37 / 55
お披露目
しおりを挟む「ご案内致します。」
パーティー参加者が入場し終えただろう時間─6時少し前に、この部屋迄案内してくれた城付きの女官が、また訪れて来た。
「分かりました。」
ココはこの部屋で待機となる為、私はココに視線を合わせて静かに頷く。
「お嬢様、いってらっしゃいませ。」
ココに満面の笑みで見送られた。
******
案内されたのは、ホールの入り口の扉の前。今は、その扉はピッチリと閉じられている。
その扉の前には私と同じような格好をしている4人が1列に並んでいて、その4人の前─先頭に王妃様と並んでティアラを戴いている候補者が、第一王子の婚約者である。
ーさて、この扉が開いた瞬間、どうなるのかしら?ー
と思っていると、扉の向こう側─ホール内から少しのざわめきが起こった。扉が閉じられている為、中で何が起こったのか全く分からない。
そのざわめきも落ち着き暫くした後、扉の両サイドに控えていた騎士が動き出し、内側から扉が開かれた。
王妃と婚約者が並んだままでホール内へと進んで行くと、そこでまた小さなざわめきが起こる。そのままその2人が進んで行き、少し間を空けてから候補者だった4人が順番にホールへと入って行き、最後の候補者が入場すると、後ろで扉が閉まる音がした。
そのまま振り返ることなく前へ進む。
王妃様と婚約者は、ホール壇上に立つ国王陛下と第一王子の前迄行き、候補者だった残り4人は左側に並び立つ。
その左側へと逸れる時、ふと視線を感じてチラリとそちらに視線だけ向けると──
顔色を悪くして目を見開いている、第一王子と目が合った。
そして、その口が
“なぜ?”
と、動いた。
それでも、私は何も見なかったかのように視線を前に向ける。そして、候補者だった4人が左側に並び、ホール側に体を向けると、王妃様と婚約者もホール側に向き直る。
その婚約者の頭に輝いている宝石は青色──
ティアリーナ様の色だ──
「卒業生の皆さん、本日はおめでとう。今日、このような善き日に、もう一つのめでたい発表をさせていただきます。皆さんはもう、気付いているかと思いますが─こちらが、本日より第一王子であるメルヴィルの婚約者となります。」
王妃様が軽く挨拶をした後、その婚約者に視線を向けて促すと、彼女は半歩程前に出て──
「ティアリーナ=グレイソンでございます。宜しくお願い致します。」
そう挨拶するティアリーナ様は、花が綻ぶような微笑みだ。ホールに居る誰もが「ほう─」と、溜め息を漏らす程。体全体からも、喜びに溢れているのが分かる。そして、ホール内に起こった拍手喝采の中、2人はもう一度国王陛下と第一王子の方へと向き直り、そのまま王妃様が第一王子のもとへとティアリーナ様を連れて行く。
ホールに入る前のざわめきは──
“第一王子メルヴィル”
と、王妃様は言った。
立太子した場合ターコイズブルーのサッシュを身に着けるのだが、その第一王子は……着けていない。
そう言う事なんだろう。
今、第一王子の顔色が悪いのは、そのせい─と捉えられているだろう。実際は──。
その時、グレイシーとリオが視界に入った。その2人は……ものすごく……綺麗な笑顔だった。
これから、第一王子と婚約者になったティアリーナ様とのダンスが始まる為、王妃様がティアリーナ様を第一王子の側へと促す。
誰もが見惚れる程の笑顔のティアリーナ様とは対象的に、相変わらず顔色の悪い第一王子は、王妃様とティアリーナ様の2人に忙しなく視線を漂わせている。
「──メルヴィル」
と、一向に動かない第一王子に対し、国王陛下が名を呼ぶと、第一王子はビクッと体を震わせた後、ソロソロとティアリーナ様へと手を伸ばし、ティアリーナ様はその第一王子の手を取った。
それからティアリーナ様が第一王子の横に立ち、その手を第一王子の腕へと絡ませ、2人で並び立つ。
これで、婚約者決定だ。
ーようやく、私は…晴れて…自由の身だ!!ー
笑いそうになるのを、小躍りしそうになるのを、無表情のままでぐぅ─っと堪える。そんな私をグレイシーとリオがニヤニヤして見ている。
ー後で覚えておきなさい!ー
「2人ともおめでとう。ティアリーナ嬢、これからメルヴィルを宜しく頼む。」
国王陛下が笑顔で祝福すると、ティアリーナ様も笑顔で答える。
「それでは、これから皆には心ゆくまで楽しんでいってもらいたい。本当に、卒業おめでとう。」
第一王子とティアリーナ様がホールの中央へと移動した後、2人のダンスが始まった。
至近距離で顔を見合わせるダンス。そこで、ようやく?ティアリーナもおかしいと気付いたのかもしれない。
ダンスを始めてすぐ、あれ程の笑顔だったティアリーナ様だったのに、今では困惑したような表情で第一王子を見上げている。
その、見上げられている第一王子は、心ここに在らずと言ったように視線が定まらす、顔色も悪いままだった。
89
お気に入りに追加
4,798
あなたにおすすめの小説
振られたから諦めるつもりだったのに…
しゃーりん
恋愛
伯爵令嬢ヴィッテは公爵令息ディートに告白して振られた。
自分の意に沿わない婚約を結ぶ前のダメ元での告白だった。
その後、相手しか得のない婚約を結ぶことになった。
一方、ディートは告白からヴィッテを目で追うようになって…
婚約を解消したいヴィッテとヴィッテが気になりだしたディートのお話です。
むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。
緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」
そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。
私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。
ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。
その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。
「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」
お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。
「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」
【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)
【完結】新婚生活初日から、旦那の幼馴染も同居するってどういうことですか?
よどら文鳥
恋愛
デザイナーのシェリル=アルブライデと、婚約相手のガルカ=デーギスの結婚式が無事に終わった。
予め購入していた新居に向かうと、そこにはガルカの幼馴染レムが待っていた。
「シェリル、レムと仲良くしてやってくれ。今日からこの家に一緒に住むんだから」
「え!? どういうことです!? 使用人としてレムさんを雇うということですか?」
シェリルは何も事情を聞かされていなかった。
「いや、特にそう堅苦しく縛らなくても良いだろう。自主的な行動ができるし俺の幼馴染だし」
どちらにしても、新居に使用人を雇う予定でいた。シェリルは旦那の知り合いなら仕方ないかと諦めるしかなかった。
「……わかりました。よろしくお願いしますね、レムさん」
「はーい」
同居生活が始まって割とすぐに、ガルカとレムの関係はただの幼馴染というわけではないことに気がつく。
シェリルは離婚も視野に入れたいが、できない理由があった。
だが、周りの協力があって状況が大きく変わっていくのだった。
【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──
踏み台令嬢はへこたれない
三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」
公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。
春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。
そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?
これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。
「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」
ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。
なろうでも投稿しています。
犬猿の仲だったはずの婚約者が何故だか溺愛してきます【完結済み】
皇 翼
恋愛
『アイツは女としてあり得ない選択肢だからーー』
貴方は私がその言葉にどれだけ傷つき、涙を流したのかということは、きっと一生知ることがないのでしょう。
でも私も彼に対して最悪な言葉を残してしまった。
「貴方なんて大嫌い!!」
これがかつての私達に亀裂を生む決定的な言葉となってしまったのだ。
ここから私達は会う度に喧嘩をし、連れ立った夜会でも厭味の応酬となってしまう最悪な仲となってしまった。
本当は大嫌いなんかじゃなかった。私はただ、貴方に『あり得ない』なんて思われていることが悲しくて、悲しくて、思わず口にしてしまっただけなのだ。それを同じ言葉で返されて――。
最後に残った感情は後悔、その一つだけだった。
******
5、6話で終わります。パパッと描き終わる予定。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる