2 / 42
*グレスタン公国*
2 お食事会とお留守番
しおりを挟む
「私の可愛い妹に何を言ったのか、一言一句違える事なくもう一度、ここで私に言いなさい」
「それ…は………」
「言えないの?なら、お父様の前でなら言えるかしら?」
「ひぃ──っ!」
「すみませんでした!!」
「ごめんなさい!!」
そう言って、泣きながら走り去って行く3人の子達を睨みつけていたお姉様だけど、私に視線を向けて来る時には、いつもの優しいお姉様の顔をしていた。
「レイラーニ、あんな子達の言う事なんて気にしては駄目よ。治癒の力が無くたって、貴方はダンビュライト家の娘で、私の大好きな可愛い妹なんだからね!」
「お姉様…ありがとう。私もお姉様が…大好きです」
「はうっ!レイラーニが可愛い!!」
どんな辛い言葉を吐かれても、お姉様が抱きしめてくれれば心が晴れた。悲しい気持ちになっても、お父様とお母様が微笑んでくれれば幸せな気持ちになれた。
そして、お姉様が17歳になると、婚約者ができた。
「ジャレッド=クラウシス様。私の婚約者で、レイラーニの兄になる方よ」
「私はジャレッド、よろしくね。ようやく君に会えた。ローズがいつも君の事を自慢していたから、ずっと会いたかったんだ」
そう言って、お姉様もジャレッド様も嬉しそうに笑っていた。
ー私に自慢できる事なんて何一つないのにー
それでも、こんな私でも、相変わらずお姉様は優しいし、ジャレッド様も私を見下したりする事はなかった。ジャレッド様も、無能な私を助けてくれるようになった。
そのジャレッド様は、クラウシス伯爵家の次男で、ダンビュライト家はお姉様が当主を引き継ぐ事が決まっていた為、ジャレッド様が婿入りする事になる。2人が並んでいる姿はとても綺麗だ。お似合いの2人だ。お姉様の魔力には敵わないが、ジャレッド様もそれなりの魔力を持っているそうだ。
そんな2人が学校に通う事になり、お姉様達と一緒に過ごす時間が減ってまい、寂しいな─と思っていると「レイラーニとの時間が少なくなって寂しいわ!」と言って、夜に私の部屋へと時々やって来て、一緒に寝てくれたりした。
「今週末のディナーは楽しみね」
「私は緊張するわ」
今週末のディナーを楽しみにしているのはお姉様。私は正直に言うと……行きたくない。そのディナーは、この国の君主であるグレスタン大公に招待されたものだった。お姉様の婚約祝いのお食事会だ。
このグレスタン公国は、大陸にはない非常に純度の高い魔石がよく採れる為、その魔石を輸出する事により国が潤っている。潤っているが、その魔石を狙って過去には魔力持ちではない獣人族に攻め込まれた事もあった。それでも、グレスタン公国には優秀な結界師が居た為、その結界のお陰で他国からの侵入を防ぐ事ができていた。その上、先々代の竜王の病気をダンビュライトの祖先が治癒したそうで、それ以降、この国は竜王からの加護も受けていた為、獣人族もこの国に手を出して来ることはなかった。
そう言った経緯もあり、ダンビュライト家に祝い事があれば、君主自らも祝ってくれるのだ。
そんな立派な栄誉ある一族に生まれた能無しの私が、そのディナーに参加しても良いのか──勿論、そんな事を口にすれば、お姉様もお父様もお母様も怒るだろうから、絶対に口にはしない。何より、君主であるグレスタン大公も能無しの私にも優しいのだ。
少し憂鬱になりながらも迎えた週末。
「本当に大丈夫?」
「うん。私は大丈夫だから、皆は行って来て」
私の気持ちがある意味通じたのか、お食事会前日の夜から風邪をひいてしまったようで熱が出てしまった。そんな私を心配して、お母様だけでも家に残ると言ってくれたけど、招待してくれた相手が相手だけに「私は大丈夫だから」と笑顔で説得した。何とか説得ができた後「それじゃあ、メレーヌ、くれぐれもレイラーニの事を頼んだわよ」と、お母様は侍女長であるメレーヌに声を掛けてから部屋を出て行った。
「はぁ…どうして私が………」
「………」
お母様が部屋から出て行った後に、メレーヌがため息を吐く。
「大した熱でもありませんから、付き添いしなくても大丈夫ですよね?何かあればベルを鳴らして下さい」
「…分かりました」
普段、私が使用人達から何かされたり言われたりする事はない。寧ろ優しい。でも、それは、この邸内にお父様やお母様やお姉様が居る時だけだ。いつもニコニコ優しい侍女長も、お父様達が居なくなれば、あからさまに態度を変えるのだ。
ーそれは、私が無能だから仕方無いー
そう言う自覚があるから、その事を誰にも言えずにいた。そんな私をメレーヌが気に掛けてくれる筈もなく、ベルを鳴らさなければ食事すら持って来てはくれず、私は怠い体を起こす事もできずベッドの上で寝続ける事しかできなかった。
それから次に目を覚ましたのは、その日の夜中だった。昼間は晴れていたけど、雨が降っているようだった。
ーお腹…空いたな……ー
来てくれるかどうかは分からないけど、ベルを鳴らそうとベルに手を伸ばした時、私の部屋の寝室の扉がノックされる事なく、大きな音を立て開かれた。
「それ…は………」
「言えないの?なら、お父様の前でなら言えるかしら?」
「ひぃ──っ!」
「すみませんでした!!」
「ごめんなさい!!」
そう言って、泣きながら走り去って行く3人の子達を睨みつけていたお姉様だけど、私に視線を向けて来る時には、いつもの優しいお姉様の顔をしていた。
「レイラーニ、あんな子達の言う事なんて気にしては駄目よ。治癒の力が無くたって、貴方はダンビュライト家の娘で、私の大好きな可愛い妹なんだからね!」
「お姉様…ありがとう。私もお姉様が…大好きです」
「はうっ!レイラーニが可愛い!!」
どんな辛い言葉を吐かれても、お姉様が抱きしめてくれれば心が晴れた。悲しい気持ちになっても、お父様とお母様が微笑んでくれれば幸せな気持ちになれた。
そして、お姉様が17歳になると、婚約者ができた。
「ジャレッド=クラウシス様。私の婚約者で、レイラーニの兄になる方よ」
「私はジャレッド、よろしくね。ようやく君に会えた。ローズがいつも君の事を自慢していたから、ずっと会いたかったんだ」
そう言って、お姉様もジャレッド様も嬉しそうに笑っていた。
ー私に自慢できる事なんて何一つないのにー
それでも、こんな私でも、相変わらずお姉様は優しいし、ジャレッド様も私を見下したりする事はなかった。ジャレッド様も、無能な私を助けてくれるようになった。
そのジャレッド様は、クラウシス伯爵家の次男で、ダンビュライト家はお姉様が当主を引き継ぐ事が決まっていた為、ジャレッド様が婿入りする事になる。2人が並んでいる姿はとても綺麗だ。お似合いの2人だ。お姉様の魔力には敵わないが、ジャレッド様もそれなりの魔力を持っているそうだ。
そんな2人が学校に通う事になり、お姉様達と一緒に過ごす時間が減ってまい、寂しいな─と思っていると「レイラーニとの時間が少なくなって寂しいわ!」と言って、夜に私の部屋へと時々やって来て、一緒に寝てくれたりした。
「今週末のディナーは楽しみね」
「私は緊張するわ」
今週末のディナーを楽しみにしているのはお姉様。私は正直に言うと……行きたくない。そのディナーは、この国の君主であるグレスタン大公に招待されたものだった。お姉様の婚約祝いのお食事会だ。
このグレスタン公国は、大陸にはない非常に純度の高い魔石がよく採れる為、その魔石を輸出する事により国が潤っている。潤っているが、その魔石を狙って過去には魔力持ちではない獣人族に攻め込まれた事もあった。それでも、グレスタン公国には優秀な結界師が居た為、その結界のお陰で他国からの侵入を防ぐ事ができていた。その上、先々代の竜王の病気をダンビュライトの祖先が治癒したそうで、それ以降、この国は竜王からの加護も受けていた為、獣人族もこの国に手を出して来ることはなかった。
そう言った経緯もあり、ダンビュライト家に祝い事があれば、君主自らも祝ってくれるのだ。
そんな立派な栄誉ある一族に生まれた能無しの私が、そのディナーに参加しても良いのか──勿論、そんな事を口にすれば、お姉様もお父様もお母様も怒るだろうから、絶対に口にはしない。何より、君主であるグレスタン大公も能無しの私にも優しいのだ。
少し憂鬱になりながらも迎えた週末。
「本当に大丈夫?」
「うん。私は大丈夫だから、皆は行って来て」
私の気持ちがある意味通じたのか、お食事会前日の夜から風邪をひいてしまったようで熱が出てしまった。そんな私を心配して、お母様だけでも家に残ると言ってくれたけど、招待してくれた相手が相手だけに「私は大丈夫だから」と笑顔で説得した。何とか説得ができた後「それじゃあ、メレーヌ、くれぐれもレイラーニの事を頼んだわよ」と、お母様は侍女長であるメレーヌに声を掛けてから部屋を出て行った。
「はぁ…どうして私が………」
「………」
お母様が部屋から出て行った後に、メレーヌがため息を吐く。
「大した熱でもありませんから、付き添いしなくても大丈夫ですよね?何かあればベルを鳴らして下さい」
「…分かりました」
普段、私が使用人達から何かされたり言われたりする事はない。寧ろ優しい。でも、それは、この邸内にお父様やお母様やお姉様が居る時だけだ。いつもニコニコ優しい侍女長も、お父様達が居なくなれば、あからさまに態度を変えるのだ。
ーそれは、私が無能だから仕方無いー
そう言う自覚があるから、その事を誰にも言えずにいた。そんな私をメレーヌが気に掛けてくれる筈もなく、ベルを鳴らさなければ食事すら持って来てはくれず、私は怠い体を起こす事もできずベッドの上で寝続ける事しかできなかった。
それから次に目を覚ましたのは、その日の夜中だった。昼間は晴れていたけど、雨が降っているようだった。
ーお腹…空いたな……ー
来てくれるかどうかは分からないけど、ベルを鳴らそうとベルに手を伸ばした時、私の部屋の寝室の扉がノックされる事なく、大きな音を立て開かれた。
115
お気に入りに追加
1,065
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢姉妹の対照的な日々 【完結】
あくの
恋愛
女性が高等教育を受ける機会のないこの国においてバイユ公爵令嬢ヴィクトリアは父親と交渉する。
3年間、高等学校にいる間、男装をして過ごしそれが他の生徒にバレなければ大学にも男装で行かせてくれ、と。
それを鼻で笑われ一蹴され、鬱々としていたところに状況が変わる出来事が。婚約者の第二王子がゆるふわピンクな妹、サラに乗り換えたのだ。
毎週火曜木曜の更新で偶に金曜も更新します。
皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
幼い頃から天の声が聞こえるシラク公爵の娘であるミレーヌ。
この天の声にはいろいろと助けられていた。父親の命を救ってくれたのもこの天の声。
そして、進学に向けて騎士科か魔導科を選択しなければならなくなったとき、助言をしてくれたのも天の声。
ミレーヌはこの天の声に従い、騎士科を選ぶことにした。
なぜなら、魔導科を選ぶと、皇子の婚約者という立派な役割がもれなくついてきてしまうからだ。
※完結しました。新年早々、クスっとしていただけたら幸いです。軽くお読みください。
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
最悪なお見合いと、執念の再会
当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。
しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。
それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。
相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。
最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
どうして私にこだわるんですか!?
風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。
それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから!
婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。
え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!?
おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。
※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる