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第五章ー聖女と魔法使いとー

届いた手紙

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ゼンには、届くかどうかは分からないけど…。」

ロンはそう言いながら、領地に居る主君─グレン=パルヴァン─と、王城に居るであろうゼンに魔術で手紙を飛ばした。

「やっぱり、ハル様は見付からないか?」

「はい。ハル様が行きそうな所は一通り探したのですが…。」

名を交わして、魔力が繋がっていた筈のレフコース殿でさえ、ハル様の居場所が分からないと言う。

「ルナ、私と一緒にハル様の部屋に行くぞ。」

部屋に手懸かりがないかどうか調べる為に、ルナと共にハル様の部屋へと向かった。



「この部屋は特に問題なし…か…。」

ハル様がこの邸どころか、部屋から出て行く姿を誰も目にしていない。邸内にも外にも数多くの使用人達が行き来しているのだ。誰にも見られずに外に出るなんて事は不可能に近い。

「ロンさん!」

思案していると、ハル様の寝室を見ていたルナが慌てて出て来た。

「どうした?何かあったのか?」

「あったんじゃなくて…んです!」

?」

「あの…ハル様が…もう着る事はないと思うけど…思い出として置いておきたいと…言って…大切にされていた…ハル様の元の世界の服が…無くなってるんです…。」

「ハル様の…元の世界の服が?」

どう言う事だ?

「と言うか…そもそも、その服をここに持って来ていたのか?領地の邸に置いて来ているんじゃないのか?」

「あぁ、持って来るつもりではなかったらしいのですが、領地から持って来た荷物に紛れ込んでしまっていたようで…。だから、寝室のクローゼットの奥の棚に置いていたんです。それが…」

「その服を見たことはないが、異世界の服だ。そんな服を着ていたら…目立つのではないのか?」

「はい。あの服を着ていたら…目立つとは思います。」

目立つ─それなのに…誰も見ていない。どうなっている?

「取り敢えず、他に手懸かりがないか確認を。後は…レフコース殿の帰りを待とう。」





その日は、父もカルザイン様も、レフコース殿も帰って来なかった。










*****


「お父様!これはどうなっていますの!?」

王城内、国王の執務室に、ベラトリス王女の声が響き渡った。

今、この執務室に居るのは、国王、宰相、ゼンである。

「な…何が…だ?」

我が娘であるベラトリスが、ここまで怒っている事は珍しい─と言うか、これで2回目だ。勿論、1回目はハル殿が苛められていた時だ。

「王都パルヴァン邸のロン様から、魔術で飛ばされた手紙が…私の庭園の池に捨て置かれていましたの!魔導師に確認してもらったところ、この城全体に、何かしらの魔術が掛けられていて、パルヴァン邸からの手紙が王城に届く事、その逆で、王城からパルヴァン邸に手紙が届かないようになっていましたの!お父様、ゼン様、何か…心当たりはございませんの!?城に…やすやすと…そんな魔術を掛けられるなんて…!!兎に角、後で魔導師長がこちらに説明しに来ます!」

と、そのタイミングで、ゼンの元に、パルヴァン邸のロンからの魔術での手紙が届いた。

「掛けられていた魔術は、先程魔導師長が解除しましたわ。良かったですわね。池に捨て置かれた手紙も、お渡ししておきますわ。」

と、ゼンはベラトリス王女から手紙を受け取り、取り敢えず、今来た手紙を開封して読み始めた。

「え?」

そして、読み始めてすぐに顔を強ばらせ、ガタガタとゼンらしくなく慌てて椅子から立ち上がった。

「ど…どうした?ゼン殿?」

「ハ─…薬師殿が…昨日から邸に帰って…来ていない…と。」

犬と一緒なのだろう?大丈夫だろう。」

「…その犬も…彼女が何処に居るのか…分からないと…」

「「…え!?」」

薬師殿って…誰ですの?」

国王と宰相の顔色が悪くなり過ぎていて、ベラトリスは少しひいている。

「あのー…発言しても宜しいでしょうか?」

と、ベラトリス王女の後ろに控えていたサエラが声を掛けた。

「サエラ…良いですわ。」

「その薬師様とは…プラチナブロンドの髪で淡い水色の瞳をした、若い女性の事でしょうか?」

「サエラ殿は、彼女に会ったのか?いつ?何処で?」

「あー、ゼン様、落ち着いて下さい。私が会ったその薬師様とは…少し言い難いのですが…。」

と、チラリとベラトリス王女に視線を向けた後

「昨日の午前中…お昼前です。元ハル様のお部屋の庭で…お会いしました。私はその後仕事がありましたので、直ぐにお別れ致しましたが…。」

「…あぁ…それは…きっと…その薬師殿だ…。でも、昨日、この城に?」

この数日は、王城の立ち入りを規制していた筈なのに。

「何故、こうも事がうまく進まない!?陛下、俺は一度、エディオル様を連れて、パルヴァン邸に戻る。異論は…無いですよね!?」

「あぁ、それは勿論だ。」

ーそう言えば、ここ数日エディオル様とも会えてなかったなー

と思いながら、ゼンはエディオルの元へと急いだ。





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