127 / 203
第五章ー聖女と魔法使いとー
最強で最恐
しおりを挟む「…それじゃあ、また…大人は大人で話があるから…」
と、何となく顔色を悪くした国王様に言われて、王太子様とダルシニアン様とハンフォルト様とエディオル様と共に、国王様の執務室を後にした。
*王太子殿下の執務室にて*
「明日…ゼン殿が第一に来ると…言っていたか?いや─私の聞き間違いか?」
「ランバルト、現実逃避をしたところで、逃げられる訳じゃないからね?ちゃんと受け止めて、明日に備えて早めに就寝すると良いよ。」
現実逃避をしようとするランバルトに、クレイルが軽く釘を刺す─が…
「クレイル、他人事のように言ってるけど、多分、ゼン殿は魔導師団にも向かうと思うよ?魔導師長がやらかした事を知っていたし…何よりも…アイツを逃がしたからね。だから、クレイルも今のうちにゆっくりしておいた方が良いと思う。」
「う゛っ…そうだった…あの馬鹿親父が─っ!」
と、イリスがクレイルにキッチリと釘を刺した。
「えっとー…やっぱり、ゼンさんも…パルヴァン様並に…ヤバいんですか?」
と、隣にいるエディオル様にこっそり訪ねると
「例えばで言うと…“とある珍しい花を取って来い”と言う指令が出たとする。グレン様の場合は、死なないように、被害は最小限に、且つ、速やかに─。で、ゼン殿の場合は……死んでも取って来い─だな。」
ー死んでも取って来い!?ー
え?死んだら取れないよ?いやいや、死んだら駄目だよね?え?あのゼンさんが?あの、ダンディーなゼンさんが、そんな事言うの??
ビックリし過ぎて、言葉が口から出て来ない。
「ハル殿、どうかした?なんだか固まってるけど。」
と、少し顔色は悪いけど、軽く復活したダルシニアン様に声を掛けられて─
「──はっ…。だって、エディオル様が、ゼンさんが死んでも取って来いとか言うからですね?ちょっとビックリしてですね?」
「──は?」
「あぁ…すみません。ちょっと慌て過ぎてしまって…」
自分でも何を言っちゃってるの!って突っ込みたくなる…。恥ずかしいなぁ…と悶えていると、ダルシニアン様がポツリと声を出した。
「…エディオル様?」
「はい?えっと…どうかしましたか?」
「いや…今、ハル殿が…“エディオル様”って…」
ーあぁ!名前呼び!!ー
「すみません!私なんかが名前呼びをしてしまって!」
「あー、いや…そう言う意味じゃなくて…。」
と、ダルシニアン様はそのまま少し口を噤んでから
「…そっか…。うん。そっか…。」
と、1人納得?したように頷く。
「?どうか…しましたか?」
「いや─何でもないよ。ところで…ハル殿は…明日は登城予定はあるの?」
「あー…予定はなかったんですけど…許可が下りれば、お昼頃にでも…差し入れでも持って来ようかなと思ってます。」
と私が言うと
「勿論!許可する!今!王太子のサインで許可する!昼頃だな?ハル殿、時間厳守で宜しく頼む!」
と、王太子様はその場でサクッと、私に明日の登城許可証を書き上げた。
*国王陛下の執務室にて*
「ルイス様、明日は、第一騎士団1人残らず宜しくお願いしますね?私も久し振りの指導なので、少し鈍っているかもしれませんが……」
と、ガラリとゼンの雰囲気が一変する
「手を抜く事はないからな?分かってるよな?ちょっと…ハル様…に負担掛け過ぎって分かってる?分かってないよな?トラウマ相手に面会即決って…普通は有り得ないよな?第一騎士団の尻拭いは、第一騎士団でしなきゃいけないよな?その腑抜けた根性…叩き直してやる。」
それから、ゼンはスッと視線をセルレインに向け
「あぁ、セルレイン様。魔力封じの枷を管理していたのは…神殿だったな?どうしてあんな危険な物が奪われて、誰も気付かなかった?どうやって奪われた?奪った相手が魔法使いだから仕方無い─とは言わないよな?」
と、言い切ったゼンは、またガラリと雰囲気を一変させる。
「──と言う事で、明日を楽しみにしております。」
ニッコリ微笑むゼンだった。
*****
「では、ハル様、おやすみなさいませ。」
そう言って、私の部屋からルナさんとリディさんが退室して行った。
王太子様から許可証をもらった後、ゼンさんが迎えに来てくれて、来る時と同じように、3人で馬車に乗ってパルヴァン邸迄帰って来た。
「ゼンさん、明日、お昼前に差し入れを持って行きますね!」
と言うと
「それは、楽しみですね。」
と、優しく微笑んでくれた。
ーやっぱり、“死んでも”何て…言いそうに見えないけどなぁ??ー
『本来、そこに居るのは…聖女だったのに。何故…お前が居る?』
寝ていたが、ふと目が覚める。
レフコースは、ベット横に置いてあるクッションの上で丸まって寝ている。
「レフコース…静かに寝ていてね? 」
と、撫でながらソッと囁く。
そして──
「なーんだ。気付いてたんだ?ははっ。やっぱり、あんたは面白いね─。」
あの魔法使いが、私の部屋のテラスに、嬉しそうに笑いながら立っていた。
54
お気に入りに追加
2,307
あなたにおすすめの小説
七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない
猪本夜
ファンタジー
2024/2/29……3巻刊行記念 番外編SS更新しました
2023/4/26……2巻刊行記念 番外編SS更新しました
※1巻 & 2巻 & 3巻 販売中です!
殺されたら、前世の記憶を持ったまま末っ子公爵令嬢の赤ちゃんに異世界転生したミリディアナ(愛称ミリィ)は、兄たちの末っ子妹への溺愛が止まらず、すくすく成長していく。
前世で殺された悪夢を見ているうちに、現世でも命が狙われていることに気づいてしまう。
ミリィを狙う相手はどこにいるのか。現世では死を回避できるのか。
兄が増えたり、誘拐されたり、両親に愛されたり、恋愛したり、ストーカーしたり、学園に通ったり、求婚されたり、兄の恋愛に絡んだりしつつ、多種多様な兄たちに甘えながら大人になっていくお話。
幼少期から惚れっぽく恋愛に積極的で人とはズレた恋愛観を持つミリィに兄たちは動揺し、知らぬうちに恋心の相手を兄たちに潰されているのも気づかず今日もミリィはのほほんと兄に甘えるのだ。
今では当たり前のものがない時代、前世の知識を駆使し兄に頼んでいろんなものを開発中。
甘えたいブラコン妹と甘やかしたいシスコン兄たちの日常。
基本はミリィ(主人公)視点、主人公以外の視点は記載しております。
【完結:211話は本編の最終話、続編は9話が最終話、番外編は3話が最終話です。最後までお読みいただき、ありがとうございました!】
※書籍化に伴い、現在本編と続編は全て取り下げとなっておりますので、ご了承くださいませ。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない
猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。
まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。
ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。
財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。
なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。
※このお話は、日常系のギャグです。
※小説家になろう様にも掲載しています。
※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる