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第三章ーパルヴァン辺境地ー

最初の一歩

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*本日、2話目の投稿です*









「爪が……」

「…はい。なので…どうやら私は…元の世界へは還れない…みたいです。」

「「………」」

昨日の夜寝る前に、爪が伸びている事に気付いた。そして今日、パルヴァン様もシルヴィア様も時間があると言う事で、2人に話をした。2人とも黙ってしまったので、そのまま私が話を続ける。

「なので、私は王城へは行きません。私が還れなかった事も…知られたくありません。できるのであれば、このまま…薬師として…この世界で生きていきたい…と思っています。」

「ハル殿…本当に、王には…知らせなくていいのか?ハル殿自身が王城…王都に行かなくても“還れなかった”と訴えて、保護や生活の保証を受ける事は可能だと思うが…。」

「要りません。この世界で生きていかなければならないのなら…私は自分の力で立って生きていきたいんです。元の世界でだって…そう言う生き方をして来たんです。世界が違っても、私は私でありたい…。」

本当に、貴族なんて、まっぴらごめんだ。王族の後ろ楯なんか要らない。

「…そうか…。」

パルヴァン様は、そう囁いた後、眉間にグッと皺を寄せ静かに目を瞑った。






「ハル殿が望むのであれば、私が王へ、ハル殿の事を報告する事はしない。ハル殿が聖女だったら報告しなければいけないが…ハル殿はだったからな。」

ー実は“魔法使い”なんですー 

とは、絶対に言いません。言わなくて良かった。

「薬師として…と言ったが、ハル殿はこちらの世界の一般的な常識や平民の暮らしは分からないだろう?例えば…どこで何を売っていて、それがいくらするのか。お金の価値も分からないだろうし、こちらのお金は持っていないだろう?」

「はい。王城に居た時に、私の分も生活費と私が自由に使って良いお金を頂いていて、あまり使わなかったので、それなりに貯まっていたんですけど、元の世界では不要な物だったので、手持ちのお金は全額お返ししましたから…。」

還れないなんて思ってなかった。こうなると分かってたら…少しでも貰ってたけど…。いや、でもあのお金は“税金”?みたいな物だろう。それならば、やっぱり返して来て正解だっただろう。

「それで、パルヴァン様。図々しいお願いだと理解してるんですけど…私がお金が稼げるようになって、ある程度お金が貯まるまで…ここに置いてもらう事は…できませんか?」

パルヴァン様はきっと…断れない。それが分かっててお願いをする私は…なんて卑怯な奴なんだろうか…。後ろめたくて、まともにパルヴァン様の顔を見れず、視線を自分の手元に落とす。

すると、その私の視線の先にある私の手に誰かの手が重ねられた。

ハッとして、その手の主に目をやると、シルヴィア様が私の横に座り私の顔を覗きこんで来た。

「ハル殿、それは違う。図々しいお願いなんかではない。ハル殿は被害者だ。もっと、私達に甘えて良いんだよ?グレンを助けてもらった恩もあるけど、私達はただ純粋にハル殿を助けたいと思っている。すぐに出て行く事なんて考えなくて良いから、ここでゆっくり、これからの事を考えれば良い。それこそ、これからの人生の方が長くなるんだ。急がない方が良いと…私は思う。」

「シルヴィア様…」

シルヴィア様が、私の手に重ねた手で優しく握ってくれる。

「それで、だ。ハル殿、このまま暫くアンナと一緒に薬師として働きながら、この世界の一般的な事も勉強してはどうだ?期間は気にせずに。我々だって、この世界を知らないままハル殿を外に出す事はしたくないからな。それで、お互いが納得できるようになったら、その時はその時で、またどうするか話し合って決めよう。」

普段は厳つい顔のパルヴァン様だけど、何だか捨てられた犬?みたいな顔をするパルヴァン様。本当に、私の事を考えてくれているのが判る。シルヴィア様もだ。還れなかったけど…飛ばされた場所がパルヴァン辺境地ここで良かった。

「あ、それで…これから私の時間が進むという事で、そのうちバレてしまうと思うんですけど、私、本当の髪の色はプラチナブロンドなんです。それと…この眼鏡は伊達…自分の瞳の色を変える為に掛けているだけなんです。」

と言いながら眼鏡を外して、前髪を軽くかき上げてパルヴァン様とシルヴィア様に見せる。

「「……」」

「元の世界の私の国では、この容姿が少し異端?で、苛められた事があって…。それがトラウマ?みたいになったので、私の国の一般的な容姿に変えていたんです。髪は、染めているだけなので、伸びて来るところからはプラチナブロンドの色になります。瞳は薄い水色?灰色?みたいな。でも、その色の方が、この世界に馴染めそうですよね?」

「「……」」

ー何だろう…さっきからパルヴァン様もシルヴィア様も固まったままなんだけど…??ー

「えっと、なので、今日からは、眼鏡も外そうかと思ってます。もう…ここでは隠す必要無いかなーと。えっと…もしかして…変だったりしますか?」

あまりにも反応が無いから、不安になって来た。

「大丈夫!変ではないから!ちょっと…ビックリしただけだから!」

「そーですか?なら…良かったです。」


今日、この世界での本当の意味での最初の一歩を踏み出した。


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