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*竜王国*
32 父娘
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私が気を失った日から10日後、ようやく竜王様に会える事になった。
“ネル”とは、記憶を失ってからテイルザール国王が名付けた名前だそうで、本当の名前は“ラシャド”なんだそうだ。
テオフィルさんはテオフィルさんで、この竜王国の宰相の子息で、四天王の1人で水属性の魔力を持つ青竜と言う何とも凄い肩書を持った人だった。
更に驚いた事に、私が4歳ぐらい迄は竜王国に住んで居たらしい。
「すみません…全く記憶にありません」
「それは…仕方ない。母親のコーデリアの魔法が予想以上に強かったのもあるし、4歳の頃の記憶なんて、私でもないからね。ただ、コーデリアはレイラーニの事を愛していたのは確かだよ。私もだけどね」
「ありがとうございます………」
そう言われると嬉しい。嬉しいけど、やっぱり家族と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、亡くなったダンビュライトのお父様とお母様とお姉様だ。
「別に、今すぐに私を父だと思わなくても良いからね?」
「え?」
目の前に居る竜王様は、優しく微笑んでいる。
「レイラーニにとっては、先代のダンビュライト夫妻が親であり、ロズリーヌ嬢が姉だったと言う事は分かっているから。私も、彼等には感謝しかない。でも、私もレイラーニの父親になりたいから、これからは私と一緒に過ごしてもらいたい。それで、レイラーニが素直に私を父として受け入れられるようになった時に、私を父と呼んでもらえると嬉しい」
「竜王様……はい…ありがとうございます」
今はまだ“お父様”とは呼べないけど、いつかきっと呼べる日が来るだろうな─と思える程、竜王様が私に向ける眼差しは温かくて優しいものだった。
「テイルザールに関しては、それぞれの処罰が済んでいて、今はウィンスタンの王弟を中心に新たな王の選定を行っている」
どんな処罰が下されたのか─今言わなかったと言う事は、訊かないほうが良いんだろう。ただ、私にも優しかった、ある意味私と同じ人質だった第9側妃のティスア様がどうなったのか─だけは気になるところだ。
「後は、グレスタン公国の事だけど…元大公やダンビュライトの者達がレイラーニにした仕打ちは赦せないけど、“レイ”と言う名で契約してくれていたお陰で、簡単にレイラーニを竜王国に連れ戻せたと言う事もあったから、個人的な意味合いの処罰はしない事にした。ただ、グレスタン公国はもう二度と“竜王の加護”を得る事は無い」
結界師としての能力が落ちて来たラズベルト。
竜王の娘を虐げ、竜王の怒りを買い“竜王の加護”を失う原因をつくったダンビュライトと大公閣下。
竜王自ら本人達に処罰を下さなくても、貴族どころか平民達も黙ってはいないだろう。
「あの…一つだけ……私にとって祖父母にあたるラズベルト伯爵は……」
「あぁ…レイラーニにとっての祖父母にあたるラズベルト伯爵は、先代の事で……コーデリアが亡くなった後、コーデリアの姉のミレーヌにレイラーニを預けた後、事故で亡くなったらしい」
竜王国でも調べ直したそうだけど、ラズベルト伯爵夫妻も、ダンビュライトのお姉様達の事故も、本当に偶然に起こったものだったそうだ。
ただ、先代のグレスタン大公の毒殺だけは、今も秘密裏に調査しているそうだ。
「レイラーニの事を知っている者達が次々と亡くなってしまって、真実が引き継がれる事ができずに、長い間レイラーニを苦しめる結果になってしまって……本当に申し訳なかった…これからは、レイラーニが幸せになれるように、父として頑張りたいと思っている。だから………そろそろ竜王を辞めようかと思っている」
「──はい???」
「寝言は寝てから言って下さい」
間髪入れず突っ込んだのはユーリッシュさん。
「だってそうだろう?竜王なんてやっていたら、レイラーニとの時間がとれないじゃないか。レイラーニの側に居るには、ただの竜人になるしかないだろう?また、一緒に薬草を育てて土まみれになって、庭園でお茶して──」
ーそれはそれで…楽しそうだけど…ー
「そんな狡くて羨ましい事、させる訳ないでしょう。しかも、ようやく竜王陛下が戻って来たと、皆喜んでいるんですよ?父上─宰相も泣いて喜んだと言うのに」
“狡くて羨ましい”の意味は分からないけど、ユーリッシュさんの言う事はごもっともな事だ。
「私のせいで竜王を辞めないで下さい」
「レイラーニのせいではなくて、私とレイラーニの為に──」
「私の為にと言うなら、尚更辞めないで下さい。コーデリア様だって、そんな無責任な事は望んでいないと思うし、私も…竜王としてのネ…ラシャドさんの姿を見てみたいと思って──」
「うん。分かった。竜王は辞めない」
「レイラーニ様、ありがとうございます」
ーそんなアッサリ…大丈夫?ー
「竜王は辞めない。ただし、毎日私との時間を少しでも良いから作って欲しい」
これが、最強と言われる竜王様なのか?と思う程キュルンとした目…捨てられた犬みたいに見えるのは気のせいだろうか?
「分かりました。それだったら、3食あるうち1回は一緒に食事をするとか、休憩時間に一緒にお茶するとかどうで──」
「うん、そうしよう!」
ー竜王の被せ具合が半端無いー
「テオフィル、必ずどこかでレイラーニとの時間がとれるように調整するように」
ユーリッシュ親子の仕事と負担が増えたかもしれません。
“ネル”とは、記憶を失ってからテイルザール国王が名付けた名前だそうで、本当の名前は“ラシャド”なんだそうだ。
テオフィルさんはテオフィルさんで、この竜王国の宰相の子息で、四天王の1人で水属性の魔力を持つ青竜と言う何とも凄い肩書を持った人だった。
更に驚いた事に、私が4歳ぐらい迄は竜王国に住んで居たらしい。
「すみません…全く記憶にありません」
「それは…仕方ない。母親のコーデリアの魔法が予想以上に強かったのもあるし、4歳の頃の記憶なんて、私でもないからね。ただ、コーデリアはレイラーニの事を愛していたのは確かだよ。私もだけどね」
「ありがとうございます………」
そう言われると嬉しい。嬉しいけど、やっぱり家族と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、亡くなったダンビュライトのお父様とお母様とお姉様だ。
「別に、今すぐに私を父だと思わなくても良いからね?」
「え?」
目の前に居る竜王様は、優しく微笑んでいる。
「レイラーニにとっては、先代のダンビュライト夫妻が親であり、ロズリーヌ嬢が姉だったと言う事は分かっているから。私も、彼等には感謝しかない。でも、私もレイラーニの父親になりたいから、これからは私と一緒に過ごしてもらいたい。それで、レイラーニが素直に私を父として受け入れられるようになった時に、私を父と呼んでもらえると嬉しい」
「竜王様……はい…ありがとうございます」
今はまだ“お父様”とは呼べないけど、いつかきっと呼べる日が来るだろうな─と思える程、竜王様が私に向ける眼差しは温かくて優しいものだった。
「テイルザールに関しては、それぞれの処罰が済んでいて、今はウィンスタンの王弟を中心に新たな王の選定を行っている」
どんな処罰が下されたのか─今言わなかったと言う事は、訊かないほうが良いんだろう。ただ、私にも優しかった、ある意味私と同じ人質だった第9側妃のティスア様がどうなったのか─だけは気になるところだ。
「後は、グレスタン公国の事だけど…元大公やダンビュライトの者達がレイラーニにした仕打ちは赦せないけど、“レイ”と言う名で契約してくれていたお陰で、簡単にレイラーニを竜王国に連れ戻せたと言う事もあったから、個人的な意味合いの処罰はしない事にした。ただ、グレスタン公国はもう二度と“竜王の加護”を得る事は無い」
結界師としての能力が落ちて来たラズベルト。
竜王の娘を虐げ、竜王の怒りを買い“竜王の加護”を失う原因をつくったダンビュライトと大公閣下。
竜王自ら本人達に処罰を下さなくても、貴族どころか平民達も黙ってはいないだろう。
「あの…一つだけ……私にとって祖父母にあたるラズベルト伯爵は……」
「あぁ…レイラーニにとっての祖父母にあたるラズベルト伯爵は、先代の事で……コーデリアが亡くなった後、コーデリアの姉のミレーヌにレイラーニを預けた後、事故で亡くなったらしい」
竜王国でも調べ直したそうだけど、ラズベルト伯爵夫妻も、ダンビュライトのお姉様達の事故も、本当に偶然に起こったものだったそうだ。
ただ、先代のグレスタン大公の毒殺だけは、今も秘密裏に調査しているそうだ。
「レイラーニの事を知っている者達が次々と亡くなってしまって、真実が引き継がれる事ができずに、長い間レイラーニを苦しめる結果になってしまって……本当に申し訳なかった…これからは、レイラーニが幸せになれるように、父として頑張りたいと思っている。だから………そろそろ竜王を辞めようかと思っている」
「──はい???」
「寝言は寝てから言って下さい」
間髪入れず突っ込んだのはユーリッシュさん。
「だってそうだろう?竜王なんてやっていたら、レイラーニとの時間がとれないじゃないか。レイラーニの側に居るには、ただの竜人になるしかないだろう?また、一緒に薬草を育てて土まみれになって、庭園でお茶して──」
ーそれはそれで…楽しそうだけど…ー
「そんな狡くて羨ましい事、させる訳ないでしょう。しかも、ようやく竜王陛下が戻って来たと、皆喜んでいるんですよ?父上─宰相も泣いて喜んだと言うのに」
“狡くて羨ましい”の意味は分からないけど、ユーリッシュさんの言う事はごもっともな事だ。
「私のせいで竜王を辞めないで下さい」
「レイラーニのせいではなくて、私とレイラーニの為に──」
「私の為にと言うなら、尚更辞めないで下さい。コーデリア様だって、そんな無責任な事は望んでいないと思うし、私も…竜王としてのネ…ラシャドさんの姿を見てみたいと思って──」
「うん。分かった。竜王は辞めない」
「レイラーニ様、ありがとうございます」
ーそんなアッサリ…大丈夫?ー
「竜王は辞めない。ただし、毎日私との時間を少しでも良いから作って欲しい」
これが、最強と言われる竜王様なのか?と思う程キュルンとした目…捨てられた犬みたいに見えるのは気のせいだろうか?
「分かりました。それだったら、3食あるうち1回は一緒に食事をするとか、休憩時間に一緒にお茶するとかどうで──」
「うん、そうしよう!」
ー竜王の被せ具合が半端無いー
「テオフィル、必ずどこかでレイラーニとの時間がとれるように調整するように」
ユーリッシュ親子の仕事と負担が増えたかもしれません。
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