初恋の還る路

みん

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第二章

閑話ー伊藤琢磨視点②ー

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*すみません。少し、性的表現があります*








それから、彼女がバイトの日に、ちょくちょく雪と2人で遊びに行くようになった。あの写真を彼女に見られたらと思うと怖くて、雪の誘いを断る事ができなかった。きっと、その選択も間違いだった。後ろめたい事がなければ、彼女に説明して謝れば良かったんだ。それで彼女が怒ったとしても…それを受け入れて、また信頼を得る為に頑張れば良かったんだ。

後から知ったが、学校では俺と雪が付き合ってると言う噂が流れていたらしい。
彼女の態度が変わらなかった事や、何か言われたり訊かれたりする事もなかったから、俺と彼女は上手くいっていると思っていたし、雪との事も知られていないと思っていた。
彼女は顔に影を落として居たのに…全く気付いていなかった。


卒業式の日、大学も離れるから、これで雪とは縁を切って彼女をもっと大切にしていこうと決心していた。

決心…していたのに…

カフェの窓際の席に、テーブルを挟んで俺と雪と向かい合って座り、遅れて来る彼女を窓越しに外を眺めながら待っていた。会話は無い。5分から10分位してからだろうか、外を眺めていた俺に雪が声を掛けて来た。

「ねぇ…伊藤君。伊藤君は気付いてなかったかもしれないけど…私と伊藤君が付き合ってるかもって言う噂があったの、知ってた?私ね、その噂…訊かれても否定しなかったの。」

「はぁ!?」

驚きと怒りで雪の方に顔を向けると

「っ!?」

雪は左手で俺の右頬に手を添えてキスをして来た。

一瞬、何をされたのか分からなかった。視線を雪に奪われた瞬間、窓の外が一気にざわついた。雪の左手を振り払い窓越しに外を見るとー





、彼女と目が合った気がした。何もかも放ったらかしにして外に駆け出して彼女のもとに走った。もう駄目だった。彼女は目を閉じていたのに、涙が流れていた。見られたんだ。彼女は、最期に俺達を見たんだと分かった。
そこからはどうしたのか、いまいちよく覚えていない。彼女の親代わりである祖父母に連絡を取り、一緒に連れて行ってもらった霊安室で、泣き叫ぶおばあさんの横で呆然としていたのは覚えている。

そこからはもう…本当に駄目だった。自分が選択を間違えたくせに、その怒りを雪に向けたのだ。行き場の無い感情を雪にぶつけた。その日、俺は雪の家の部屋で雪と体の関係を持った。俺が初めてだったと言う事もあったかもしれないが、気遣いなんてしない。優しくもしない。ただただ感情をぶつけるだけの行為だった。それでも雪は…嬉しそうに笑っていたのだ。その笑顔を見ると、怖くなった。雪に八つ当たりして壊してやろうと思った自分の感情にも吐き気がした。こんな状況になっても嬉しそうにする雪。彼女の死は別として、俺が雪を抱くと言うのも…雪を喜ばせただけだったと言う事か…。
雪から自身を引き抜きベッドから降り、服を着てそのまま何も言わずに雪の家から出た。

涙なんて一切出なかった。泣く資格なんて…俺にはなかった。









ミューさんは不思議な人だった。顔がフードで隠れていたが、声で女の人かな?と思った。それでも、側に居ると何となく安心するような…でも少し胸が苦しくなるような感覚に陥る。初めて顔を見た時、綺麗な人だな…と思った。ただ、会う度に体調が悪そうだったから、この人大丈夫か?と心配になった。そうしたら、目の前で倒れ掛けて、咄嗟に手を出し受け止めた。ローブで隠れて分からなかったが、ほっそりした腰で、折れるのでは?と心配になった。それからは、ギリュー殿が俵担ぎの様にミューさんを担ぎ、あっと言う間に移転魔法で消えてしまったけど。


それからミューさんに会う事はなくて、雪と一緒に受ける訓練の日に久し振りに会った。相変わらずフードを深く被っていたから、表情はよく分からないが、元気そうで安心した。

やっぱり、ミューさんの側は少し居心地が良かった。俺に関心が無いどころか、どっちかと言うと避けられてる?ような態度が、逆に好感が持てた。日本でも多少はモテたが、こちらの世界に来てからは更にモテているようだ。まぁ、リーデンブルク様の加護があるからだろうけど。訓練中にもやたらと見学しているご令嬢とやらに黄色い歓声をあげられる。今はまだ、恋愛とかは遠慮したいのだが…。
そんな令嬢達とは全く違うミューさん。もっと話をしてみたい。また、顔を見たい。

ふと気付く。敏感になった感覚が自分に訴える。

ー彼女に…似ている?ー

見た目なんて、全く似ていない。声も違う。でも、ミューさんが…愛おしく思える。忘れていたあの時の感情が沸き上がる。

そんな時、第二王子がやって来た。一緒に居たのはレイナイト侯爵。確か、少し前に娘である令嬢が、襲撃にあい行方不明の末に遺体で発見されたとか噂になった侯爵様だろう。何故か、黒い笑顔を向けられたのは…気のせいではないだろう。
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