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第二章
神々の失態①
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*ほぼ説明回になるので、本日は2話投稿します。宜しくお願いします*
「前世の名前…」
あぁ…そうか。時を司ると言う事は、私の全てを把握していると言う事か。
「名前はまだ思い出していません。」
『あら、そうなの?でも…ここに来られたと言う事は、あなたはもう前に進む事を選んだと言う事。心は落ち着いている筈。後は…切欠…かしら?』
確かにウォルテライト女神様の言う通りだと思う。琢磨と雪を見るとまだ少し胸がチクリとするが、その痛みと一緒にでも前に進みたい。進もうと思った。
『名前の事は後にして…先ずは"歪み"の話からするわね。』
ウォルテライト女神様は、優しげに微笑んでいた顔を引き締め、少し後悔したような顔をしながら語りだした。
一番最初に生まれた"歪み"は謂わば、偶然だった。神々でさえ気付かなかった"歪み"。言い伝え通り、最初の"歪み"を直したのはリーデンブルク女神。それでも完璧には直せなかった。それを補う為に聖女召還が行われて来た。
そして、その"歪み"は別の所にも影響を及ぼした。神々でさえ分からない。この大陸で生まれる筈であった魂が、稀に異世界へと転移してしまう…と言う。それがまた"歪み"を増長させるものとなってしまっていた。時を司るウォルテライト女神は、なんとか魂の記憶を辿り、その辿り着いた人物をリーデンブルク女神が聖女として召還し、本来生を受ける筈であった此方に戻していたそうだ。過去の聖女様達の中に、異世界から来た聖女が居たのはその為だったらしい。
もともとの魂が此方の物なので、最初は戸惑う彼女達だったが、此方に馴染むのも早かったそうだ。そう、異世界から来た彼女達は最終的には本当に幸せになれていたのだ。
順調に"歪み"を直しつつ、魂の異世界への転移も殆どみられなくなり、後一人、異世界へ飛ばされた魂を戻せば、この"歪み"が完璧に直せるかもしれないとなった頃に異変が起こった。
キリアンの森の湖を住処としていた、水を司るウォルテライト女神。いつもなら鏡の様に美しい湖面が濁りを帯びた。それと同じく、ウォルテライト女神の神の力が弱ってしまったのだ。気付くのには少し遅かった。"歪み"から水の流れを利用し、とある魔族がウォルテライト女神に少しずつ、すぐには気付かれない程度の毒を流し続けていたのだ。
力が弱まっていたせいか、その時の聖女召還のタイミングに失敗してしまったらしい。本来呼ぶべき女性とは違う女性を召還してしまった…いや、本来召還するべき女性と、召還する筈のなかった女性…つまり、異世界から2人も召還してしまったのだ。
ードクンー
心臓が嫌な音を立てる。
ウォルテライト女神は、少し目を伏せた後、紺色の瞳を真っ直ぐに私に向ける。
『その時に巻き込んでしまったのが…あなたの母親だったの。』
ーあぁ…やっぱりそうかー
もともと召還するのは一人だった。そこに無理矢理2人も魔法陣に入ってしまい、魔法陣に負荷が掛かり過ぎた。その負荷の影響が、更にその2人に掛かったのだ。此方の召還場に召還される前に一度この湖に転移させた。
召還された2人は負荷の影響を受け若返っていたらしい。本当の聖女だった筈の女性は、本来であれば18歳だったのが10歳に。私の母は24歳だった筈が18歳に。いくら時を司る神でも、年を戻すなど手を加えるのはタブー。そして、10歳の子供が聖女として浄化巡礼させるのも…と、困った状況だったのだが…。
「それじゃあ…私が代わりになりましょう。」
と、母が申し出たそうだ。ウォルテライト女神もリーデンブルク女神も悩んだそうだが、続けて聖女を召還するリスクを考えると、最終的には母の案を受け入れた。
本来聖女だった女の子は、記憶を抜いてもとあるべき処へ還し、母は聖女としてリーデンブルク女神の加護を受け召還場へと送られた。
そして、母は年齢的に私を生む前の年齢だったので、何か訊かれた場合は「自分の世界には婚約者が居た」と言う事にしていたらしい。
母は、もう元の世界には還れないと解っていたが、誰に文句を言う事も泣きわめく事もなく、浄化巡礼の旅でもいつも笑顔で過ごして居たらしい。そんな心根の優しく明るく、リーデンブルク女神の加護を持つ聖女様。好かれない筈がない。巡礼の旅が終わった後、かの聖女は誰と婚姻を結ぶのか…誰が彼女を射止めるのか…貴族社会の中では一番の話のネタになっていたそうだ。
無事巡礼の旅も終わり"歪み"も修正した。後は聖女様がこれからも健やかにこの大陸で過ごせるように…と皆が願っていた矢先…母は自ら命を断ってしまったのだ。
自ら命を断ってしまった魂は、闇に囚われたり輪廻転生する事も叶わなくなる為、ウォルテライト女神とリーデンブルク女神は慌てて母の魂を探し、消失してしまう前になんとか見付けだし、またこの湖に連れ戻した。
それは神としては干渉してはならない…殆ど禁忌に触れる事だと。ただ、母の事に関しては神々の失態からの出来事。いわば、母は被害者。他の神々からも、今回の事が何かしらの影響を与えた場合は、今回限りは全ての神々の名に置いて手を貸すことを厭わないーと、特例が出されたと言う。
ーそれ…"チート"どころじゃ…無いよね?ー
と、いやな汗がブワリと吹き出たのは…気のせいに…したい…。
「前世の名前…」
あぁ…そうか。時を司ると言う事は、私の全てを把握していると言う事か。
「名前はまだ思い出していません。」
『あら、そうなの?でも…ここに来られたと言う事は、あなたはもう前に進む事を選んだと言う事。心は落ち着いている筈。後は…切欠…かしら?』
確かにウォルテライト女神様の言う通りだと思う。琢磨と雪を見るとまだ少し胸がチクリとするが、その痛みと一緒にでも前に進みたい。進もうと思った。
『名前の事は後にして…先ずは"歪み"の話からするわね。』
ウォルテライト女神様は、優しげに微笑んでいた顔を引き締め、少し後悔したような顔をしながら語りだした。
一番最初に生まれた"歪み"は謂わば、偶然だった。神々でさえ気付かなかった"歪み"。言い伝え通り、最初の"歪み"を直したのはリーデンブルク女神。それでも完璧には直せなかった。それを補う為に聖女召還が行われて来た。
そして、その"歪み"は別の所にも影響を及ぼした。神々でさえ分からない。この大陸で生まれる筈であった魂が、稀に異世界へと転移してしまう…と言う。それがまた"歪み"を増長させるものとなってしまっていた。時を司るウォルテライト女神は、なんとか魂の記憶を辿り、その辿り着いた人物をリーデンブルク女神が聖女として召還し、本来生を受ける筈であった此方に戻していたそうだ。過去の聖女様達の中に、異世界から来た聖女が居たのはその為だったらしい。
もともとの魂が此方の物なので、最初は戸惑う彼女達だったが、此方に馴染むのも早かったそうだ。そう、異世界から来た彼女達は最終的には本当に幸せになれていたのだ。
順調に"歪み"を直しつつ、魂の異世界への転移も殆どみられなくなり、後一人、異世界へ飛ばされた魂を戻せば、この"歪み"が完璧に直せるかもしれないとなった頃に異変が起こった。
キリアンの森の湖を住処としていた、水を司るウォルテライト女神。いつもなら鏡の様に美しい湖面が濁りを帯びた。それと同じく、ウォルテライト女神の神の力が弱ってしまったのだ。気付くのには少し遅かった。"歪み"から水の流れを利用し、とある魔族がウォルテライト女神に少しずつ、すぐには気付かれない程度の毒を流し続けていたのだ。
力が弱まっていたせいか、その時の聖女召還のタイミングに失敗してしまったらしい。本来呼ぶべき女性とは違う女性を召還してしまった…いや、本来召還するべき女性と、召還する筈のなかった女性…つまり、異世界から2人も召還してしまったのだ。
ードクンー
心臓が嫌な音を立てる。
ウォルテライト女神は、少し目を伏せた後、紺色の瞳を真っ直ぐに私に向ける。
『その時に巻き込んでしまったのが…あなたの母親だったの。』
ーあぁ…やっぱりそうかー
もともと召還するのは一人だった。そこに無理矢理2人も魔法陣に入ってしまい、魔法陣に負荷が掛かり過ぎた。その負荷の影響が、更にその2人に掛かったのだ。此方の召還場に召還される前に一度この湖に転移させた。
召還された2人は負荷の影響を受け若返っていたらしい。本当の聖女だった筈の女性は、本来であれば18歳だったのが10歳に。私の母は24歳だった筈が18歳に。いくら時を司る神でも、年を戻すなど手を加えるのはタブー。そして、10歳の子供が聖女として浄化巡礼させるのも…と、困った状況だったのだが…。
「それじゃあ…私が代わりになりましょう。」
と、母が申し出たそうだ。ウォルテライト女神もリーデンブルク女神も悩んだそうだが、続けて聖女を召還するリスクを考えると、最終的には母の案を受け入れた。
本来聖女だった女の子は、記憶を抜いてもとあるべき処へ還し、母は聖女としてリーデンブルク女神の加護を受け召還場へと送られた。
そして、母は年齢的に私を生む前の年齢だったので、何か訊かれた場合は「自分の世界には婚約者が居た」と言う事にしていたらしい。
母は、もう元の世界には還れないと解っていたが、誰に文句を言う事も泣きわめく事もなく、浄化巡礼の旅でもいつも笑顔で過ごして居たらしい。そんな心根の優しく明るく、リーデンブルク女神の加護を持つ聖女様。好かれない筈がない。巡礼の旅が終わった後、かの聖女は誰と婚姻を結ぶのか…誰が彼女を射止めるのか…貴族社会の中では一番の話のネタになっていたそうだ。
無事巡礼の旅も終わり"歪み"も修正した。後は聖女様がこれからも健やかにこの大陸で過ごせるように…と皆が願っていた矢先…母は自ら命を断ってしまったのだ。
自ら命を断ってしまった魂は、闇に囚われたり輪廻転生する事も叶わなくなる為、ウォルテライト女神とリーデンブルク女神は慌てて母の魂を探し、消失してしまう前になんとか見付けだし、またこの湖に連れ戻した。
それは神としては干渉してはならない…殆ど禁忌に触れる事だと。ただ、母の事に関しては神々の失態からの出来事。いわば、母は被害者。他の神々からも、今回の事が何かしらの影響を与えた場合は、今回限りは全ての神々の名に置いて手を貸すことを厭わないーと、特例が出されたと言う。
ーそれ…"チート"どころじゃ…無いよね?ー
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