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第五章ー聖女と魔法使いとー
面会②
しおりを挟む何故、隣国の魔法使いがここに居るの?
『本当に何かがおかしい…。』
「ねえ、あんたさぁ。何でそのフェンリルと名を交わせたの?」
「さっきも言ったけど、あなたに答える義理はない。」
「本当に冷たいね─。」
『本当は、そこは彼女の場所なのになぁ。』
ーそこ?彼女?ー
「ねえ、そのフェンリルってさぁ、誰か…人を殺したり…した?」
その問いに、レフコースがピクリッと反応し、少し苛立った様に魔力が乱れる。そんなレフコースの頭を、ヨシヨシと撫でる。
「このフェンリル…レフコースが人を殺す?そんな事は有り得ないし、そんな事をさせる事もない。殺そうとしたのは─人間の方だった。」
ヨシヨシと撫でていると、レフコースも落ち着いたのか、魔力も落ち着いて私の足にスリッと顔を擦り付けて来た。
ーよし、いつもの可愛いレフコースだー
「…ふーん。じゃあ…余程あんたが気に入ったって事なのか?」
その魔法使いは、何かを探るように私を見つめて来る。
「何故…あんたを選んだ?」
ゾクッとする─
「ハル…何故、名を交わせた?」
ーっ!?ー
その魔法使いの黒い瞳が一瞬煌めいたかの様に見えた。その次の瞬間には、私の目の前に黒いモヤが漂っていた。
ー止めて!私に近付かないで!消えて!ー
恐れず、目を逸らさずに快の中でも叫ぶ。すると、黒いモヤは消えた。
「…な…んで…」
勿論、その魔法使いは驚いている。これでハッキリした。黒いモヤの出所は、この魔法使いだ。
その魔法使いは私を瞠目したまま。私もその視線から逸らさずに見据える。
『あぁ…そうか。これが…バグ…なのか?彼女にとっての……ま者か?』
ガラッとその魔法使いの目付きが一変した。
『彼女が幸せになる為に作った筈なのに…でも…』
「俺…やっぱり、あんたの魔力には…興味があるんだよね─。ねぇ、俺と一緒に来ないか?」
私から視線を逸らす事なく、ニヤリと口元を歪ませて問い掛けて来る。
その魔法使いの言葉に、レフコースとダルシニアン様とエディオル様が反応する。
「何処に─かは知らないけど…あなたと一緒に行くなんて事は…無い。」
「そうかな?んー…残念だけど…今は仕方ないか?」
『そろそろ…一旦引くか…』
ー引く?ー
その魔法使いがニヤッと嗤う。
「─っ!ダルシニアン様!」
「えっ?」
「それじゃあーお世話になりましたー。」
魔法使いがそう言うと、ガシャンと音を立てて牢屋の鍵が壊れて扉が開いて、スッと私の側迄来て耳打ちをする。
『本来、そこに居るのは…聖女だったのに。何故…お前が居る?』
「ハル殿─っ」
『主!』
エディオル様とレフコースが、一斉に魔法使いに飛び掛かるが、その寸前で魔法使いは姿を消し去った。
「な…何で…どうなってるんだ?これ…かなり…ヤバくないか?」
ダルシニアン様の顔は…真っ青を通り越して…真っ白だ。そりゃあ、捕えていた罪人が逃げてしまったから仕方無いんだろうけど…怯え方が異常じゃない?
「あー…ダルシニアン様…何と言うか…逃げられても仕方無かったと思いますよ?」
取り敢えず、軽くフォローを入れる。
「“仕方無かった”で済む話じゃ…ないんだ。」
ーだって、今、ゼン殿が登城しているんだろう!?ー
と、叫びたくなるのをグッと我慢するクレイル。
「いえー本当に、仕方無かったんですよ。だって…彼は…隣国の魔法使いだから─。」
「え!?」
「兎に角、私が今知り得た事をお話するので…王城の方に移動しませんか?」
「分かった。私は、この事を父ー魔導師長に話して来る。エディオル、先にハル殿とランバルトの元に行ってくれ。」
そう言うと、ダルシニアン様は急いで部屋から出て行った。
「ハル殿…さっき、最後にあの男に何を言われた?」
さっき言われた事──
『本来、そこに居るのは…聖女だったのに。何故…お前が居る?』
“聖女”とは…宮下香の事だろうか?何故、隣国の魔法使いがこの国の聖女に関わってるの?分からない事は多いけど…でも…
ー私の居る場所が…彼女の…場所?ー
ドグリッ
ーそれが…ゲームのシナリオだとしたら…私は…ー
『主?』
スリッと、レフコースが私の右手に擦り寄る。
『どうした?大丈夫か?』
「あ…レフコース、私は大丈夫。エディオル様も…。最後に何を言われたのか…あまり聞き取れなくて…すみません。」
「…いや…。それなら…仕方無い。兎に角、何もされてはないか?」
「はい。」
少し後ろめたくて、エディオル様の顔をまともに見れなくて俯き加減で返事をすると、また、頭をポンポンと優しく叩かれた。
「さて…と。ランバルトの所に行こうか。ひょっとしたら…ゼン殿も…来るかもしれないな…いや、絶対に来るな。」
「ゼンさんが?」
ー何故?ー
と思い、顔を上げてエディオル様を見ると…心なしか疲れたような顔のエディオル様が居た。
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