
と、チラリとベラトリス王女に視線を向けた後
「昨日の午前中…お昼前です。元ハル様のお部屋の庭で…お会いしました。私はその後仕事がありましたので、直ぐにお別れ致しましたが…。」
「…あぁ…それは…きっと…その薬師殿だ…。でも、昨日、この城に?」
この数日は、王城の立ち入りを規制していた筈なのに。
「何故、こうも事がうまく進まない!?陛下、俺は一度、エディオル様を連れて、パルヴァン邸に戻る。異論は…無いですよね!?」
「あぁ、それは勿論だ。」
ーそう言えば、ここ数日エディオル様とも会えてなかったなー
と思いながら、ゼンはエディオルの元へと急いだ。
51
お気に入りに追加
2,291
あなたにおすすめの小説
夫と妹に裏切られて全てを失った私は、辺境地に住む優しい彼に出逢い、沢山の愛を貰いながら居場所を取り戻す
夏目萌
恋愛
レノアール地方にある海を隔てた二つの大国、ルビナとセネルは昔から敵対国家として存在していたけれど、この度、セネルの方から各国の繁栄の為に和平条約を結びたいと申し出があった。
それというのも、セネルの世継ぎであるシューベルトがルビナの第二王女、リリナに一目惚れした事がきっかけだった。
しかしリリナは母親に溺愛されている事、シューベルトは女好きのクズ王子と噂されている事から嫁がせたくない王妃は義理の娘で第一王女のエリスに嫁ぐよう命令する。
リリナには好きな時に会えるという条件付きで結婚に応じたシューベルトは当然エリスに見向きもせず、エリスは味方の居ない敵国で孤独な結婚生活を送る事になってしまう。
そして、結婚生活から半年程経ったある日、シューベルトとリリナが話をしている場に偶然居合わせ、実はこの結婚が自分を陥れるものだったと知ってしまい、殺されかける。
何とか逃げる事に成功したエリスはひたすら逃げ続け、力尽きて森の中で生き倒れているところを一人の男に助けられた。
その男――ギルバートとの出逢いがエリスの運命を大きく変え、全てを奪われたエリスの幸せを取り戻す為に全面協力を誓うのだけど、そんなギルバートには誰にも言えない秘密があった。
果たして、その秘密とは? そして、エリスとの出逢いは偶然だったのか、それとも……。
これは全てを奪われた姫が辺境地に住む謎の男に溺愛されながら自分を陥れた者たちに復讐をして居場所を取り戻す、成り上がりラブストーリー。
※ ファンタジーは苦手分野なので練習で書いてます。設定等受け入れられない場合はすみません。
※他サイト様にも掲載中。
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす
リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」
夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。
後に夫から聞かされた衝撃の事実。
アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。
※シリアスです。
※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。
欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします
ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、
王太子からは拒絶されてしまった。
欲情しない?
ならば白い結婚で。
同伴公務も拒否します。
だけど王太子が何故か付き纏い出す。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
吸血鬼公爵に嫁いだ私は血を吸われることもなく、もふもふ堪能しながら溺愛されまくってます
リオール
恋愛
吸血鬼公爵に嫁ぐこととなったフィーリアラはとても嬉しかった。
金を食い潰すだけの両親に妹。売り飛ばすような形で自分を嫁に出そうとする家族にウンザリ!
おまけに婚約者と妹の裏切りも発覚。こんな連中はこっちから捨ててやる!と家を出たのはいいけれど。
逃げるつもりが逃げれなくて恐る恐る吸血鬼の元へと嫁ぐのだった。
結果、血なんて吸われることもなく、吸血鬼公爵にひたすら愛されて愛されて溺愛されてイチャイチャしちゃって。
いつの間にか実家にざまぁしてました。
そんなイチャラブざまぁコメディ?なお話しです。R15は保険です。
=====
2020/12月某日
第二部を執筆中でしたが、続きが書けそうにないので、一旦非公開にして第一部で完結と致しました。
楽しみにしていただいてた方、申し訳ありません。
また何かの形で公開出来たらいいのですが…完全に未定です。
お読みいただきありがとうございました。
【完結】出ていってください。ここは私の家です。〜浮気されたので婚約破棄してお婿さん探します!〜
佳
恋愛
ある日帰宅すると、同居中の婚約者が女性を連れ込んだと聞いたシュテファニ。
使用人を連れて寝室に向かうがーー
扉を開けるとそこでは、見たくもない行為が繰り広げられていた。
「あの人が執務なんてするわけないわ。」
「行かないほうがいいですよ。」
「お嬢様はティールームでお待ちください。」
シュテファニ・アイブリンガーは、頭の悪い婚約者を家から追い出すことができるのか。
そしてその先に――
初めましての人もそうでない人も、お楽しみいただけたら嬉しいです。
※※※性的表現があるところは「※」つけます。
大人が見たら笑っちゃうくらいのものですが一応。ご注意を! R18です!!
おかしな性的言動?だったりが目立つところもつけときます。
※※※ざまぁが始まるとわりと残酷ですのでご注意ください!!
自己責任でお願いします。R18です!!
※よくある設定ですが完全オリジナルです。
※敬語尊敬語滅茶苦茶御免!(なさい)
※婚約者がアホなので注意!
※いろいろ思うところはあるかもですがルトガーは一途なだけです。
※他サイトに掲載時とはラストが変わっております。
※他サイトでも公開中
話としては30話で完結です!
番外編数話あり。
お読みくださってありがとうございます!!
婚約者の恋人
クマ三郎@書籍発売中
恋愛
王家の血を引くアルヴィア公爵家の娘シルフィーラ。
何不自由ない生活。家族からの溢れる愛に包まれながら、彼女は社交界の華として美しく成長した。
そんな彼女の元に縁談が持ち上がった。相手は北の辺境伯フェリクス・ベルクール。今までシルフィーラを手放したがらなかった家族もこの縁談に賛成をした。
いつかは誰かの元へ嫁がなければならない身。それならば家族の祝福してくれる方の元へ嫁ごう。シルフィーラはやがて訪れるであろう幸せに満ちた日々を想像しながらベルクール辺境伯領へと向かったのだった。
しかしそこで彼女を待っていたのは自分に無関心なフェリクスと、病弱な身体故に静養と称し彼の元に身を寄せる従兄妹のローゼリアだった……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる