上 下
24 / 42
*テイルザール王国*

24 竜王

しおりを挟む
「竜王国?何故…レイは人間なのに…」

ダンビュライト令嬢とグレスタン大公が驚いた顔をしていると言う事は、2人とも先代からと言う事だ。それもそうか。グレスタンもダンビュライトも、正当な代替わりをした訳ではないのだから。正当な代替わりが行われていたなら、レイラーニもこんな事にはなっていなかっただろう。

「兎に角、ヘイスティングス。レイはから」
「まさか……レイは……」

ヘイスティングスもようやく気付いたようだが、もう遅い。もう二度と、お前の手に渡すような事はしない。

「残念だったね。私を閉じ込めて、知らず知らずのうちにレイも手に入れていたのに…それで、どんなお礼がご希望かな?」
「ふんっ…何を強気な事を言って……結界を破壊できただけで、蝕まれている状態で何ができると言うのだ?」

ニヤリとほくそ笑むヘイスティングスは、何も分かっていない。結界を破壊してここまで来たと言う事がどう言う事なのか───

「なんとも頭をしているんだね。状況把握もマトモにできない者が王とは……この国も、そろそろ代替えが必要なのかもしれないね。そもそも、竜王国に手を出した時から終わりは見えていただろうけど」

「竜王国に手を出した!?国王陛下、それは一体どう言う事ですか!?」
「我々はその様な事、何も聞いてませんぞ!」
「宰相も知っていたのか!?」

私の言葉に、この場に居るテイルザールの貴族達が一斉にヘイスティングスと宰相に詰め寄る。

「こんな大事な事を臣下に言っていなかったのかい?なら…私から説明してあげよう」
「何を────」
「ヘイスティングス、煩いよ?」
「───っ!」

軽く視線を向けると、グッと口を噤んだ。

「色々あって、少し弱った竜王に呪いを掛けて殺そうとした上、竜王の妃を殺したんだよ。それで、竜王国を操ろうとしたけど失敗して、取り敢えず呪いを掛けた竜王だけでも─とテイルザールに閉じ込めて、竜王が死ぬのを待っていたんだよ。更に、いざと言う時の為に行方不明になっていた竜王の娘を手に入れようと探していたようだけど」

妃が亡くなった後、竜王にとっての最大の弱点となるのは幼い娘─王女だ。

獣人は確かに強いが、竜人からすれば子供以下の存在だ。たとえ竜王が不在になったとしても、竜王国が獣人によって制圧されるなんて事は無い。特に、空を飛べる鳥族の獣人は竜人の恐ろしさを一番理解しているから、鳥族が国王のウィンスタン王国と竜王国は同盟関係を結んでいる。獣人国では唯一の国だ。その為、ウィンスタンの国王アーノルドも、密かに王女を探してくれていたようだ。

「呪いのせいで、竜王は記憶喪失になってしまっていたんだ。“薬師だ”と言う記憶しかなかった。大切な存在すら忘れてしまっていたんだ。そして、そのまま少しずつ呪いに蝕まれていき、朽ちて行くだけの存在になっていたんだよ。でも…その呪いも解けた」
「なっ!?」

そこで、ようやくヘイスティングスが理解した。ライオン獣人のヘイスティングスが、借りてきた猫のように震えている姿は滑稽で……愉快だ。

を殺し損ねて…残念だったね…ヘイスティングス。私はお前のような愚か者ではないから、きっちりお礼をさせてもらうから」

ーお前を殺し損ねるなんて事はしないー

「竜王である私に呪いを掛け、我が妃を殺した罪はきっちりと償ってもらうからね」

「竜王?貴方が竜王と言うなら……貴方が“大切なモノだ”と呼ぶレイは……」

恐る恐る声を出したのはヘイスティングス借りてきた猫ではなく、ダンビュライト令嬢だ。ふむ。礼儀知らずであっても、それなりに頭は働くようだ。

「レイは私の唯一の娘だ」
「「────っ!!??」」

「ダンビュライトやグレスタン大公、それに……テイルザール王妃と第一側妃には、色々お世話になったようだね?勿論、それらに関してもお礼はさせてもらうから」

「ひぃ──っ!」
「そんな!私は知らなくて─」

“知らなかった”では許されない。たとえ、それがレイラーニではなかったとしても、人に対してして良い事ではないのだから。

「ただ、ここに来賓客として来ている関係の無い者達まで巻き込むつもりはないから、関係の無い者は今すぐこのホールから出て行くと良い。少しでも関係している者は……今逃げたとしても、調べて見付けて……必ず報いを受けてもらう。だから、できれば無駄な事はしないでもらいたい」

ー何人たりとも逃さないー

「くっそ!だが、ここはテイルザールだ!竜王だからと、そこの竜人と2人だけで、その娘を抱えたままで我ら獣人の騎士達に勝ると!?ここでお前達を倒せば、竜王国は我ら獣人のモノだ!」
「「「「「うおぉぉぉーっ!」」」」」

ヘイスティングスの掛け声に、獣人の騎士等が雄叫びを上げ賛同する。テイルザール王国の獣人は、脳筋しかいないらしい。

何も関係の無い者達は慌ててホールから出て行き、それと入れ替わるように獣人の騎士達がホールへと雪崩込んで来た。

「流石の竜王も、これではもう動けないだろう?」
「ふっ……私には、虚勢を張る猫にしか見えないな」
「ネル──竜王陛下、煽らないで下さい。面倒臭くなりますから。それに、早くレイ様をゆっくり休ませてあげましょう」
「それはそうだね。サクッとやろうか」
「私達を馬鹿にするのもここまでた!」

眉間に皺を寄せたまま、呆れた声を出すテオフィル。それにキレたのはヘイスティングス。

「馬鹿にしてない─とは言えないな。でも、誰が2人だけだと言った?否。2人だけでも十分なんだけどね……」

と言ったところで、タイミングよく

ドンッ───

と言う音と同時に、ホールの壁が一部崩れ落ちた。

「「何が───つ!!??」」


『竜王陛下、お久し振りです』
「あぁ、久し振りだね。早速来てくれてありがとう」

そこに現れたのは、月の光を浴びて白い鱗がキラキラと綺麗に輝く白竜だった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

【完結】ツンな令嬢は婚約破棄され、幸せを掴む

さこの
恋愛
伯爵令嬢アイリーンは素直になれない性格だった。 姉は優しく美しく、周りから愛され、アイリーンはそんな姉を見て羨ましくも思いながらも愛されている姿を見て卑屈になる。 アイリーンには婚約者がいる。同じく伯爵家の嫡男フランク・アダムス フランクは幼馴染で両親から言われるがままに婚約をした。 アイリーンはフランクに憧れていたが、素直になれない性格ゆえに、自分の気持ちを抑えていた。 そんなある日、友達の子爵令嬢エイプリル・デュエムにフランクを取られてしまう エイプリルは美しい少女だった。 素直になれないアイリーンは自分を嫌い、家を出ようとする。 それを敏感に察知した兄に、叔母様の家に行くようにと言われる、自然豊かな辺境の地へと行くアイリーン…

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」 「はあ?」 初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた? 脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ? なろう様でも公開中です。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です

堀 和三盆
恋愛
「それじゃあ、ちょっと番に会いに行ってくるから。ええと帰りは……7日後、かな…」  申し訳なさそうに眉を下げながら。  でも、どこかいそいそと浮足立った様子でそう言ってくる夫に対し、 「行ってらっしゃい、気を付けて。番さんによろしくね!」  別にどうってことがないような顔をして。そんな夫を元気に送り出すアナリーズ。  獣人であるアナリーズの夫――ジョイが魂の伴侶とも言える番に出会ってしまった以上、この先もアナリーズと夫婦関係を続けるためには、彼がある程度の時間を番の女性と共に過ごす必要があるのだ。 『別に性的な接触は必要ないし、獣人としての本能を抑えるために、番と二人で一定時間楽しく過ごすだけ』 『だから浮気とは違うし、この先も夫婦としてやっていくためにはどうしても必要なこと』  ――そんな説明を受けてからもうずいぶんと経つ。  だから夫のジョイは一カ月に一度、仕事ついでに番の女性と会うために出かけるのだ……妻であるアナリーズをこの家に残して。  夫であるジョイを愛しているから。  必ず自分の元へと帰ってきて欲しいから。  アナリーズはそれを受け入れて、今日も番の元へと向かう夫を送り出す。  顔には飛び切りの笑顔を張り付けて。  夫の背中を見送る度に、自分の内側がズタズタに引き裂かれていく痛みには気付かぬふりをして――――――。 

処理中です...