初恋の還る路

みん

文字の大きさ
上 下
64 / 105
第二章

神々の失態①

しおりを挟む
*ほぼ説明回になるので、本日は2話投稿します。宜しくお願いします*







「前世の名前…」

あぁ…そうか。時を司ると言う事は、を把握していると言う事か。

「名前はまだ思い出していません。」

『あら、そうなの?でも…に来られたと言う事は、あなたはもう前に進む事を選んだと言う事。心は落ち着いている筈。後は…切欠…かしら?』

確かにウォルテライト女神様の言う通りだと思う。琢磨と雪を見るとまだ少し胸がチクリとするが、その痛みと一緒にでも前に進みたい。進もうと思った。

『名前の事は後にして…先ずは"歪み"の話からするわね。』

ウォルテライト女神様は、優しげに微笑んでいた顔を引き締め、少し後悔したような顔をしながら語りだした。









一番最初に生まれた"歪み"は謂わば、偶然だった。神々でさえ気付かなかった"歪み"。言い伝え通り、最初の"歪み"を直したのはリーデンブルク女神。それでも完璧には直せなかった。それを補う為に聖女召還が行われて来た。

そして、その"歪み"は別の所にも影響を及ぼした。神々でさえ分からない。この大陸で生まれる筈であった魂が、稀に異世界へと転移してしまう…と言う。それがまた"歪み"を増長させるものとなってしまっていた。時を司るウォルテライト女神は、なんとか魂の記憶を辿り、その辿り着いた人物をリーデンブルク女神が聖女として召還し、本来生を受ける筈であった此方に戻していたそうだ。過去の聖女様達の中に、異世界から来た聖女が居たのはその為だったらしい。

もともとの魂が此方の物なので、最初は戸惑う彼女達だったが、此方に馴染むのも早かったそうだ。そう、異世界から来た彼女達は最終的には本当に幸せになれていたのだ。

順調に"歪み"を直しつつ、魂の異世界への転移も殆どみられなくなり、後一人、異世界へ飛ばされた魂を戻せば、この"歪み"が完璧に直せるかもしれないとなった頃に異変が起こった。


キリアンの森の湖を住処としていた、水を司るウォルテライト女神。いつもなら鏡の様に美しい湖面が濁りを帯びた。それと同じく、ウォルテライト女神の神の力が弱ってしまったのだ。気付くのには少し遅かった。"歪み"から水の流れを利用し、とある魔族がウォルテライト女神に少しずつ、すぐには気付かれない程度の毒を流し続けていたのだ。

力が弱まっていたせいか、その時の聖女召還のタイミングに失敗してしまったらしい。本来呼ぶべき女性とは違う女性を召還してしまった…いや、本来召還するべき女性と、召還する筈のなかった女性…つまり、異世界から2人も召還してしまったのだ。


ードクンー 

心臓が嫌な音を立てる。

ウォルテライト女神は、少し目を伏せた後、紺色の瞳を真っ直ぐに私に向ける。

『その時に巻き込んでしまったのが…あなたの母親だったの。』

ーあぁ…やっぱりそうかー

もともと召還するのは一人だった。そこに無理矢理2人も魔法陣に入ってしまい、魔法陣に負荷が掛かり過ぎた。その負荷の影響が、更にその2人に掛かったのだ。此方の召還場に召還される前に一度この湖ここに転移させた。

召還された2人は負荷の影響を受け若返っていたらしい。本当の聖女だった筈の女性は、本来であれば18歳だったのが10歳に。私の母は24歳だった筈が18歳に。いくら時を司る神でも、年を戻すなど手を加えるのはタブー。そして、10歳の子供が聖女として浄化巡礼させるのも…と、困った状況だったのだが…。

「それじゃあ…私が代わりになりましょう。」

と、母が申し出たそうだ。ウォルテライト女神もリーデンブルク女神も悩んだそうだが、続けて聖女を召還するリスクを考えると、最終的には母の案を受け入れた。

本来聖女だった女の子は、記憶を抜いてもとあるべき処へ還し、母は聖女としてリーデンブルク女神の加護を受け召還場へと送られた。

そして、母は年齢的にを生む前の年齢だったので、何か訊かれた場合は「自分の世界には婚約者が居た」と言う事にしていたらしい。
母は、もう元の世界には還れないと解っていたが、誰に文句を言う事も泣きわめく事もなく、浄化巡礼の旅でもいつも笑顔で過ごして居たらしい。そんな心根の優しく明るく、リーデンブルク女神の加護を持つ聖女様。好かれない筈がない。巡礼の旅が終わった後、かの聖女は誰と婚姻を結ぶのか…誰が彼女を射止めるのか…貴族社会の中では一番の話のネタになっていたそうだ。


無事巡礼の旅も終わり"歪み"も修正した。後は聖女様がこれからも健やかにこの大陸で過ごせるように…と皆が願っていた矢先…母は自ら命を断ってしまったのだ。


自ら命を断ってしまった魂は、闇に囚われたり輪廻転生する事も叶わなくなる為、ウォルテライト女神とリーデンブルク女神は慌てて母の魂を探し、消失してしまう前になんとか見付けだし、またこの湖ここに連れ戻した。

それは神としては干渉してはならない…殆ど禁忌に触れる事だと。ただ、母の事に関しては神々の失態からの出来事。いわば、母は被害者。他の神々からも、今回の事が何かしらの影響を与えた場合は、今回限りは全ての神々の名に置いて手を貸すことを厭わないーと、特例が出されたと言う。

ーそれ…"チート"どころじゃ…無いよね?ー

と、いやな汗がブワリと吹き出たのは…気のせいに…したい…。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

呪われ令嬢、王妃になる

八重
恋愛
「シェリー、お前とは婚約破棄させてもらう」 「はい、承知しました」 「いいのか……?」 「ええ、私の『呪い』のせいでしょう?」 シェリー・グローヴは自身の『呪い』のせいで、何度も婚約破棄される29歳の侯爵令嬢。 家族にも邪魔と虐げられる存在である彼女に、思わぬ婚約話が舞い込んできた。 「ジェラルド・ヴィンセント王から婚約の申し出が来た」 「──っ!?」 若き33歳の国王からの婚約の申し出に戸惑うシェリー。 だがそんな国王にも何やら思惑があるようで── 自身の『呪い』を気にせず溺愛してくる国王に、戸惑いつつも段々惹かれてそして、成長していくシェリーは、果たして『呪い』に打ち勝ち幸せを掴めるのか? 一方、今まで虐げてきた家族には次第に不幸が訪れるようになり……。 ★この作品の特徴★ 展開早めで進んでいきます。ざまぁの始まりは16話からの予定です。主人公であるシェリーとヒーローのジェラルドのラブラブや切ない恋の物語、あっと驚く、次が気になる!を目指して作品を書いています。 ※小説家になろう先行公開中 ※他サイトでも投稿しております(小説家になろうにて先行公開) ※アルファポリスにてホットランキングに載りました ※小説家になろう 日間異世界恋愛ランキングにのりました(初ランクイン2022.11.26)

処理中です...