上 下
111 / 203
第五章ー聖女と魔法使いとー

お出掛けの裏側①

しおりを挟む


『んー…それじゃあ、お礼として…私のお願いをきいてもらおうかな?』

『えっと…私が出来る事なら…』

『勿論、出来る事だ。』



そう─確かに…ハル殿にできるお願いだが…内容を聞く前に了承をするのは…駄目だろう。いや─俺がそう仕向けたんだが…少し心配になって来た。

時間はあるから、ハル殿のペースに合わせてゆっくり…と思っていたが…そうも言ってられない気がして来たな…。
母の誕生日プレゼントを選ぶと言うのは本当の事だ。ただ、母の好みは把握しているから、1人ででも買いに行く事はできた。ハル殿には言わないが─。

城の近くの公園で待ち合わせをしていたが、予定時間よりも早くに家を出て、パルヴァン邸に向かう。先触れもなく行ったにも関わらず

“迎えに来ると分かってました”

みたいな顔をした執事ロンに迎えられた。

予定よりも早い時間だから、暫くは待たなければいけないだろう─と思っていたのだが─


『カルザイン様、お待たせしてすみません。』


思いの外早くに、ハル殿がやって来た。

いつもはキュッと一つに纏めている髪型とは違い、ハーフアップ。ワンピースは彼女の瞳の色とよく似た色で、よく似合っている。そして─ハル殿の胸元には…あのネックレスがあった。俺の色の青─。クレイルの赤があるのは気に食わないが…仕方が無い。でも…ハル殿は、そのネックレスの意味は分からないまま着けているんだろうな。

ーこれから、たっぷりと…嫌と言う程分かってもらわないとなー

そう思案していると


『あのー…レフコースが居ないんですけど…私だけでも良いですか?』


と彼女が訊いてくる。


『…それは全然…構わない。』


寧ろ、2人で出掛けるつもりだったのだ。先日もそうだったが、おそらく、レフコース殿は気を遣ってくれているのだろう。本来、家族でも婚約者でもないのであれば、二人きりで出掛けるなんて事は、まずは有り得ない─のだが…。










*****


「急な面会のお願いを聞いていただき、ありがとうございます。」

「いや─。私も領地へ帰る前にエディオル殿と話がしたいと思っていたから、丁度良かった。」

2日前、ハル殿をパルヴァン邸迄送って来て、そのままグレン様と話をする為にサロンを訪れた。

侍女はお茶を用意するとそのまま退室し、サロンにはグレン様と私と執事の3人だけになった。

「これから先、必要になると思うから…この執事…ロンにも同席してもらうが、良いか?」

「私は構いません。」

ー否とは…言えないよな?ー

「ありがとう。では、先ずはエディオル殿の話を聞こう。」

そう言って、グレン様はニヤリと…嗤った。


私は素直に、今迄の事を全てグレン様に話した。ハル殿が元の世界に還る、還らせる為に距離をとっていた事。視察の時に気付いたが、ハル殿が私達から隠れて距離を取っていたから我慢していた事。そして─

ハル殿がこの世界で、私達から隠れたり逃げたりせず生きて行くと決めたのなら、私は動くと─。

「私は、これから先、ハル殿の側に居たいと…側でハル殿を守って行きたいと思っています。」

暫く沈黙が続き、腕を組んで私の話を聞いていたグレン様が、スッと目を細めて口を開いた。

「例えば─だが…。その思いが通じ合ったとして、ハル殿がパルヴァンに帰りたい。パルヴァンで生きていきたい─と言ったらどうするのだ?」

その事を考えなかった事はない。寧ろ、真っ先に考えた事だ。だから、嘘は吐かずに素直に答える。

「私は、ランバルト王太子殿下を尊敬しております。その尊敬している殿下の近衛騎士を務めている事に誇りを持っています。ですから、私が近衛騎士を自ら辞める事はありません。そして、私がハル殿を手放す事も…有り得ません。私は、ハル殿、私から離れたい、パルヴァンに帰りたいと様に頑張るだけです。私は、のではなく、ように努力するだけです。」

話し終わっても、グレン様から目を逸らす事無く、グレン様を見据える。

「ふっー…エディオル殿は…本当に良い目をしているな。」

と、目を細めてニヤリとする。いや─普通に笑っているだけなんだろう─。

「ハル殿は…いつも自分の事は後回しにする。お人好しな所があるが…肝心な部分では上手く感情を隠してしまう。シルヴィアがな、ハル殿の心が壊れてしまうのを…心配している。壊れる時は…一気に壊れてしまうと。だから、エディオル殿、ハル殿を守りたいと言うなら、ハル殿の心も…守って欲しい。」

ーこれは本当に、グレン= パルヴァン辺境伯なんだろうか?ー

本当の娘であるかのように、ハル殿を大切にしている事が分かる…優しい顔をしている。

「勿論です。私は…何者からもハル殿を守るつもりです。心も─。」

「…ありがとう。私は明日、領地に向けて出立する。ハル殿の事…頼む。」

ーよし、最大の障壁は突破したなー

と、安堵の溜め息を吐きかけた時

「あぁ、ひょっとしたら…私と入れ替えで、ゼンが来るかも知れない─と、ルイスに伝えておいてくれ。」

「──え?」

「おそらく…私以上にキレている。故に、ティモスに頼みギデルと共に先に領地に送り込んだが…それでも収まってはいないだろうから…第一にも向かうと思うし、私では…止められないと思う。」

主であるグレン様が言うのだ。ゼン殿は絶対に…必ず第一騎士団に来るだろう。



ー父上…御愁傷様ですー




心の中でそっと囁いた。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

幸せなのでお構いなく!

恋愛
侯爵令嬢ロリーナ=カラーには愛する婚約者グレン=シュタインがいる。だが、彼が愛しているのは天使と呼ばれる儚く美しい王女。 初対面の時からグレンに嫌われているロリーナは、このまま愛の無い結婚をして不幸な生活を送るよりも、最後に思い出を貰って婚約解消をすることにした。 ※なろうさんにも公開中

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

召喚から外れたら、もふもふになりました?

みん
恋愛
私の名前は望月杏子。家が隣だと言う事で幼馴染みの梶原陽真とは腐れ縁で、高校も同じ。しかも、モテる。そんな陽真と仲が良い?と言うだけで目をつけられた私。 今日も女子達に嫌味を言われながら一緒に帰る事に。 すると、帰り道の途中で、私達の足下が光り出し、慌てる陽真に名前を呼ばれたが、間に居た子に突き飛ばされて─。 気が付いたら、1人、どこかの森の中に居た。しかも──もふもふになっていた!? 他視点による話もあります。 ❋今作品も、ゆるふわ設定となっております。独自の設定もあります。 メンタルも豆腐並みなので、軽い気持ちで読んで下さい❋

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

あなたが私を捨てた夏

豆狸
恋愛
私は、ニコライ陛下が好きでした。彼に恋していました。 幼いころから、それこそ初めて会った瞬間から心を寄せていました。誕生と同時に母君を失った彼を癒すのは私の役目だと自惚れていました。 ずっと彼を見ていた私だから、わかりました。わかってしまったのです。 ──彼は今、恋に落ちたのです。 なろう様でも公開中です。

愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

〖完結〗私が死ねばいいのですね。

藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。 両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。 それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。 冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。 クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。 そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全21話で完結になります。

処理中です...