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第四章ー王都ー

カルザイン様

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「それで…帰還の魔法陣が展開された後に、ハル殿だけがパルヴァンに飛ばされたって訳か…。」


少し落ち着こう──

と、ハンフォルト様に促されて、各々が王太子様の執務室の椅子に座った。
所謂お誕生日席の1人掛けの椅子に王太子様。その反対側の1人掛けの椅子に私。私の向かって左側の3人掛けの椅子にハンフォルト様。右側の3人掛けの椅子にカルザイン様とダルシニアン様が座った。レフコースは、私の足元でくるんと丸まっている。安定の可愛さだ。変に緊張しないのも、レフコースのお陰だろうと思う。


「そうですね。あの時、キラキラ光ってたのがなくなった後、気付いたら、あのパルヴァンの森の中だったんです。本当に…お姉さん達が完璧に浄化してくれてて…良かったです。」

「あー…確かに。早朝とは言え、穢れがあれば魔獣が居ないとは限らないからね─って、そんの暢気な事を…。」

ダルシニアン様が少し呆れたようにため息を吐く。

「まぁ…思うところは色々あるけど…ハル殿が元気そうで…良かったよ。」

と、やっぱり少し困ったような感じで笑うダルシニアン様。

「えっと…。還れなかった時は辛くて、どうして?って思ったりしたんですけど…。パルヴァンの人達と過ごすうちに、そんな気持ちも少なくなって来て楽しい事が増えていって…今では、レフコースのお陰で、前を向いて進もうと思えたんです。私は、この世界で生きていくと決めました。還れなかった事、還れない事に関しては…もう…あまり気にしていません。」

そう言うが、誰も何も言わない。レフコースの耳だけが、ピクッと動いただけだった。

「だから…ですね?皆さんに辛そうな顔をされると…困ると言うか…いえ…そうです!困るんです!」

「え?」
「は?」
「「……」」

話しているうちに、少し変な方向にテンションが上がってしまい、ついつい声が大きくなってしまったが…自分で自分を止める事はできなくて─

「私、還れなかったけど、不幸じゃないんです!今、とっても幸せだなって思ってるんです!だから、勝手に憐れんだりするのは…止めて欲しいんです!」

握り拳作って言い切りました!って

ーはっ!目上年上貴族様々王子様々に叫んじゃったよ!!ー

「あの…すみません!」

間髪入れずに謝る。

ー何してるかなぁ?私…ー


「…ふっ…」

少しの沈黙の後、静かに笑ったのは─

「ハル殿は…可愛い人だな…。ハル殿が謝る必要はない。こちらこそ、勝手にハル殿の気持ちを推し量って勝手に憐れんでいただけだ。俺の方こそ…すまなかった。」

と、カルザイン様が優しく微笑む─

“カワイイヒトダナ”

ーって、何だ!?ー

どっ…何処にカワイイ要素があったの!?え?カルザイン様この人って、こんな事をサラッと言う人だったっけ!?あれ?私の事嫌ってなかったっけ!?

もう、脳内はパニックだ。
言葉が言葉にならなくて、口だけがパクパクと動いている─と思う。

『…主、息はした方が良いぞ?』

ーはっ!そうだね!ありがとう!レフコース!ー

じゃなくてー!!

と、今度はレフコースとわちゃわちゃしだした。

「…エディオルからが出てくるとは──って、え?エディオル…お前…ひょっとして─」

と、ランバルトがビックリした顔でエディオルを見る。

「「え?ランバルト、今頃気付いたの!?」」

と、クレイルとイリスは呆れたように、ランバルトを見た。

エディオルに至っては、それらに何の反応も示さず、ハルとレフコースがわちゃわちゃしているのを、目を細めて見ている。

「─知らなかった…。誰が分かると言うんだ!?全くそんな素振りはなかっただろう!?」

「まぁ…ランバルトはミヤ様の事でいっぱいいっぱいだったから、仕方無かったのかもね?それに、私とクレイルだから気付いたんだと思いますよ?─。」

「ぐっ─。イリスはいつも私の心を抉っていくのだな…。」

そんな3人のやりとりを、ハルは全く聞いていなかった。そんなハルとレフコースはと言うと…



『何を困っているのだ?主は普通に可愛いと思うぞ?』

ちょこんとお座りしたレフコースが、コテンと首を傾げて、私を可愛いと言う─そんなレフコースの方が可愛いから!と、むぎゅうっと、思わずレフコースの首に抱き付いてしまった。

「…かっ──」

「“か”?」

またダルシニアン様から出た。

ー“か”ー

何だろうと思い、ダルシニアン様の方へ振り向くと、ダルシニアン様は手で口元を隠して

「何でもない…。」

と言う。そのダルシニアン様を、イリス様は生暖かい視線を向け、カルザイン様は顔は笑っているのに目だけは笑ってない、そんな目で見ていた。


そんなダルシニアン様を一瞥した後、カルザイン様がスッと立ち上がり、私の前までやって来る。

「それでは…ハル殿、改めてだが。俺の名前はエディオル。エディオル=カルザイン。これからは、宜しく頼む。」

と、フワリと優しく微笑むカルザイン様。

ーこんなにも優しく笑む人だったんだー

そんな優しい笑顔を見ると、私も自然と笑顔になる。

「私の名前は…ハルです。こちらこそ、宜しくお願いします。」

ようやく、カルザイン様と正式に挨拶を交わす事ができたのだった。
















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