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第五章ー聖女と魔法使いとー

痛い?帰り道

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「えっと…“馬”ですね…」

何かがおかしい。カルザイン様は、私をパルヴァン邸迄送ってくれると…言っていなかっただろうか?

「こいつは“ノア”。私の愛馬だ。」

成る程。カルザイン様の愛馬か。流石、騎士様の馬だけあって、身体はガッシリとしていてとても綺麗だ。

ーで?何で…馬?ー

頭のなかは?ばかりが飛んでいる。取り敢えず、ヨシヨシとノアを撫でさせてもらっていると、カルザイン様がヒョイッとノアに騎乗した。そして、馬上から

「ハル殿、手を…出してくれるか?」

「手?」

何だかよく分からないけど、右手をカルザイン様に差し出す。あれ?前にもこんな事あったような…?と思った瞬間─

「──っ!?」

差し出した手を掴まれ、そのまま馬上に引っ張り上げられた。

「っ????」

大変です!脳内はパニックです!

そう、以前もこんな事がありました。あったけど…あの時は、ティモスさんの後ろ側に座ったんです。しかも、ティモスさんは本気で馬を走らせたから、必死以外のなにものでもなかったんです。でも─


「そんなに緊張しなくても…落としたりはしない。もう少し…背中を私に預けた方が楽だと思うよ?」

はい。何故か…私はカルザイン様の前に座らされています。手綱を持ったカルザイン様の両腕の間に…。薬師の服装─ズボンを履いていたので、横座りではなく、しっかり馬に跨がるように…。

ーまだ…ズボンで良かったー

いやいやいやいや!背中を預けるって…何!?背凭れなんて無いよね!?

「背中を…預ける???何処に???」

つい言葉にしてしまったのが…いけなかった…

カルザイン様が、左腕を私のお腹に回して優しくグイッとカルザイン様自身の体に引き寄せる。

「─っ!!??」

預けるって事だ。」

「ひゃいっ!?」

グッと私を引き寄せたままで、耳元で囁かれて、思わず変な声が出た。

ーななな何が…どうなっているんですか!?はっ!レフコース!ー

と、レフコースに助けを求めようとしたら

『主、2人で馬で帰るなら、我が居なくても大丈夫であろう?我は、久し振りにその辺を散歩してから帰る故、先に行くぞ?』

と言って、姿を消して飛び立って行った。

ーレフコース!?ー

「ん?レフコース殿は…どうした?」

ー耳元で話すのは…止めて下さい!ー

「あの…えっと…散歩…して帰るそう…です…」

「…そうか…」

優しい声。とても。あまりにも優しい声だったから、つい、カルザイン様の方へ視線を向けてしまった。

「ん?」

カルザイン様と目が合った。とても、優しい顔で微笑んでいる。

ー心臓が痛いー

「あの…近過ぎませんか?」

「離れると危ないが?」

ーですよね。分かってますー

「う゛ーん…」

熱くなった頬を両手で抑えながら唸る。

「ふっ…本当に…ハル殿は…可愛いな…。それじゃあ、ゆっくり進めるけど、もし怖かったら言ってくれ。ノア、宜しく頼むよ。」

そう言って、カルザイン様がノアに声を掛けると、ノアはゆっくりと歩きだした。


ーカっ…また…カワイイって言われた!うぇっ!?ー

あんなにも怖いと思っていたカルザイン様。何がどうなってるの?ちょっと…落ち着こう?落ち…着けるわけないよね!?

馬上で、1人脳内パニックを起こして、顔を真っ赤にした薬師。そんな薬師を後ろから優しく見守る、近衛騎士のエディオル=カルザイン。

この様子が、王都内に一気に広がったのは…言うまでもない。




『ふむ─。外堀からと言うやつだな?あの騎士も、なかなかやるなぁ。』

と、レフコースは嬉しそうに尻尾を揺らしながら囁いた。











「ハル殿、今日はお疲れ様。お願いの事、また宜しく頼む。では、私はこれからグレン様に用があるから、失礼する。」

「あ、はい。こちらこそ…今日はありがとうございました。また…2日後に…。」

パルヴァン邸に到着後、カルザイン様はロンさんの案内で、パルヴァン様の待つ部屋へ、私は迎えてくれたルナさんと自室へと向かった。







「疲れました…」

部屋に入って、フカフカのソファーにダイブしました。今だけは許して欲しい─。

「調査は、そんなに大変だったんですか?」

「──調査…」

ーあーっ!ソレ、スッカリ忘れてた!ー

「あー…あのー、ルナさん。喉が渇いたので、何か飲み物をもらえますか?」

「はい。すぐ用意をして来ます。」

そう言って、ルナさんは一度部屋から出て行った。


『主、お帰り。』

スルリと、レフコースが私の足元に現れた。

「…レフコース…」

ー裏切り者がここに居ますー

ジトリとした目で見ているのに、レフコースは何故かご機嫌なようで、尻尾がフリフリとよく動いている。

ーくそうっ…やっぱり可愛いなっ!!ー

我慢できずにレフコースに抱き付いた。

「…助けてくれたら良かったのに…」

『何から助けるのだ?馬乗りは…楽しくなかったのか?』

私が抱き付いているのにも関わらず、レフコースはコテンと首を傾げる。

ー楽しくなかったか?ー

あれからの帰り道は…いつもよりもグンと高い目線で、ゆっくりと町並みを眺めながら帰って来た。その間、カルザイン様はずっと…優しかったし、楽しくなかった訳じゃない─けど…。

「心臓が痛くて疲れたの…。」

『…主…』

レフコースのその声に、憐れみが含まれているような気がしたのは…気のせいにしておいた。




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