上 下
38 / 203
第三章ーパルヴァン辺境地ー

パルヴァン邸

しおりを挟む
*本日、2話目の投稿です*









「だから…1ヶ月…1ヶ月だけで良いので、その間ここに置いてくれませんか?それと…私がここに居る事は…出来れば誰にも知られたくないんです。」

「ハル殿…。もし…もし、還れないとなった場合はどうするつもりだ?」

「その場合は…私は“薬師”の資格を持っているので、何処かで薬師としてやっていければと思ってます。還れないなら…しっかり自分の足で立って前に…進みたいから…。」

王様に助けを求めたら、きっと助けてくれるだろう。ベラトリス様だって喜んで迎えてくれると思う。でも、やっぱり怖いのだ。貴族の世界は怖いー。贅沢なんていらない。1人で立って、食べていけたらそれで良い。

パルヴァン様は暫くの間逡巡した後

「分かった。取り敢えずは、1ヶ月はここで過ごしてくれ。その後の事は、還れるかどうかで変わって来るから、その時に話し合おう。勿論…ハル殿がここに居る事は箝口令を敷こう。」

「ありがとうございます!」

「ははっ、これ位の事…恩返しにもならんな!」

パルヴァン様は豪快に笑う。

「それで…ここに居る間、私に出来ることはありますか?ただ置いてもらうだけと言うのは…どうも心苦しくて。」

「ふむ。ハル殿の事だ、ゆっくりしろと言っても無理だろうから…薬師の仕事をしてはどうだ?ここは辺境地故に冒険者も多い。ポーションはいくらあっても困る事はないからな。我が邸にも専属の薬師が居るから、その薬師にお願いしておこう。」

「はい、ありがとうございます。」

薬師の仕事とは有難い。
もし還れないとなれば、その時の役に立つ。

兎に角、1ヶ月。正直、変化なんて1ヶ月も経たずに判るだろう。ただ、心の整理もしたいからの1ヶ月だ。

「あぁ、忘れてた。ハル殿、はいコレ。」

と、シルヴィア様があのピアスを私の手の平に、チョコンと乗せてくれる。

「聖女様が浄化してくれた直後だから大丈夫だと思うけど、この辺境地に居るのなら、身に着けておいた方が良い。お守りとしてね。」

「そう…ですね。折角戴いた素敵なピアスだから、着けさせてもらいますね。」

私がニコリと笑うと、 シルヴィア様も優しく微笑んでくれた。



私にはパルヴァン邸の2階にある客室の一室があてがわれた。1LDKに住んでいた私にとって、十分過ぎる程の広さだけど、王城の時の部屋よりこぢんまりしてて、幾分かここの方が落ち着く。そして、私付きの侍女が2人できてしまった。私なんかに…と思ったが、この世界のルールなので仕方無い。

「私なんかに付いてもらって、すみません。」

と謝ったら

「何を仰っていますか!?ハル様はパルヴァン様の命の恩人でございます!!ハル様に付く為にんです!!光栄以外の何物でもありません!!」

ーか…勝ち!?ー

ちょっと意味が分からないけど…とは全く違う感じの人達で安心した。

茶色の髪を後ろで一つに纏めていて、少しつり目のルナさんと、肩までの黒い髪でパッチリ目のリディさん。2人ともお姉さん達と同じ25歳。パルヴァン辺境地の子爵令嬢らしい。2人とも辺境地の貴族らしく、武術にも長けている為、私にとっては、侍女兼護衛といったところらしい。

“侍女”ではなく、“お姉さん”が身近にいると言うのは…何となく落ち着く気がするなぁ…。ここに居る1ヶ月の間、仲良くできれば良いなぁ。

そう思いながら、三日ぶりにふかふかのベッドに潜り込んだ。








ーパルヴァン夫婦の寝室にてー



「グレンは…どう思った?」

ベッドのサイドに置いてある3人掛けのソファーに座ったシルヴィアが、ワインを飲みながら夫であるグレンに問い掛けた。

「どうも何も、よほど王都…貴族が嫌なのか…位か?普通、あの若さで知らない世界に取り残されたら…非はこちらにあるから、何が何でも王族に面倒みてもらうぞとか…なると思ったが…」

「それもそうだけど…ハル殿は…取り乱すどころか、泣いてもいないし、召喚した側の人間を一切責めていない。そう言うタイプの人間はね、他人を…信用していないって事だよ。そして…時は…一気にしまうんだ。私は、それが怖いと思った。だから、ハル殿がパルヴァンここに居たいと言うなら、ここで守ってあげたい。」

「シルヴィアは、ハル殿達が召喚された頃の噂を聞いた事はあるか?」

「あぁ、これでも一応は、元王妃付きの近衛騎士だったからね。今でも噂好きの女騎士達が、色んな情報をくれるんだよ。ハル殿は…余程辛い思いをしたんだろうね。」

「そうだな…。とにかく、ここでは安心して過ごせる様にゼンに言っておこう。あぁ、それと、レオンとカテリーナにも言っておいた方が良いな。明日本邸こっちに呼び出すか。」

明日の流れを考えながら、2人は眠りに就いた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫と妹に裏切られて全てを失った私は、辺境地に住む優しい彼に出逢い、沢山の愛を貰いながら居場所を取り戻す

夏目萌
恋愛
レノアール地方にある海を隔てた二つの大国、ルビナとセネルは昔から敵対国家として存在していたけれど、この度、セネルの方から各国の繁栄の為に和平条約を結びたいと申し出があった。 それというのも、セネルの世継ぎであるシューベルトがルビナの第二王女、リリナに一目惚れした事がきっかけだった。 しかしリリナは母親に溺愛されている事、シューベルトは女好きのクズ王子と噂されている事から嫁がせたくない王妃は義理の娘で第一王女のエリスに嫁ぐよう命令する。 リリナには好きな時に会えるという条件付きで結婚に応じたシューベルトは当然エリスに見向きもせず、エリスは味方の居ない敵国で孤独な結婚生活を送る事になってしまう。 そして、結婚生活から半年程経ったある日、シューベルトとリリナが話をしている場に偶然居合わせ、実はこの結婚が自分を陥れるものだったと知ってしまい、殺されかける。 何とか逃げる事に成功したエリスはひたすら逃げ続け、力尽きて森の中で生き倒れているところを一人の男に助けられた。 その男――ギルバートとの出逢いがエリスの運命を大きく変え、全てを奪われたエリスの幸せを取り戻す為に全面協力を誓うのだけど、そんなギルバートには誰にも言えない秘密があった。 果たして、その秘密とは? そして、エリスとの出逢いは偶然だったのか、それとも……。 これは全てを奪われた姫が辺境地に住む謎の男に溺愛されながら自分を陥れた者たちに復讐をして居場所を取り戻す、成り上がりラブストーリー。 ※ ファンタジーは苦手分野なので練習で書いてます。設定等受け入れられない場合はすみません。 ※他サイト様にも掲載中。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

【完結】11私は愛されていなかったの?

華蓮
恋愛
アリシアはアルキロードの家に嫁ぐ予定だったけど、ある会話を聞いて、アルキロードを支える自信がなくなった。

欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします

ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、 王太子からは拒絶されてしまった。 欲情しない? ならば白い結婚で。 同伴公務も拒否します。 だけど王太子が何故か付き纏い出す。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ

吸血鬼公爵に嫁いだ私は血を吸われることもなく、もふもふ堪能しながら溺愛されまくってます

リオール
恋愛
吸血鬼公爵に嫁ぐこととなったフィーリアラはとても嬉しかった。 金を食い潰すだけの両親に妹。売り飛ばすような形で自分を嫁に出そうとする家族にウンザリ! おまけに婚約者と妹の裏切りも発覚。こんな連中はこっちから捨ててやる!と家を出たのはいいけれど。 逃げるつもりが逃げれなくて恐る恐る吸血鬼の元へと嫁ぐのだった。 結果、血なんて吸われることもなく、吸血鬼公爵にひたすら愛されて愛されて溺愛されてイチャイチャしちゃって。 いつの間にか実家にざまぁしてました。 そんなイチャラブざまぁコメディ?なお話しです。R15は保険です。 ===== 2020/12月某日 第二部を執筆中でしたが、続きが書けそうにないので、一旦非公開にして第一部で完結と致しました。 楽しみにしていただいてた方、申し訳ありません。 また何かの形で公開出来たらいいのですが…完全に未定です。 お読みいただきありがとうございました。

【完結】出ていってください。ここは私の家です。〜浮気されたので婚約破棄してお婿さん探します!〜

恋愛
ある日帰宅すると、同居中の婚約者が女性を連れ込んだと聞いたシュテファニ。 使用人を連れて寝室に向かうがーー 扉を開けるとそこでは、見たくもない行為が繰り広げられていた。 「あの人が執務なんてするわけないわ。」 「行かないほうがいいですよ。」 「お嬢様はティールームでお待ちください。」 シュテファニ・アイブリンガーは、頭の悪い婚約者を家から追い出すことができるのか。 そしてその先に―― 初めましての人もそうでない人も、お楽しみいただけたら嬉しいです。 ※※※性的表現があるところは「※」つけます。 大人が見たら笑っちゃうくらいのものですが一応。ご注意を! R18です!! おかしな性的言動?だったりが目立つところもつけときます。 ※※※ざまぁが始まるとわりと残酷ですのでご注意ください!! 自己責任でお願いします。R18です!! ※よくある設定ですが完全オリジナルです。 ※敬語尊敬語滅茶苦茶御免!(なさい) ※婚約者がアホなので注意! ※いろいろ思うところはあるかもですがルトガーは一途なだけです。 ※他サイトに掲載時とはラストが変わっております。 ※他サイトでも公開中 話としては30話で完結です! 番外編数話あり。 お読みくださってありがとうございます!!

婚約者の恋人

クマ三郎@書籍発売中
恋愛
 王家の血を引くアルヴィア公爵家の娘シルフィーラ。  何不自由ない生活。家族からの溢れる愛に包まれながら、彼女は社交界の華として美しく成長した。  そんな彼女の元に縁談が持ち上がった。相手は北の辺境伯フェリクス・ベルクール。今までシルフィーラを手放したがらなかった家族もこの縁談に賛成をした。  いつかは誰かの元へ嫁がなければならない身。それならば家族の祝福してくれる方の元へ嫁ごう。シルフィーラはやがて訪れるであろう幸せに満ちた日々を想像しながらベルクール辺境伯領へと向かったのだった。  しかしそこで彼女を待っていたのは自分に無関心なフェリクスと、病弱な身体故に静養と称し彼の元に身を寄せる従兄妹のローゼリアだった……

処理中です...