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「時間も遅いわ。メルヴィル、言いたい事があるなら言いなさい。」
4人でソファーに座ってから、目をキョロキョロさせるだけだった第一王子に、王妃様は話をするように促す。
すると、第一王子はチラリと、自分の横に座っているティアリーナ様を見た。
「ティアリーナ嬢は……」
「ここに居てもらうわ。ティアリーナ嬢も、聞かなければ……知っておかなければいけない事だもの。」
「分かりました………」
第一王子は、顔を顰めながらも了承する─了承するしかない。
その横に座っているティアリーナ様は、何も分からないのだろう。ただただ、今のこの状況に付いて行けずに戸惑っている。
第一王子は、一度目を閉じて息を吐いた後、ゆっくりと口を開いた。
「私は……フェリ……フェリシティを思ってティアラのブルーダイヤモンドを選んだのです。」
「────え?」
第一王子の言葉に反応したのは、ティアリーナ様だけだった。
*時間は遡って、今日の4時少し前*
コンコン
「──失礼致します。入室、宜しいでしょうか?」
と、ドアの外側から声が掛かった。
私がココに視線を向けてコクリと頷くと、ココは扉を開けた。
すると、そこには布が掛けられたトレーを持った、王妃様付きの侍女─侍女長が立っていた。
「第一王子メルヴィル様より、“第三の部屋に、ティアラを持って行くように”と言われましたので、第三の部屋であるこちらの部屋にお届けに参りました。」
なるほど。婚約者候補者5人が居る部屋に名前を振り当てて、最後の最後迄誰が婚約者になるか洩れないようにしているのか。
「ありがとうございます。どうぞ、中へお入り下さい。」
ココが侍女長を部屋の中へと促した後、ココはしっかりとその扉を閉じた。
「──では……そのティアラを見せていただけますか?」
と、私がお願いすると、「勿論でございます。」と、侍女長は何の躊躇いもなく、その布を取った。
「───え?」
そのティアラを目にした瞬間、侍女長が小さく声を漏らした。
ー流石は侍女長。もう気付いた?ー
そして、侍女長は私の顔を真っ直ぐに見据える。
「その青は、私ではありません。5人の中で青の色をしているのは────ティアリーナ=グレイソン様だけです。」
「………」
「殿下は……部屋の名前をお間違えになったのでは?それとも、藤色を持っている私に青を着けさせ、恥をかかせるおつもりなのでしょうか?それ程迄、私は殿下に疎まれているのでしょうか?」
少し困ったわ──と言う風に、私は目尻を下げてコテンと首を傾げて侍女長を見る。
ーやだ……私って、悪役令嬢になってない?ー
「──いえ。恥をかかせるなどと言う事はないと…思います。そう…でございますね。きっと、部屋の名前をお間違えになったのでしょう。大事な…大事なティアラの宝石の色を間違える事など…有り得ませんから。」
ー本当にそれよ!間違えるなんて有り得ないわよ!ー
「申し訳ありませんでした。このご無礼は──」
「侍女長様は何も悪くはありませんもの。気になさらないで下さい。それよりも…早くティアリーナ様の所へお持ちした方がよろしいのでは?」
無礼なんてとんでもない。予想通り過ぎて呆れてしまっているだけです─なんて事は、口に出しては言えないけど。
「本当に、申し訳ありませんでした。謝罪は後程改めて、必ずさせていただきます。重ね重ねすみませんが、これで下がられせいただきます。」
と、侍女長は、こっちが申し訳無く思ってしまう程、何度も謝罪を口にしながら部屋を出て行った。
*そして、現在*
「───メルヴィル様は……一体何を…仰っているの?フェリシティ…様を思って…青?」
ティアリーナ様は、更に困惑したように、少し震えながらも何とか言葉を口にした。
「そのままだよ。私は婚約者にフェリシティを選んだんだ。母上に宝石の色を決めてお願いしに来た時、母上も了承してくれましたよね?フェリシティで良いと──」
「“フェリシティで良い”とは、一言も言っていないわよ。私はただ、“この色で良いのか?”と訊いただけよ。」
「─っ!?ですが、その時、彼女とは関係を修復できたのか?と訊かれましたよね?それは、彼女がフェリシティだと分かっていたから─」
「私の言葉を覚えている?私は“ところで”─と、言わなかった?」
『──そう。ところで…彼女とは…関係を修復──回復できたと?』
「あ………」
「そして、私はあなたに、最後にもう一度色の確認をしたわね?」
「はい……。」
第一王子は顔を俯かせる。
「はぁ─まだ気付かないのね……メルヴィル、教えてあげるわ。今回の婚約者候補だった5人は、全員瞳の色は違っていたのよ。テレッサ嬢は黒、ノーラ嬢は緑、ミンディ嬢は茶色、ティアリーナ嬢が青。そして、あなたが選んだと言うフェリシティ嬢は──藤色よ。」
「ふじ…いろ?……そんな筈は…………!」
と、第一王子がようやく私と視線を絡ませた。
久し振りに私の目に映りこんだ第一王子は、酷く驚いた顔をしていた。
「メルヴィル。あなたは一体、いつからフェリシティ嬢を見ていなかったの?」
4人でソファーに座ってから、目をキョロキョロさせるだけだった第一王子に、王妃様は話をするように促す。
すると、第一王子はチラリと、自分の横に座っているティアリーナ様を見た。
「ティアリーナ嬢は……」
「ここに居てもらうわ。ティアリーナ嬢も、聞かなければ……知っておかなければいけない事だもの。」
「分かりました………」
第一王子は、顔を顰めながらも了承する─了承するしかない。
その横に座っているティアリーナ様は、何も分からないのだろう。ただただ、今のこの状況に付いて行けずに戸惑っている。
第一王子は、一度目を閉じて息を吐いた後、ゆっくりと口を開いた。
「私は……フェリ……フェリシティを思ってティアラのブルーダイヤモンドを選んだのです。」
「────え?」
第一王子の言葉に反応したのは、ティアリーナ様だけだった。
*時間は遡って、今日の4時少し前*
コンコン
「──失礼致します。入室、宜しいでしょうか?」
と、ドアの外側から声が掛かった。
私がココに視線を向けてコクリと頷くと、ココは扉を開けた。
すると、そこには布が掛けられたトレーを持った、王妃様付きの侍女─侍女長が立っていた。
「第一王子メルヴィル様より、“第三の部屋に、ティアラを持って行くように”と言われましたので、第三の部屋であるこちらの部屋にお届けに参りました。」
なるほど。婚約者候補者5人が居る部屋に名前を振り当てて、最後の最後迄誰が婚約者になるか洩れないようにしているのか。
「ありがとうございます。どうぞ、中へお入り下さい。」
ココが侍女長を部屋の中へと促した後、ココはしっかりとその扉を閉じた。
「──では……そのティアラを見せていただけますか?」
と、私がお願いすると、「勿論でございます。」と、侍女長は何の躊躇いもなく、その布を取った。
「───え?」
そのティアラを目にした瞬間、侍女長が小さく声を漏らした。
ー流石は侍女長。もう気付いた?ー
そして、侍女長は私の顔を真っ直ぐに見据える。
「その青は、私ではありません。5人の中で青の色をしているのは────ティアリーナ=グレイソン様だけです。」
「………」
「殿下は……部屋の名前をお間違えになったのでは?それとも、藤色を持っている私に青を着けさせ、恥をかかせるおつもりなのでしょうか?それ程迄、私は殿下に疎まれているのでしょうか?」
少し困ったわ──と言う風に、私は目尻を下げてコテンと首を傾げて侍女長を見る。
ーやだ……私って、悪役令嬢になってない?ー
「──いえ。恥をかかせるなどと言う事はないと…思います。そう…でございますね。きっと、部屋の名前をお間違えになったのでしょう。大事な…大事なティアラの宝石の色を間違える事など…有り得ませんから。」
ー本当にそれよ!間違えるなんて有り得ないわよ!ー
「申し訳ありませんでした。このご無礼は──」
「侍女長様は何も悪くはありませんもの。気になさらないで下さい。それよりも…早くティアリーナ様の所へお持ちした方がよろしいのでは?」
無礼なんてとんでもない。予想通り過ぎて呆れてしまっているだけです─なんて事は、口に出しては言えないけど。
「本当に、申し訳ありませんでした。謝罪は後程改めて、必ずさせていただきます。重ね重ねすみませんが、これで下がられせいただきます。」
と、侍女長は、こっちが申し訳無く思ってしまう程、何度も謝罪を口にしながら部屋を出て行った。
*そして、現在*
「───メルヴィル様は……一体何を…仰っているの?フェリシティ…様を思って…青?」
ティアリーナ様は、更に困惑したように、少し震えながらも何とか言葉を口にした。
「そのままだよ。私は婚約者にフェリシティを選んだんだ。母上に宝石の色を決めてお願いしに来た時、母上も了承してくれましたよね?フェリシティで良いと──」
「“フェリシティで良い”とは、一言も言っていないわよ。私はただ、“この色で良いのか?”と訊いただけよ。」
「─っ!?ですが、その時、彼女とは関係を修復できたのか?と訊かれましたよね?それは、彼女がフェリシティだと分かっていたから─」
「私の言葉を覚えている?私は“ところで”─と、言わなかった?」
『──そう。ところで…彼女とは…関係を修復──回復できたと?』
「あ………」
「そして、私はあなたに、最後にもう一度色の確認をしたわね?」
「はい……。」
第一王子は顔を俯かせる。
「はぁ─まだ気付かないのね……メルヴィル、教えてあげるわ。今回の婚約者候補だった5人は、全員瞳の色は違っていたのよ。テレッサ嬢は黒、ノーラ嬢は緑、ミンディ嬢は茶色、ティアリーナ嬢が青。そして、あなたが選んだと言うフェリシティ嬢は──藤色よ。」
「ふじ…いろ?……そんな筈は…………!」
と、第一王子がようやく私と視線を絡ませた。
久し振りに私の目に映りこんだ第一王子は、酷く驚いた顔をしていた。
「メルヴィル。あなたは一体、いつからフェリシティ嬢を見ていなかったの?」
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