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第五章ー聖女と魔法使いとー

ランバルト=ウォーランド

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ミヤ様達が還った日の事は、まだ昨日の事のように覚えている。

あの日は雨だった。

ーまるで、私の気持ちを表しているようだなー

と思った。


もう最後だからとエスコートをした私に

『ありがとう。これからも、お元気で。』

初めて向けられた…花が綻ぶような笑顔。そして、もう二度と見ることのない笑顔だった。


神殿に入り、召喚の間に入った途端、ミヤ様達は私達には理解できない言葉─ミヤ様達の世界の言葉で話し始めた為に、私達は誰もミヤ様達に近付く事ができなかった。そこで改めて

ー本当に、住む世界が違うのだなー

と、現実を叩きつけられたようで、胸がギシリと音を立てた。その痛みは、今でも忘れられていない。

帰還の為の魔法陣が展開され、光が溢れ…光が弾けてなくなった後、そこにはもう誰も居なかった。
ただ、何故か彼女達のうち、誰かが着けていただろうブレスレットの魔石だけが、散らばって落ちていた。彼女達の黒と…何故か水色の魔石。

基本、イリスは自分とベラの色以外の色は身に着けない。ならば、この六つの魔石で三つのピアスを作って、“側近と揃えた”事にして身に着けようか─と。

あの魔石で作ったピアスを着けていると、何故かその日は体が軽くなるような気がした。ただ─ついついミヤ様を思い出してしまうから…毎日は着けられなかった。

そして、ミヤ様達が還ってから1年。予定通り、パルヴァン辺境地へ視察に向かう。
この視察でパルヴァンに行けば…少し位は前に進めるだろうか?

ミヤ様への気持ちをズルズル引き摺っていた私。父である国王陛下も、よく1年も待ってくれたなと思う。されど王太子。視察が終われば、今度こそ婚約を決めなければいけない。



でも、パルヴァンに行ったところで…何も変わらなかった。



『逆に思いが強くなったんじゃないか?』



クレイルに言われて、その通りだと思った。本当に、最後に思い切りふられるか、嫌われれば良かったと…心底思う。





視察を終え帰城した後は、本当に忙しかった。
視察の報告書を仕上げながら通常の公務をこなし、その合間に婚約者の選定。サボろうものなら、問答無用でイリスに仕事を増やされた。

そんな日々を送っていたある日─

神殿を中心に、恐ろしい程の魔力が王城敷地内全体を覆った。そして、その翌日。

「何故か分からないけど、発動させていないのに召喚の魔法陣が展開して…また、聖女様が1人…召喚されていた。」

と、魔導師であるクレイルが報告をしに来た。

1年経っても、この国には穢れは出ていない。だから、聖女を召喚する必要はないのに…何故だ?


「見た目で言うと、ミヤ様達と同じではないかと思う。その彼女も、取り乱す事なく、淡々としている感じだ。年齢は…若いと思う。」

クレイルが淡々と説明した後、色々調べる事があるからと、早々に部屋から去って行った。



「お前の婚約者選定は、表立っては一旦休止する。その代わり、お前には聖女様を頼む。」

と、父に言われ、その足で、その聖女様の部屋へと向かった。





「あの…初めまして…宮下 香みやした かおると言います。」

確かに、容姿で言うとミヤ様達と同郷である可能性が高かった。幼い見た目に反し、取り乱したり震えている事もない。

でも─

両手を組んで、私を窺うように見詰めてくる姿を見ていると、“守ってあげなくては”と思った。

私は以前、失敗していたから。1人震えるハル殿を助けてあげられなかったから。ハル殿には、聖女様達3人が居たけど、この子には他に誰も居ないから。私しか居ないから。



そう















「──何て思ってしまってね。カオル様を守れば、ハル殿の事が帳消しになるんじゃないかって…本当に、自分勝手な考えだったな…。その辺りからかな?時折記憶が曖昧になったりしたのは…。」

そうだ、今なら自己満足だと判る。カオル様とハル殿は、当たり前だが別人なんだ。

「…王太子様…」

目の前に居るハル殿に呼ばれて、ハッとする。

「あの事に関しては、私は王太子様からの謝罪を受け取りました。なので、それ以上のものは、私には必要ありません。」

ハル殿は、強い意思をもった目をしてハッキリと言い放った。ある意味…“拒絶”に近いのではと思う程。

は、私の弱さ…にも原因があったと思っています。王太子様だけが悪かった訳じゃなかったんです。もう一度言いますけど…あの事はもう終わった事…済んだ事なんです。だから、もう、あの事に必要は…無いんです。私は私であって…聖女様はハルではありません。」

そのハル殿の淡い水色の瞳を見ていると、頭の中にあったが晴れて行くようだった。

昨日飲んだお茶で、頭はスッキリしていた。

久し振りにピアスを身に着けると、体も軽くなっていた。

「あぁ…本当に…久し振りに…自分を取り戻した様な…気がする…。ありがとう…。」

スルリと口から出たその言葉に、ハル殿は優しく微笑んでくれた。



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