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第五章ー聖女と魔法使いとー

お出掛けの裏側①

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『んー…それじゃあ、お礼として…私のお願いをきいてもらおうかな?』

『えっと…私が出来る事なら…』

『勿論、出来る事だ。』



そう─確かに…ハル殿にできるお願いだが…内容を聞く前に了承をするのは…駄目だろう。いや─俺がそう仕向けたんだが…少し心配になって来た。

時間はあるから、ハル殿のペースに合わせてゆっくり…と思っていたが…そうも言ってられない気がして来たな…。
母の誕生日プレゼントを選ぶと言うのは本当の事だ。ただ、母の好みは把握しているから、1人ででも買いに行く事はできた。ハル殿には言わないが─。

城の近くの公園で待ち合わせをしていたが、予定時間よりも早くに家を出て、パルヴァン邸に向かう。先触れもなく行ったにも関わらず

“迎えに来ると分かってました”

みたいな顔をした執事ロンに迎えられた。

予定よりも早い時間だから、暫くは待たなければいけないだろう─と思っていたのだが─


『カルザイン様、お待たせしてすみません。』


思いの外早くに、ハル殿がやって来た。

いつもはキュッと一つに纏めている髪型とは違い、ハーフアップ。ワンピースは彼女の瞳の色とよく似た色で、よく似合っている。そして─ハル殿の胸元には…あのネックレスがあった。俺の色の青─。クレイルの赤があるのは気に食わないが…仕方が無い。でも…ハル殿は、そのネックレスの意味は分からないまま着けているんだろうな。

ーこれから、たっぷりと…嫌と言う程分かってもらわないとなー

そう思案していると


『あのー…レフコースが居ないんですけど…私だけでも良いですか?』


と彼女が訊いてくる。


『…それは全然…構わない。』


寧ろ、2人で出掛けるつもりだったのだ。先日もそうだったが、おそらく、レフコース殿は気を遣ってくれているのだろう。本来、家族でも婚約者でもないのであれば、二人きりで出掛けるなんて事は、まずは有り得ない─のだが…。










*****


「急な面会のお願いを聞いていただき、ありがとうございます。」

「いや─。私も領地へ帰る前にエディオル殿と話がしたいと思っていたから、丁度良かった。」

2日前、ハル殿をパルヴァン邸迄送って来て、そのままグレン様と話をする為にサロンを訪れた。

侍女はお茶を用意するとそのまま退室し、サロンにはグレン様と私と執事の3人だけになった。

「これから先、必要になると思うから…この執事…ロンにも同席してもらうが、良いか?」

「私は構いません。」

ー否とは…言えないよな?ー

「ありがとう。では、先ずはエディオル殿の話を聞こう。」

そう言って、グレン様はニヤリと…嗤った。


私は素直に、今迄の事を全てグレン様に話した。ハル殿が元の世界に還る、還らせる為に距離をとっていた事。視察の時に気付いたが、ハル殿が私達から隠れて距離を取っていたから我慢していた事。そして─

ハル殿がこの世界で、私達から隠れたり逃げたりせず生きて行くと決めたのなら、私は動くと─。

「私は、これから先、ハル殿の側に居たいと…側でハル殿を守って行きたいと思っています。」

暫く沈黙が続き、腕を組んで私の話を聞いていたグレン様が、スッと目を細めて口を開いた。

「例えば─だが…。その思いが通じ合ったとして、ハル殿がパルヴァンに帰りたい。パルヴァンで生きていきたい─と言ったらどうするのだ?」

その事を考えなかった事はない。寧ろ、真っ先に考えた事だ。だから、嘘は吐かずに素直に答える。

「私は、ランバルト王太子殿下を尊敬しております。その尊敬している殿下の近衛騎士を務めている事に誇りを持っています。ですから、私が近衛騎士を自ら辞める事はありません。そして、私がハル殿を手放す事も…有り得ません。私は、ハル殿、私から離れたい、パルヴァンに帰りたいと様に頑張るだけです。私は、のではなく、ように努力するだけです。」

話し終わっても、グレン様から目を逸らす事無く、グレン様を見据える。

「ふっー…エディオル殿は…本当に良い目をしているな。」

と、目を細めてニヤリとする。いや─普通に笑っているだけなんだろう─。

「ハル殿は…いつも自分の事は後回しにする。お人好しな所があるが…肝心な部分では上手く感情を隠してしまう。シルヴィアがな、ハル殿の心が壊れてしまうのを…心配している。壊れる時は…一気に壊れてしまうと。だから、エディオル殿、ハル殿を守りたいと言うなら、ハル殿の心も…守って欲しい。」

ーこれは本当に、グレン= パルヴァン辺境伯なんだろうか?ー

本当の娘であるかのように、ハル殿を大切にしている事が分かる…優しい顔をしている。

「勿論です。私は…何者からもハル殿を守るつもりです。心も─。」

「…ありがとう。私は明日、領地に向けて出立する。ハル殿の事…頼む。」

ーよし、最大の障壁は突破したなー

と、安堵の溜め息を吐きかけた時

「あぁ、ひょっとしたら…私と入れ替えで、ゼンが来るかも知れない─と、ルイスに伝えておいてくれ。」

「──え?」

「おそらく…私以上にキレている。故に、ティモスに頼みギデルと共に先に領地に送り込んだが…それでも収まってはいないだろうから…第一にも向かうと思うし、私では…止められないと思う。」

主であるグレン様が言うのだ。ゼン殿は絶対に…必ず第一騎士団に来るだろう。



ー父上…御愁傷様ですー




心の中でそっと囁いた。







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