36 / 42
*竜王国*
36 願い事
しおりを挟む
「あ、レイラーニ様、こんにちは」
「レイラーニ様、今日は何を買いにいらっしゃったんですか?」
「あ、こんにちは。今日は、糸とハンカチを買いに来ました」
竜王国へやって来てから1年が過ぎた。
竜王国での生活も慣れて来て、私は1週間に一度は街に買い物に行くようになった。そして、何度目かの時にブランシュさんと街に来た時、「「「レイラーニ様!!」」」と声を掛けられ「「「おかえりなさい!!」」」と言われた。しかも、今迄ずっと声を掛けたかったけど、ユーリッシュ様の圧が怖くて声を掛けられなかったと言われた。私の横で、ブランシュさんがクスクスと笑っている。
ーうん。その気持ちはよく分かる。分かるけど…ー
「きっと、テオフィルさんは私を護る為に圧?を掛けてたんだと思うんです。ちょっと顔も怖かったりするけど、本当は優しい人なんです。それで、えっと……こうやって声を掛けてもらえるのは嬉しいから、テオフィルさんと来た時も声を掛けてもらえると嬉しいです」
「「「レイラーニ様!」」」
何となく、あの時の人達の目が幼い子供の成長を喜ぶような目をしていたような気がしたのは……気のせいにしておいた。
20歳にもなっているけど、竜人達と比べると小さいから、幼く見えるのは仕方無いのかもしれない。それに、“竜人寄りの人間”だから、人間よりも成長がゆっくりなんだそうだ。
「そのうち、私もブランシュさんやアルマみたいになれるのかなぁ?」
「ブランシュ?アルマみたいに…とは?」
「あ、何でもないです。えっと…取り敢えず、今日欲しい糸は──」
思っている事が、ついつい声に出てしまっていたようで、一緒に居たテオフィルさんに聞こえてしまっていたようだ。その問に答えるのは少し恥ずかしいから、私はそれには答えずに買う糸を選ぶ事にした。
「うわーイチゴが白い」
手芸屋での買い物が終わった後、テオフィルさんに案内されてやって来たカフェでイチゴのパフェを注文すると、白いイチゴが盛られていた。
「なんでも、普通の赤いイチゴより甘いそうで、今人気があるそうです」
「──!んーっ!甘くて美味しい!」
「────くっ!」
「「「…………」」」
“嬉しそうに幸せそうにパッと笑顔になるレイラーニの顔を見て、緩みそうになる顔を眉間に皺を寄せて引き締める(無駄な)努力をするテオフィルを、周りの竜人達が温かい目で見守る”
と言うのが、竜王国での暗黙のルールになっていると言う事を、当の本人達だけが知らない。
「ただただ怖いと思っていた四天王のユーリッシュ様だけど、“遅咲きの春”満開で…何とも可愛い人だな」
と、ユーリッシュの人気?も密かに上がっているのは、ここだけの話である。
******
「グレスタン公国に行きたい?」
「正しくは、ダンビュライト公爵邸です」
グレスタン公国を出てから4年経った。その間色々あったけど、今は竜王国でのんびりした生活を送れるようになった。そうすると、心にも余裕が出て来て色々思い出したり考えたりする余裕も出て来た。
そして思い出したのが、ダンビュライトのお父様とお母様とお姉様の事だった。
「私、テイルザールに輿入れする日に、お姉様達のお墓に挨拶をしようと思っていたんです。でも、急遽、お迎えの時間が早くなってできなくなって……それに……お姉様達のお葬式の参列も許されなくて、それ以降もお墓に行く事も禁止されたから、一度も行った事がなくて…」
本当に、お姉様達のお墓にお花を供えて祈りを捧げたいと思っている。それと、今のダンビュライト公爵が“嘘つき公爵”と罵っていたから、ちゃんとお墓が管理されているのかも確認したい─と言う事もあり、竜王様と一緒にお茶をしている時にお願いをしてみたのだけど…。
「そうだったんだね。それは、辛かったね」
ぽんぽんと、竜王様が私の背中を優しく叩く。
「行くのは構わないけど、レイラーニは竜王の娘─竜王国の王女様だから、“それじゃあ、明日にでも行っておいで”とはいかないからなぁ…」
「あ……」
ーすっかり忘れてたー
あまりにも毎日がのんびり引き篭もり生活だから、自分が王女だと言う自覚が全く無い。人間や獣人の国みたいに、貴族の夜会やお茶会が竜王国には殆ど無いと言う事もあるけど。
「ひょっとして、私がダンビュライト邸に行くとなったら…恭しいものになっちゃいますか?」
「だね…レイラーニが竜王の娘だったと、グレスタン公国でも知れ渡っているからね。あぁ、正式な手続きは面倒だから、お忍びで行って来る?」
「お忍び!?」
ーそんな事をしても大丈夫!?ー
「流石に、黒竜の私が行くと大騒ぎになるだろうけど、テオフィルなら大丈夫じゃないかな?」
黒竜は滅多に居ないし、今は“黒竜=竜王”だから竜王様が一緒に行けば大騒ぎになるけど、青竜ならそれなりに居たりするから、身分を隠して変装でもすれば大丈夫だろう─と。
「レイラーニの特徴である、そのアイスブルーの髪色を変えただけで、印象は大分変わる筈だから。流石に、ダンビュライトに知らせない訳にはいかないから、ダンビュライトにだけは知らせる必要があるけどね。それに…丁度良い機会かもしれないね?」
と、竜王様は何やら楽しそうな顔をしていた。
「レイラーニ様、今日は何を買いにいらっしゃったんですか?」
「あ、こんにちは。今日は、糸とハンカチを買いに来ました」
竜王国へやって来てから1年が過ぎた。
竜王国での生活も慣れて来て、私は1週間に一度は街に買い物に行くようになった。そして、何度目かの時にブランシュさんと街に来た時、「「「レイラーニ様!!」」」と声を掛けられ「「「おかえりなさい!!」」」と言われた。しかも、今迄ずっと声を掛けたかったけど、ユーリッシュ様の圧が怖くて声を掛けられなかったと言われた。私の横で、ブランシュさんがクスクスと笑っている。
ーうん。その気持ちはよく分かる。分かるけど…ー
「きっと、テオフィルさんは私を護る為に圧?を掛けてたんだと思うんです。ちょっと顔も怖かったりするけど、本当は優しい人なんです。それで、えっと……こうやって声を掛けてもらえるのは嬉しいから、テオフィルさんと来た時も声を掛けてもらえると嬉しいです」
「「「レイラーニ様!」」」
何となく、あの時の人達の目が幼い子供の成長を喜ぶような目をしていたような気がしたのは……気のせいにしておいた。
20歳にもなっているけど、竜人達と比べると小さいから、幼く見えるのは仕方無いのかもしれない。それに、“竜人寄りの人間”だから、人間よりも成長がゆっくりなんだそうだ。
「そのうち、私もブランシュさんやアルマみたいになれるのかなぁ?」
「ブランシュ?アルマみたいに…とは?」
「あ、何でもないです。えっと…取り敢えず、今日欲しい糸は──」
思っている事が、ついつい声に出てしまっていたようで、一緒に居たテオフィルさんに聞こえてしまっていたようだ。その問に答えるのは少し恥ずかしいから、私はそれには答えずに買う糸を選ぶ事にした。
「うわーイチゴが白い」
手芸屋での買い物が終わった後、テオフィルさんに案内されてやって来たカフェでイチゴのパフェを注文すると、白いイチゴが盛られていた。
「なんでも、普通の赤いイチゴより甘いそうで、今人気があるそうです」
「──!んーっ!甘くて美味しい!」
「────くっ!」
「「「…………」」」
“嬉しそうに幸せそうにパッと笑顔になるレイラーニの顔を見て、緩みそうになる顔を眉間に皺を寄せて引き締める(無駄な)努力をするテオフィルを、周りの竜人達が温かい目で見守る”
と言うのが、竜王国での暗黙のルールになっていると言う事を、当の本人達だけが知らない。
「ただただ怖いと思っていた四天王のユーリッシュ様だけど、“遅咲きの春”満開で…何とも可愛い人だな」
と、ユーリッシュの人気?も密かに上がっているのは、ここだけの話である。
******
「グレスタン公国に行きたい?」
「正しくは、ダンビュライト公爵邸です」
グレスタン公国を出てから4年経った。その間色々あったけど、今は竜王国でのんびりした生活を送れるようになった。そうすると、心にも余裕が出て来て色々思い出したり考えたりする余裕も出て来た。
そして思い出したのが、ダンビュライトのお父様とお母様とお姉様の事だった。
「私、テイルザールに輿入れする日に、お姉様達のお墓に挨拶をしようと思っていたんです。でも、急遽、お迎えの時間が早くなってできなくなって……それに……お姉様達のお葬式の参列も許されなくて、それ以降もお墓に行く事も禁止されたから、一度も行った事がなくて…」
本当に、お姉様達のお墓にお花を供えて祈りを捧げたいと思っている。それと、今のダンビュライト公爵が“嘘つき公爵”と罵っていたから、ちゃんとお墓が管理されているのかも確認したい─と言う事もあり、竜王様と一緒にお茶をしている時にお願いをしてみたのだけど…。
「そうだったんだね。それは、辛かったね」
ぽんぽんと、竜王様が私の背中を優しく叩く。
「行くのは構わないけど、レイラーニは竜王の娘─竜王国の王女様だから、“それじゃあ、明日にでも行っておいで”とはいかないからなぁ…」
「あ……」
ーすっかり忘れてたー
あまりにも毎日がのんびり引き篭もり生活だから、自分が王女だと言う自覚が全く無い。人間や獣人の国みたいに、貴族の夜会やお茶会が竜王国には殆ど無いと言う事もあるけど。
「ひょっとして、私がダンビュライト邸に行くとなったら…恭しいものになっちゃいますか?」
「だね…レイラーニが竜王の娘だったと、グレスタン公国でも知れ渡っているからね。あぁ、正式な手続きは面倒だから、お忍びで行って来る?」
「お忍び!?」
ーそんな事をしても大丈夫!?ー
「流石に、黒竜の私が行くと大騒ぎになるだろうけど、テオフィルなら大丈夫じゃないかな?」
黒竜は滅多に居ないし、今は“黒竜=竜王”だから竜王様が一緒に行けば大騒ぎになるけど、青竜ならそれなりに居たりするから、身分を隠して変装でもすれば大丈夫だろう─と。
「レイラーニの特徴である、そのアイスブルーの髪色を変えただけで、印象は大分変わる筈だから。流石に、ダンビュライトに知らせない訳にはいかないから、ダンビュライトにだけは知らせる必要があるけどね。それに…丁度良い機会かもしれないね?」
と、竜王様は何やら楽しそうな顔をしていた。
130
お気に入りに追加
1,066
あなたにおすすめの小説
家出した伯爵令嬢【完結済】
弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。
番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています
6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております
【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~
Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。
そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。
「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」
※ご都合主義、ふんわり設定です
※小説家になろう様にも掲載しています
【完結】ツンな令嬢は婚約破棄され、幸せを掴む
さこの
恋愛
伯爵令嬢アイリーンは素直になれない性格だった。
姉は優しく美しく、周りから愛され、アイリーンはそんな姉を見て羨ましくも思いながらも愛されている姿を見て卑屈になる。
アイリーンには婚約者がいる。同じく伯爵家の嫡男フランク・アダムス
フランクは幼馴染で両親から言われるがままに婚約をした。
アイリーンはフランクに憧れていたが、素直になれない性格ゆえに、自分の気持ちを抑えていた。
そんなある日、友達の子爵令嬢エイプリル・デュエムにフランクを取られてしまう
エイプリルは美しい少女だった。
素直になれないアイリーンは自分を嫌い、家を出ようとする。
それを敏感に察知した兄に、叔母様の家に行くようにと言われる、自然豊かな辺境の地へと行くアイリーン…
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。
豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」
「はあ?」
初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた?
脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ?
なろう様でも公開中です。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる