128 / 203
第五章ー聖女と魔法使いとー
続編
しおりを挟む「なーんだ。気付いてたんだ?ははっ。やっぱり、あんたは面白いね─。」
ーこっちは全然面白くないけどー
「そんなに警戒しないでよ。あんたに何かしに来た訳じゃないし…。話をしに来ただけだから。それに、あんたの事気に入ってるからね。」
ーいやいや、それこそ要らないし迷惑でしかないー
「取り敢えず…中に入っても良い?このままだと、誰かに見られるよ?良いの?」
ー見られて困るのはあなたでしょう?ー
と言いたいところだけど、私だって訊きたい事があるから、仕方無く中に入らせた。
「あんたさぁ…日本人だろ?」
寝室ではなく、私室の椅子に、お互い机を挟んで座り、座った途端にその魔法使いが話し出した。
ーどうする?もう、それは肯定しても良いかな?ー
「…だとしたら?」
「やっぱり…おかしいと思ったんだ。“ハル”なんて俺は作ってないから。」
「…作ってない?」
「俺ね、このゲーム…続編の製作者の1人だったんだよ。」
「…ゲーム?続編?」
ドグリッと心臓が音を立てる。
実際、私はこのゲームどころか、お姉さん達の居たゲームも知らなかった。それに、そのゲームはもう終わったと思っていた
なのに──
「あれ?ひょっとして…知らなかった?あぁ…だから、余計にうまく進まなかったのか?」
と、魔法使いは思案するように少し黙った後
「なら…教えてあげる。」
と言って、ゲームの話をしだした。
この続編の設定は、前作で聖女様達がノーマルエンドを迎え、誰とも恋に落ちずに浄化の旅を終えて元の世界に還った1年後の話になる。
続編は、パルヴァンの森で眠りに就いていたフェンリル─レフコース─が目覚めるところから始まる。目覚めたフェンリルが暴れて…その暴れるフェンリルをやっとの思いで拘束する事に成功するのだが、グレン=パルヴァン辺境伯が犠牲となり亡くなってしまうのだ。
そして、浄化から1年程経つと、何故かパルヴァンの森が異常な程のスピードで穢れが溢れ、魔導師達では手に負えなくなり、また、聖女様を召喚する事になった。そこで召喚されたのが─宮下香─だった。
彼女は1人だったが、異世界に召喚された事を恨む事も嘆く事せず、一生懸命に勉強し、浄化にも成功する。
そして、主だった巫女を失い、グレンを殺してしまい心を閉ざしたフェンリル。そのフェンリルに寄り添い、その心を癒し、心を通じ合わせ─2人は名を交わす事になる。
宮下香は、元の世界ではごくごく普通の女子高生だったが、両親が交通事故で亡くなり親戚筋に引き取られたが、そこで義姉と義妹から苛められていた。
そのせいもあり、宮下香は浄化を終えても元の世界には還らないと断言。この世界で宮下香は、聖女を務めながら攻略対象者達と関係を深めていき、幸せになる。
隠しルートでは、心が通じ合い奇跡が起きて、擬人化したフェンリルと結ばれるらしい。
ーレフコースが…擬人化?それはちょっと見てみたい…かも?じゃなくてー
「分かる?ここは…宮下香を幸せにする為に作った世界なんだ。それなのに…。」
うっそりと笑いながら語っていた顔が、今度はギュッと眉間に皺を寄せて語り出す。
「前の聖女達が完璧に浄化するわ、フェンリルも誰も殺さず拘束されるし…。1年経っても穢れが出ないから…当たり前だけど、宮下香が召喚されない。何でだって思ってたんだ。」
「あなたは…どうやってこの世界に来たの?そんなに宮下香が気になるなら…隣国ではなく、ウォーランド王国に居れば良かったんじゃないの?」
「はっ!そんなの、最初から分かってたらそうしていたよ!でも…俺は…召喚とかそんなんじゃなくて、転生者なんだ。俺は、日本では…多分…病気で死んだんだと思う。日本人としての記憶が戻ったのは3年位前で、その時にはもう、隣国で“魔法使い”として保護─国の管理下に居たんだ。」
ー転生者。本当に…そんな人が居るんだー
「もしかして…ストーリーが進まないから…あなたが自分の魔力で、隣国からウォーランド王国に宮下香を…召喚した?」
「─そうだよ。魔法使いには…それができるだけの魔力があるからね。まぁ、それでも、できるのは1回だけだろうけどね。2度目は多分…魔力が足らなくて死んじゃうかもしれないからね。」
ー魔法使いはレアで色んな意味で狙われるー
たった1人で召喚の魔法陣を発動させられる。確かに…凄過ぎると言うか、チートだよね…。
兎に角、誰が何故新たな聖女を召喚したのか、これでハッキリと分かった─けど…コレ…どうやって説明すれば良いの?いや、絶対無理だよね?ゲームの世界とか…うん。無理だ。
「だからさぁ…、あんたが居るその場所は、本当は宮下香が居る筈の場所なんだよね。」
「…それは…ゲームの話であって、現実は違う。私は、私の意思を持って…ここに居る。」
レフコースは、ハルが良いと言ってくれた。だから、私は今、ここに居るのだ。
「本当に…そうかなぁ?だってさぁ…フェンリルと名を交わしたと言っても、真名じゃないだろ?それ、意味ないからね─」
と、その魔法使いは愉快そうに嗤った─
66
お気に入りに追加
2,333
あなたにおすすめの小説
巻き込まれ召喚された賢者は追放メンツでパーティー組んで旅をする。
彩世幻夜
ファンタジー
2019年ファンタジー小説大賞 190位!
読者の皆様、ありがとうございました!
婚約破棄され家から追放された悪役令嬢が実は優秀な槍斧使いだったり。
実力不足と勇者パーティーを追放された魔物使いだったり。
鑑定で無職判定され村を追放された村人の少年が優秀な剣士だったり。
巻き込まれ召喚され捨てられたヒカルはそんな追放メンツとひょんな事からパーティー組み、チート街道まっしぐら。まずはお約束通りざまあを目指しましょう!
※4/30(火) 本編完結。
※6/7(金) 外伝完結。
※9/1(日)番外編 完結
小説大賞参加中
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
出戻り巫女の日常
饕餮
ファンタジー
転生者であり、転生前にいた世界に巻き込まれ召喚されて逆戻りしてしまった主人公、黒木 桜。桜と呼べない皆の為にセレシェイラと名乗るも、前世である『リーチェ』の記憶があるからか、懐かしさ故か、それにひっついて歩く元騎士団長やら元騎士やら元神官長やら元侍女やら神殿関係者やらとの、「もしかして私、巻き込まれ体質……?」とぼやく日常と冒険。……になる予定。逆ハーではありません。
★本編完結済み。後日談を不定期更新。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる