最初で最後の我儘を

みん

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竜王様とシオン様が私の部屋にやって来たのは、私が倒れた翌日だった。

人間ひと族の国で、魔獣や魔物の出現が増えているらしく、人間族ではない獣人族や竜族も交えての会議が行われているそうだ。
天空に住む竜族や、魔素が殆どない獣人国では魔物や魔獣が現れる事は滅多にないが、空を飛ぶ魔獣や魔物に関してはどちらの国にも影響を及ぼす可能性がある為、3つの種族が提携して対処していく事になっているからだ。

ヴィンス様が怪我をしたと言う討伐も、その対処をしている最中の事だったのだ。

悪いものが重なってしまった。



「シモンから聞いたけど、大丈夫かい?今は、体はどこも痛くないかい?」
「今は、もう痛くありません…ただ……“魔女の呪い”の発動条件が……分かりました。」

「「えっ!?」」

と、驚く竜王様とシモン様に、他の人達の人払いをお願いした後、私は発動条件の話をした。





「想い合えたら─が条件だったとは……魔女は、何と愚かな事を……」

竜王様と魔女は、親友だったと言っていた。怒り狂った魔女を止められなかった後悔と、死に際の魔女の後悔の為に、呪いを引き継いでしまっている私を助けたいと言ってくれた竜王様。

「それで、この事は、お2人以外には秘密にしてもらえませんか?特に……ヴィンス様だけには、絶対に知られたくないんです。」

この事実を知れば、ヴィンス様は自分を責めるかもしれない。それに、近衛騎士と言う務めも辞めてしまうかもしれない。それだけは…私が嫌なのだ。私なんかのせいで──。

「私が、ヴィンス様を諦めて距離を取れば…ヴィンス様も私の事を忘れてくれるでしょう?そうしたら……この呪いも、落ち着くかもしれませんよね?」

そう。このまま、天空にある竜族の国に居れば、ヴィンス様に会うことはないだろう。そうすれば、お互い、思い出になっていけるかもしれない。

「ジゼルが望むなら…私も黙っておくけど、本当に良いのかい?お互い、想い合う心が無くなっても、魔女の呪いは無くならないかもしれないよ?それでも、後悔はしないかい?」

魔女の呪いが無くなっても、無くならなくても、きっと後悔はするだろう。それでも、ヴィンス様には知られたくない。

「それに、ジゼルに怪我や病気が移る─となれば、ヴィンスの怪我や病気がすぐに治ると言う事になる。それはそれで、色々とと厄介な事にもなるけど…」

「あ、それでしたら、私に良い考えがあります。それを実行するには、プリュイ殿の助けが必要になりますが…」

シモン様が言うのと同時に『僕の助けって…何?』と、お昼寝をしていたプリュイが、水槽の中から飛び出してきた。

シモン様の考えとは─


水の妖精であるプリュイの創り出す水には、色んな物を浄化したり治癒をする力がある。
その為、もし、ヴィンス様が怪我や病気になった時、プリュイがその水を使って治したように見せ掛ける─と言う事だった。
プリュイは、私と下界を繋ぐように、頻繁にヴィンス様やヴァレリア、リル達と会っているから、そんな時に偶然出くわせて治療した─となっても、おかしくはないだろうと。それに、ヴィンス様を治療する事で、私が受ける痛みも減るかもしれないと。

『ジゼルが望むなら、僕はしてあげるよ!』

何とも可愛くて頼もしいタツノオトシゴである。

「プリュイ…それじゃあ、遠慮なくお願いするね。ありがとう。」

『任せておいて!』

と、プリュイはクルクルと楽しそうに部屋の中を飛び回った。










*ルリ視点*


ルチア様が竜国に行ってしまってから3ヶ月程経った頃、ルチア様はそのまま自主退学してしまった。もともと病弱だったらしく、体調を崩してしまい、療養する為に竜国で過ごす事になったそうだ。

「私は、このまま3年生終了迄は留学生活を続けるけど、それが終わればフォレクシスに帰るわ。」

と、ヴァレリア様とも後数ヶ月でお別れとなる。

「寂しくなります……」と、素直に気持ちを伝えると、ヴァレリア様も「私も寂しくなるわ。でも、まだ少し先の話だから、今は…2人だけだけど、たくさん思い出作りをしましょう!」と言って、私達は2人で色んな事をした。街へ出て買い物をして、美味しい物があれば買って、それをプリュイさんにお願いしてルチア様に届けてもらった。3人お揃いのリボンやピアスを買ったりもした。

そんな日々の中、穢れを浄化したり、魔獣と対峙する事もあった。私達聖女が浄化をしている間、騎士達が私達を護ってくれていた。時折、怪我をする騎士も居たけど、死者が出る事はなかった。
前回の浄化の時は、サクソニア様が怪我を負ったけど、すぐに治療魔法を掛けられる魔法使いが居た事と、その翌日にプリュイさんが治療してくれたお陰で、怪我はすぐに治った。

平民の私にも優しくしてくれて、仲良くしてくれたルチア様とはもう会えないかもしれない。
ルチア様が居なくなり、サクソニア様とも殆ど会ったりお茶をする事はなくなった。
別れとは─急に訪れる事なのだと思った。穢れが増え、魔獣の出現も増えつつある今の状況では、いつ別れが訪れてもおかしくはない。

ーもし、明日、急にロルフ様と二度と会えなくなったら?ー

きっと、後悔すると思う。



『──身分差だけで考えて断る事だけはしないで欲しいと思ってる。』


ルチア様が背中を押してくれる。

「ルチア様、私…ロルフ様の気持ちを受け入れます。そして、必ず、立派な聖女に…誰からも認められる聖女になって、ロルフ様の横に……自信を持って立てるよう頑張ります!」

空を見上げて、私はそう誓った。









❋エールを頂き、ありがとうございます❋
‧˚₊*̥(*˙꒳​˙* )‧˚₊*̥‧˚₊*̥(*˙꒳​˙* )‧˚₊*̥



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