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*竜王国*

31 同じモノを

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だったコーデリアが亡くなってから、何故か心にポッカリと穴が空いて、更に何かを求めようとする自分が居た。

それが何なのか─

それを捜す為に、人間ひと族や獣人族の国を歩き回っていた。一体何年経っていたのか。

「何故、こんな所に居るんだ?」

捜し疲れて休んでいると、ふいに背後から声を掛けられ、振り返ると、そこに獣人の男が立っていた。

ー何処かで会った事があったか?ー

その頃には、もう色々と疲れ果て判断力も無く、自分の記憶でさえ朧気なものになっていた。

「ははっ…これは面白い!これ程まで弱っているとは!これなら…竜王国も我が物にできるかもしれないな!」

そう言ってニヤリと嗤い、その男─テイルザール国王ヘイスティングスは、私の心臓に呪いを掛けた。


その瞬間、辛うじて残っていた竜王としての記憶は全て無くなり、ただの“薬師”となってしまった。自分が竜王どころか、竜人だと言う事も忘れてしまったのだ。



それから「保護する」と言う名目で、テイルザールの王城の奥に閉じ込められた。
閉じ込められてから数年後に、「ようやく見付けました!」と、涙を流しながら私の前に跪いたのは、テオフィル=ユーリッシュだった。行方不明になった私を捜し続けてくれていたそうだ。

ただ、掛けられた呪いに蝕まれていて、私は彼の事も覚えてはいなかった。その上、結界も張られていたせいで、テイルザールの王城、後宮から出る事もできなかったのだ。


ーそれが、まさか……娘に助けられるとはー






*ウィンスタン王国・地下牢*


テイルザールの後宮は全壊。王城も一部破壊している為、ヘイスティングス達はウィンスタン王国の地下牢に幽閉されている。

「ヘイスティングス…元気そうだな?」
「竜王!」

簡単に死なれては困るから、死なない程度に食事を与えている。勿論、温かい食事ではないし、も入れている。

「ようやく、お前の処罰が決まったから、それを実行しに来たんだ。先ずは─王妃だったヴァレンティナと第一側妃だったスフィルは、媚薬の副作用が強く出てしまったようでね?ガレオンやマルソーだけではようで、自ら志願して娼館に行ったそうだよ。“元王妃”と“元第一側妃”と言う事だけあって、毎日のように客が付いているそうで、泣いて喜んでいるようだよ」
「その様な事、あの2人が自ら喜んでする訳がないだろう!!お前達が、媚薬くすり漬けにして無理矢理───」
「──そうだね、そうやって、王妃達はレイに媚薬を盛ってガレオンにんだよ。自分達がした事が、自分に返って来ただけの事だ。文句は言えないよね?」

軽く竜力を溢れさせると、ヘイスティングスは「ぐぅーっ…」と呻った後押し黙った。

「それで、ヘイスティングスには……勿論、私と同じモノをあげる事にした」
「……同じ……モノ?」

右の手の平を上に向けて詠唱すると、そこに小さな魔法陣が浮かび上がる。その浮かび上がった魔法陣に、更に結界の魔法を重ね掛けして融合させた後、確実にヘイスティングスの心臓に貼り付けた。

「何を───」
「訊かなくても分かるだろう?同じモノなんだから。少しずつ体を蝕んでいく呪いだよ。ただ、一つだけ違うところがあってね…。私の場合は浄化の薬が効いたんだけど、お前に掛けた呪いは、浄化作用のあるモノを撥ね付ける結界を組み込んであるから、その呪いが解呪される事が無いって事だ」
「な───っ!」

こんな愚王でも、過激派の者達からすれば未だに忠誠を誓っている者がいる。その者達が、ヘイスティングスを助けようとする可能性もある。

ーそんな事は絶対にさせないー

では、直ぐに殺すか?否。楽に終わらせるつもりはない。じわじわと追い詰めていかなければ気が済まない。コーデリアも私も、じわじわと蝕まれて行ったのだから。

「助かる、逃げられるとは思わない事だ。希望なんて意味ないからね。私がお前を赦す事も逃す事もないから」

他の獣人の国王達からは、ヘイスティングスの処罰に対しては黙認すると言われている。同種族から見捨てられた、憐れな元国王ヘイスティングス。もう、私がここに来る事はない。

「さよならだ。ヘイスティングス」
「くそぉーっ!」

挨拶と同時に背を向けて歩き出すと、ガシャンッ──と、ヘイスティングスが牢屋の鉄格子を殴っただろう音が響いたが、私は振り返る事なく歩き続けた。





「「お疲れ様です」」

地下牢からの階段を登り切ると、そこにはウィンスタン国王アーノルドとテオフィルが居た。

「アーノルド様、ヘイスティングスの事、宜しくお願いします。すべき事はしたので、私がもうここへ来る事は無いと思います。後は……待つだけですから」
「分かりました。この度は、申し訳ありませんでした。同種族の代表として、謝罪申し上げます」
「その謝罪は、受け入れます。それで?テオフィルはどうしてここに?」

ホッとした顔をしたアーノルド国王の横に居るのはテオフィル。ただ、テオフィルはレイラーニの側から離れようとしなかったから、今日も私1人でウィンスタン迄やって来たのに、どうして?

「ブランシュに、鬱陶しいから陛下を迎えに行ってこい─と言われたのと、レイラーニ様が陛下とお茶がしたいと──」
「分かった。すぐに戻ろう。アーノルド様、申し訳無い。これで失礼する」
「ふっ…はい。お気を付けてお帰り下さい」

アーノルド国王には笑われてしまったが、今の私の最優先事項はレイラーニだ。私は竜化して最スピードで竜王国へと帰った。






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