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2人への罰
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「殿下と私の間には、確かに信頼関係はありました。でも、その信頼関係を壊したのは殿下本人です。切っ掛けはどうであれ、一方的に壊しておいて、一方的に回復させようとしただけです。すまなかった─と謝っておいて、何も言わなくていいとか─アレは、謝罪でもなんでもありませんから。それで、私の為に頑張ったのに─と言われても、私は困るだけです。殿下と私の間に、“これから”なんてありません。本当に、今更なんです。結構なんです!」
ー──って、言い過ぎた!?ー
ハッとして王妃様を見ると、王妃様は「良く言ったわ!」と言わんばかりの笑顔だった。
「──失礼ながら…王妃様。王妃様は…メルヴィル様が、本当はフェリシティ…様を選んだと分かった上で…色を間違ったまま…私の青色としてティアラを作らせた…と言う事でしょうか?」
すっかり存在を忘れてしまっていたけど、ティアリーナ様が今にでも消えてしまいそうな程のか細い声で、王妃様に問い掛けた。
確かにそうだ。私にとってはそれで良かったのだけど、第一王子が間違っていると分かった上で、そのまま作らせたのは何故?しかも、間違って作って婚約者に選ばれた事を、本人に言う必要があったのだろうか?そんな事をすれば、例えティアリーナ様が王子としてではなく、メルヴィル様が好きだったとしても、信頼関係が壊れてしまうかもしれないのに。
「えぇ、そうよ。メルヴィルがフェリシティ嬢を選んだけれど、ティアリーナ嬢の青色を持って来たと、分かった上で訂正する事なく作らせたわ。」
「──っ!何故…その様な事を!?」
「何故か?その理由は大きく分けて二つよ。一つ目は、メルヴィルがフェリシティ嬢との信頼関係を壊したから。修復すると言いながらも何もしなかったから。瞳の色さえ知らない相手と結婚して、どうやって信頼関係を築くの?王子だからと、無理が通るとでも思ったの?」
第一王子は、何も言えずに俯いたままだ。
王妃様は、そんな第一王子を一瞥した後、右手の2本の指を立てて、今度はティアリーナ様を見据えた。
「二つ目は、ティアリーナ嬢、あなたよ。あなたは、嘘でフェリシティ嬢を蹴落とした。」
ヒュッ─と、ティアリーナ様が息を呑んだ音がした。
「確かに、王妃ともなれば、綺麗事で済む事ばかりではないわ。時には非情な選択をしなければいけない事もある。自分が勝ち抜く為に、ライバルを蹴落とす事を、悪い事とは言わないわ。でもね、蹴落とした理由が嘘と言うのが問題なのよ。まだまだ若い、これから未来のある令嬢を嘘で陥れて…フェリシティ嬢にキズがついたらどうするつもりだったの?」
ーあぁ、王妃様は、本当に全てを把握していたのねー
なら、私が第一王子を避けていた事も、わざと顔を合わせないようにしていたのもバレバレだったのかもしれない。
「そんな…私は…ただ……メルヴィル様をお慕いしていただけで……」
胸の前で組んでいる手に力が入っているのか、フルフルと震えていて、目には涙がたまっているティアリーナ様。
それが意味するのは、ショックからの悲嘆か、私への憎悪なのか───
「なら、嘘ではなく、正々堂々と自分を磨いてアピールをすれば良かったのよ。“嘘で手に入れた嘘の恋”はどう?」
「──っ!」
「フェリシティ嬢自身が、メルヴィルから距離をとった事と、周りの友人達のお陰もあって、フェリシティ嬢の悪意のある噂も真実ではないと分かってもらえたけれど、それは、運が良かっただけ。それで、ティアリーナ嬢の罪が消える訳ではないの。あなたの嘘のせいで、メルヴィルとフェリシティ嬢の関係が壊れた。これを切っ掛けにメルヴィル自身も愚か者に成り下がった。」
王妃様は、立てていた2本の指を下ろし、先程まで浮かべていた笑顔を一転させ、冷たい目で第一王子とティアリーナ様を見据えた。
「メルヴィルに色の指摘をしなかったのも、色違いで選ばれた事をティアリーナ嬢に伝えた事も、そんな理由で結婚させる事も───貴方達2人への罰よ。今迄、無条件で信じ合って来た2人なのだから、こんな事位で信頼関係が壊れる事はないでしょう?お似合いの2人だと思っているわ。」
と、王妃様は、またニッコリと笑う。
「あぁ、そうそう。一つだけ……。パーティーの最中に“選んだのはティアリーナ嬢ではなく、フェリシティだ!”なんて叫ばなかった事は褒めてあげるわ。折角の卒業お祝いのパーティーですもの。他の者達に迷惑を掛けなかった事だけは、良かったわ。」
ふふっ─と、王妃様は愉しそに笑っている。
ーあれ?第一王子って、実の息子でしたよね?容赦無さ過ぎではありませんか?ー
いや、実の息子─王子であるからこそ──なのかもしれない。こんな立派な親なのに……どうして第一王子は…こうなってしまったんだろう?
「取り敢えず、今日はもう遅いわ。グレイソン邸とエルダイン邸には遣いを飛ばしてあるから、ティアリーナ嬢とフェリシティ嬢は、今日は城に泊まってちょうだい。それと、明日も少し話があるから、呼び出しがあるまで城に滞在していてちょうだいね。」
と王妃様に言われて、私達3人は王妃様の執務室を後にした。
ー──って、言い過ぎた!?ー
ハッとして王妃様を見ると、王妃様は「良く言ったわ!」と言わんばかりの笑顔だった。
「──失礼ながら…王妃様。王妃様は…メルヴィル様が、本当はフェリシティ…様を選んだと分かった上で…色を間違ったまま…私の青色としてティアラを作らせた…と言う事でしょうか?」
すっかり存在を忘れてしまっていたけど、ティアリーナ様が今にでも消えてしまいそうな程のか細い声で、王妃様に問い掛けた。
確かにそうだ。私にとってはそれで良かったのだけど、第一王子が間違っていると分かった上で、そのまま作らせたのは何故?しかも、間違って作って婚約者に選ばれた事を、本人に言う必要があったのだろうか?そんな事をすれば、例えティアリーナ様が王子としてではなく、メルヴィル様が好きだったとしても、信頼関係が壊れてしまうかもしれないのに。
「えぇ、そうよ。メルヴィルがフェリシティ嬢を選んだけれど、ティアリーナ嬢の青色を持って来たと、分かった上で訂正する事なく作らせたわ。」
「──っ!何故…その様な事を!?」
「何故か?その理由は大きく分けて二つよ。一つ目は、メルヴィルがフェリシティ嬢との信頼関係を壊したから。修復すると言いながらも何もしなかったから。瞳の色さえ知らない相手と結婚して、どうやって信頼関係を築くの?王子だからと、無理が通るとでも思ったの?」
第一王子は、何も言えずに俯いたままだ。
王妃様は、そんな第一王子を一瞥した後、右手の2本の指を立てて、今度はティアリーナ様を見据えた。
「二つ目は、ティアリーナ嬢、あなたよ。あなたは、嘘でフェリシティ嬢を蹴落とした。」
ヒュッ─と、ティアリーナ様が息を呑んだ音がした。
「確かに、王妃ともなれば、綺麗事で済む事ばかりではないわ。時には非情な選択をしなければいけない事もある。自分が勝ち抜く為に、ライバルを蹴落とす事を、悪い事とは言わないわ。でもね、蹴落とした理由が嘘と言うのが問題なのよ。まだまだ若い、これから未来のある令嬢を嘘で陥れて…フェリシティ嬢にキズがついたらどうするつもりだったの?」
ーあぁ、王妃様は、本当に全てを把握していたのねー
なら、私が第一王子を避けていた事も、わざと顔を合わせないようにしていたのもバレバレだったのかもしれない。
「そんな…私は…ただ……メルヴィル様をお慕いしていただけで……」
胸の前で組んでいる手に力が入っているのか、フルフルと震えていて、目には涙がたまっているティアリーナ様。
それが意味するのは、ショックからの悲嘆か、私への憎悪なのか───
「なら、嘘ではなく、正々堂々と自分を磨いてアピールをすれば良かったのよ。“嘘で手に入れた嘘の恋”はどう?」
「──っ!」
「フェリシティ嬢自身が、メルヴィルから距離をとった事と、周りの友人達のお陰もあって、フェリシティ嬢の悪意のある噂も真実ではないと分かってもらえたけれど、それは、運が良かっただけ。それで、ティアリーナ嬢の罪が消える訳ではないの。あなたの嘘のせいで、メルヴィルとフェリシティ嬢の関係が壊れた。これを切っ掛けにメルヴィル自身も愚か者に成り下がった。」
王妃様は、立てていた2本の指を下ろし、先程まで浮かべていた笑顔を一転させ、冷たい目で第一王子とティアリーナ様を見据えた。
「メルヴィルに色の指摘をしなかったのも、色違いで選ばれた事をティアリーナ嬢に伝えた事も、そんな理由で結婚させる事も───貴方達2人への罰よ。今迄、無条件で信じ合って来た2人なのだから、こんな事位で信頼関係が壊れる事はないでしょう?お似合いの2人だと思っているわ。」
と、王妃様は、またニッコリと笑う。
「あぁ、そうそう。一つだけ……。パーティーの最中に“選んだのはティアリーナ嬢ではなく、フェリシティだ!”なんて叫ばなかった事は褒めてあげるわ。折角の卒業お祝いのパーティーですもの。他の者達に迷惑を掛けなかった事だけは、良かったわ。」
ふふっ─と、王妃様は愉しそに笑っている。
ーあれ?第一王子って、実の息子でしたよね?容赦無さ過ぎではありませんか?ー
いや、実の息子─王子であるからこそ──なのかもしれない。こんな立派な親なのに……どうして第一王子は…こうなってしまったんだろう?
「取り敢えず、今日はもう遅いわ。グレイソン邸とエルダイン邸には遣いを飛ばしてあるから、ティアリーナ嬢とフェリシティ嬢は、今日は城に泊まってちょうだい。それと、明日も少し話があるから、呼び出しがあるまで城に滞在していてちょうだいね。」
と王妃様に言われて、私達3人は王妃様の執務室を後にした。
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