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*グレスタン公国*

4 庭園での再会

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朝起きて、渡されていた服に着替え、言われた通りの6時に1階へ行ったが、そこに侍女長の姿はなかった。「早かった?」と思いながら待ち続け─

「何故食堂に来なかったの?でも、もう時間も過ぎてしまったから、今日の朝食は無しよ。今から、貴方の仕事を説明するから、付いて来なさい」
「………はい………」

あれから、侍女長がやって来たのは7時前だった。どうやら、6時から7時の間に食堂で朝食を取らなければいけなかったそうだ。昨日は1日パンとスープだけで、今日の朝食は無し。もう、お腹が空いているのかいないのか──自分でもよく分からなくなっていた。




私に与えられた仕事は洗濯だった。新入りの使用人がする仕事だ。
「コレを昼迄に仕上げるのよ。できなければ、昼食も間に合わないと言う事だから」
「はい……」

侍女長は、一通りの説明を終えると洗濯場から去って行った。
私の目の前にあるのは、積み上げられた洗濯物。それら全てを昼迄に。

「絶対…無理な量だよね………」

昼食も無しかな─とそっとため息を吐いた後、私は洗濯に取り掛かった。






予想通り、洗濯物は昼迄に終える事ができず、昼食も食べる事ができなかった。

「今からお客様がいらっしゃるそうだから、貴方はその方の視界に入る事の無いように、庭園の掃除でもしていなさい」

それなら、庭園の掃除ではなく、離れに引き篭もった方が良いのでは?と疑問に思ったりもしたが、侍女長にそう言われれば従う事しかできず、「分かりました」と返事をしてから、直ぐに庭園へと向かった。そんな私の後ろ姿を、侍女長が嗤いながら見ていた事には気付かなかった。




「お姉様…………」

庭園の奥にある大きな木。私はよく、その木に隠れて泣いていた。隠れていたのにも関わらず、必ずお姉様がやって来て私を抱きしめてくれた。

『レイラーニ。私の可愛いレイラーニ。大好きよ』

「………」

どうして、お姉様達が────

「レイラーニ?」
「っ!?」

後ろから名前を呼ばれて振り返ると、そこにはジャレッド=クラウシス様が居た。ジャレッド様に会うのは、お姉様達が亡くなってから初めてだ。

「ジャレッドさ───」
「何故、ここにレイラーニが居るんだ!?」
「え?」

私の目の前に居るのは、ジャレッド様なんだろうか?ジャレッド様はいつも優しく微笑んでくれて、お姉様と一緒に私を助けてくれていたのに。

「あの…庭園の掃除を………」
「この庭園は、ローズのお気に入りの庭園だった。そのローズが居ないのに、何故レイラーニ……お前が居るんだ!?」

“お前

ーなるほど。ジャレッド様ものかー

ストンと何かが腑に落ちた。

「どうして、ローズがあんな目に遭ったのに……色持ちの…能無しのお前が…………」

グッと唇を噛み締めるジャレッド様。

“お前が代わりに死ねばよかったのに”

とは、流石に我慢したのだろう。我慢せず言えば良いのに。ジャレッド様が我慢したところで、既に陰で言われている事は知っているし、直接言われた事もある。

「ジャ──クラウシス様、申し訳ありませんでした。今後、この庭園には入らないようにします。クラウシス様の視界にも、入らないように…努めます。失礼します」

頭を下げた後、再びクラウシス様に視線を向ける事はせず、急ぎ足でその場を後にした。






「まさか、クラウシス様の視界に入るとは…クラウシス様は、相当お怒りだったそうよ。それで、夕食は抜きにしろと、旦那様から言われたから、貴女はもう部屋に下がりなさい」
「申し訳ありませんでした……」

その時の侍女長の嗤った顔を見てようやく気が付いた。侍女長が、態と私を庭園へとやった事に。そこで、私とクラウシス様を偶然を装って会わせて、こうなる事を予想して──
どうしてそんな事をする必要があったのか。



その理由は、翌日に知る事になった。



「それじゃあ、クラウシス様とグレッタお嬢様の婚約が成立したのね」

食堂で朝食を取っていると、使用人達の話が耳に入って来た。

ークラウシス様とグレッタが婚約ー

グレッタ=ダンビュライト

叔父の一人娘で、お姉様の従妹。彼女の髪色はオフホワイト。お姉様の次に能力が高いと言われている。おそらく、叔父の後を継ぐのはグレッタだろうから、クラウシス様は婚約相手が変わったけど、予定通りダンビュライト家に婿入りする事に変わりは無いと言う事だ。
昨日のアレは、私に改めて自分の立場を分からせる為だったんだろう。
グレッタとクラウシス様が当主を引き継いだ後、その時私は、一体どうなっているんだろうか?




「ちゃんと食べているか?ほら、コレを持って行きなさい」
「いつも、ありがとうございます」
「礼は良いから、直ぐに隠して持って行きなさい」

他の使用人に気付かれないように、私のエプロンのポケットにお菓子やパンを入れてくれるのは、料理長だ。唯一、私を1人の人として見てくれる人だ。私がよく食事を抜かれるのを知っていて、いざと言う時の為に色んな物をくれるのだ。きっと、これが無ければ倒れていた日もあっただろうと思う。


ーいつか、恩返しができれば良いなー



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