上 下
86 / 203
第四章ー王都ー

黒と浄化

しおりを挟む
「……」

結果から言えば、魔法で出した水で淹れた紅茶を飲んでもらったら…黒いの…消えました。自分の目でしっかり確認できました。

「あれ?何だろう…頭が…スッキリする…。」

ハンフォルト様が、手にしたティーカップを見つめたまま呟く。

「イリス…。」

その言葉を受けて、何故かダルシニアン様が眉間に皺を寄せる。

「?えっと…ハンフォルト様は…お疲れ?だったのですか?」

「……いや…疲れと言うか…」

ティーカップを見つめ、そのまま言い淀む。
代わりに口を開いたのは、ダルシニアン様だった。

「薬師としての意見を聞きたいのだけど…話を聞いてもらっても?」

いつもの明るい感じのダルシニアン様ではなく、ピリッと空気が張り詰める雰囲気なので、私も姿勢を正す。

「私で良ければ…。」



ー他言無用でー


と、ダルシニアン様は話し出した。











「…それは…いつからですか?」

「イリスはここ最近だけど、一番酷く症状が出ている者に関しては…2、3ヵ月前からかな…。」

ー2、3ヶ月前…何かあったかなぁ?ー

「パルヴァンでは…そんな症状の人は…居ませんね。」

「そう…か…。」

「因みに、原因と言うか…何かをした後に酷くなるとか…ありますか?」

ハンフォルト様は、考えるように目を瞑る。

「あぁ…関係あるかどうか分かりませんが、私のベラ…私の婚約者であるベラトリス王女と会えない期間が長くなると…頭が重たくなる気がしますね。」

ー“私の”って要る?ー

と、クレイルとティモスとハルは思ったが、ここでは誰も突っ込まなかった。

ーベラトリス様かぁー

ハンフォルト様の基準が、ベラトリス様って事…なのかな?あ、レオン様タイプの人って事かな?

うーん…何だろう…何かが引っ掛かるんだけど…。
ただ一つ確かなのは、浄化すると消える黒いもの。ならば、悪化しないように今みたいに浄化すれば良い。原因追求は、それからでも大丈夫だろう。

「今はもう手持ちがないので無理ですけど、今飲んだ紅茶には…癒し効果のある薬草を入れてまして…。明日パルヴァン邸に戻るので、調合してお渡ししましょうか?」

「本当に?それは助かります。お金も支払いますから。頂けるなら、お願いします。」

「分かりました。また、レオン様かパルヴァン様にお願いして、持って来ますね。」


それから、また暫くの時間、昨日の話をしてから、ダルシニアン様とハンフォルト様は王城へと戻って行った。













頭の中が、霧が掛かったように判断力が鈍くなる

時折、記憶が曖昧な事がある


うーんうーんと唸りながら考えていると



『一番酷い症状が出ているのは、主の魔力が込められた魔石をピアスにしている3人のうちの1人だ。』

「うえっ!?そ…それって─…」


ー王太子様じゃないの─!?ー

あれ?でもおかしくない?あの魔石には、防御の魔法を掛けている。その魔石を身に着けている人に害を成そうとする物全てから、その身を護るように。ならば、王太子様が、あの黒いものに囚われるなんて事にはならない筈。

『勿論そうだ。でも、アレは毎日そのピアスを着けていないのだ。我が地下に居る時に、たまに我の様子を見に来ていたが、着けていない時もあった。あの騎士と魔導師は、毎日着けているな。』

あぁ、そうか。王太子様は公務の関係上外す事があるかもしれない。ベラトリス様がそうだったから。

あ─!ベラトリス様だ!イリス様は、ベラトリス様が身に着けてるブレスレットで間接的に浄化されてるんだ!だから、ベラトリス様と会えない期間が長くなると酷くなるんだ。

「王太子様やその側近の人達に手を出すって…ヤバくないの?誰が何の目的で?ん?ひょっとして…ダルシニアン様とカルザイン様は、毎日着けてるから…黒いのに囚われてなかった?」

『その可能性はあるな。』

えーっと…どうする?王太子様に、ピアスを毎日着けろなんて言えないし…。

「取り敢えず、ハンフォルト様と約束したから、紅茶の葉に浄化の魔法でも掛けておこうかな…。それを多めに作って渡せば…うまくいけば王太子様の口に入るかもしれない…よね。あの黒いのが酷くなると、どうなるんだろう?」

『それは、我にも分からぬ。昔にはなかった魔術だろう。主が気になるなら、我も色々探ってみようか?』

「レフコースに危険がないなら…お願いして良い?」

『分かった。ところで、この3人と…後2人ブレスレットを着けている者達は、主にとっては大切な者達なのか?』

ー大切な者達ー

ブレスレットを着けている2人とは、ベラトリス様とサエラさんの事だろう。勿論、この2人は私にとっては恩人でもあるし、大好きで大切な人だ。

あの3人は…

「大切かと訊かれると…答えに悩むけど、困っているなら助けてあげたいと思う。特に。カルザイン様には助けてもらってばかりだから…。ブレスレットの2人は、私の大好きな人達の事だと思う。会う事があったら、レフコースに必ず紹介するね。」

『それは、楽しみだ。』

レフコースはニッコリ微笑んだ。














しおりを挟む
感想 152

あなたにおすすめの小説

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

「結婚しよう」

まひる
恋愛
私はメルシャ。16歳。黒茶髪、赤茶の瞳。153㎝。マヌサワの貧乏農村出身。朝から夜まで食事処で働いていた特別特徴も特長もない女の子です。でもある日、無駄に見目の良い男性に求婚されました。何でしょうか、これ。 一人の男性との出会いを切っ掛けに、彼女を取り巻く世界が動き出します。様々な体験を経て、彼女達は何処へ辿り着くのでしょうか。

異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。

バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。 全123話 ※小説家になろう様にも掲載しています。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない

猪本夜
ファンタジー
2024/2/29……3巻刊行記念 番外編SS更新しました 2023/4/26……2巻刊行記念 番外編SS更新しました ※1巻 & 2巻 & 3巻 販売中です! 殺されたら、前世の記憶を持ったまま末っ子公爵令嬢の赤ちゃんに異世界転生したミリディアナ(愛称ミリィ)は、兄たちの末っ子妹への溺愛が止まらず、すくすく成長していく。 前世で殺された悪夢を見ているうちに、現世でも命が狙われていることに気づいてしまう。 ミリィを狙う相手はどこにいるのか。現世では死を回避できるのか。 兄が増えたり、誘拐されたり、両親に愛されたり、恋愛したり、ストーカーしたり、学園に通ったり、求婚されたり、兄の恋愛に絡んだりしつつ、多種多様な兄たちに甘えながら大人になっていくお話。 幼少期から惚れっぽく恋愛に積極的で人とはズレた恋愛観を持つミリィに兄たちは動揺し、知らぬうちに恋心の相手を兄たちに潰されているのも気づかず今日もミリィはのほほんと兄に甘えるのだ。 今では当たり前のものがない時代、前世の知識を駆使し兄に頼んでいろんなものを開発中。 甘えたいブラコン妹と甘やかしたいシスコン兄たちの日常。 基本はミリィ(主人公)視点、主人公以外の視点は記載しております。 【完結:211話は本編の最終話、続編は9話が最終話、番外編は3話が最終話です。最後までお読みいただき、ありがとうございました!】 ※書籍化に伴い、現在本編と続編は全て取り下げとなっておりますので、ご了承くださいませ。

元アラサー転生令嬢と拗らせた貴公子たち

せいめ
恋愛
 侯爵令嬢のアンネマリーは流行り病で生死を彷徨った際に、前世の記憶を思い出す。前世では地球の日本という国で、婚活に勤しむアラサー女子の杏奈であった自分を。  病から回復し、今まで家や家族の為に我慢し、貴族令嬢らしく過ごしてきたことがバカらしくなる。  また、自分を蔑ろにする婚約者の存在を疑問に感じる。 「あんな奴と結婚なんて無理だわー。」  無事に婚約を解消し、自分らしく生きていこうとしたところであったが、不慮の事故で亡くなってしまう。  そして、死んだはずのアンネマリーは、また違う人物にまた生まれ変わる。アンネマリーの記憶は殆ど無く、杏奈の記憶が強く残った状態で。  生まれ変わったのは、アンネマリーが亡くなってすぐ、アンネマリーの従姉妹のマリーベルとしてだった。  マリーベルはアンネマリーの記憶がほぼ無いので気付かないが、見た目だけでなく言動や所作がアンネマリーにとても似ていることで、かつての家族や親族、友人が興味を持つようになる。 「従姉妹だし、多少は似ていたっておかしくないじゃない。」  三度目の人生はどうなる⁈  まずはアンネマリー編から。 誤字脱字、お許しください。 素人のご都合主義の小説です。申し訳ありません。

最初から勘違いだった~愛人管理か離縁のはずが、なぜか公爵に溺愛されまして~

猪本夜
恋愛
前世で兄のストーカーに殺されてしまったアリス。 現世でも兄のいいように扱われ、兄の指示で愛人がいるという公爵に嫁ぐことに。 現世で死にかけたことで、前世の記憶を思い出したアリスは、 嫁ぎ先の公爵家で、美味しいものを食し、モフモフを愛で、 足技を磨きながら、意外と幸せな日々を楽しむ。 愛人のいる公爵とは、いずれは愛人管理、もしくは離縁が待っている。 できれば離縁は免れたいために、公爵とは友達夫婦を目指していたのだが、 ある日から愛人がいるはずの公爵がなぜか甘くなっていき――。 この公爵の溺愛は止まりません。 最初から勘違いばかりだった、こじれた夫婦が、本当の夫婦になるまで。

処理中です...