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フルーツタルト
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『ジゼル、今日はジゼルの好きなフルーツタルトを持って来たよ。』
「プリュイ、いつもありがとう」
竜国で過ごし始めてから2週間が過ぎた。
まだ新しいブレスレットができていない為、ヴァレリアを呼ぶ事もできてはいないが、その分、プリュイが下界と竜国に居る私とを繋いでくれている。
私からはヴァレリアやリルに手紙を書き、ヴァレリアやリルからも手紙や、時々クッキーなどが贈られて来る。
そして、今日、プリュイが持って来てくれたのはフルーツタルト。以前、ヴィンス様が私に持って来てくれた物だ。
「ヴィンス様…から?」
『よく分かったね。そう。ヴィンスから。後、手紙も預かったよ。』
パシャッ─と、弾けた水の玉から一通の手紙が現れ、私の手元に落ちて来た。
「ありがとう。」
お礼を言った後、その手紙を開けて読み始めると、プリュイはこの部屋にある、プリュイ専用の水槽にダイブした。その水槽はトリーが用意してくれたもので、プリュイも気に入っているらしく、寝る時はよくその水槽の中に入っている。
その水槽の中には、綺麗な真っ白な砂が敷き詰められていて、海藻や珊瑚も設置されている。プリュイだけの水槽にしては、とても大きなサイズの水槽だ。
お遣いの終わったプリュイは、この水槽にダイブした後、珊瑚の隙間や、海藻に尻尾を巻き付けたりしてお昼寝をする。
「可愛い」
癒やしのタツノオトシゴである。
相変わらず、フルーツタルトは美味しい。毎月使われるフルーツが変わるらしく、以前、ヴィンス様と一緒に食べた時のフルーツとは違う物になっていた。
ーヴィンス様と…食べたかったなぁー
「───っ…」
フルフルと頭を軽く振る。
少し前迄は、1人でも平気だったのに…。最近では、辛い時はヴィンス様が居たから……“慣れ”とは怖いものだなと思う。
魔女の呪いが発動してしまった今。ヴィンス様が私に想いを寄せてくれているとしても……素直に受け入れる事はできない。もう、いっその事、竜国で暮らしていくのも……アリなのでは?と思わなくもない。
でも──
ー長生きして、恋だってしたい。まだ…諦めるのは…早いよね?ー
*フォレクシス王国にて*
「何故模様が完成した!?」
「「「「…………」」」」
酷く低い声でありながら、怒りを含んで呟いたのは、ジゼルの父親であるフォレクシス国王だった。
少し前にレイノックスで行われた祭典に参加していたレナルドからは、ジゼルは楽しそうに笑って過ごしていたと報告を受けていた。自国では王宮から出る事もままならず、自由がなかったジゼルだったが、レイノックスでは街に繰り出し楽しんでいると。
安心したのも束の間。
竜国のシモンから届いた知らせは、ジゼルの左手首のイバラの模様が完成してしまい、魔女の呪いが発動したと言う事だった。
ジゼルが誰かを癒やした訳でもなく、誰かに触れてもいないのに完成した。
“癒やす以外にも、発動条件があったのかもしれない”
との見解だった。今更そんな事を言われても──
「もう……遅い!」
ジゼルはまだ17歳。25歳迄生きられるかどうか─
その25歳と言うのも、魔女の呪いが発動した当時の癒しの巫女が25歳だったからだ。ならば、ジゼルは──
この知らせを聞いた王妃は、その場で意識を失い、そのままずっと寝込んでいる。
ただ、救いとしては、ジゼルが竜国に居る事だ。
呪いと関係の無い国に居て、竜王と水の妖精の加護を受けているせいか、体調は良いそうで、レイノックスやフォレクシスに居る時よりも元気で居ると言う事だった。
「何が何でも、解呪方法を見付けます!」と言って、レナルドはずっと王宮の自室に閉じ篭って、ありとあらゆる書物を読みあさっている。
「ジゼル……最後まで…諦めるな…」
父親であるフォレクシス国王はそう呟いた後、そっと目を閉じた。
*レイノックス王国にて*
(ヴィンス視点)
「ルチア様が部屋にいないんです!」
血相を変えて、王太子の執務室迄やって来たのはヴァレリア=メルサンデスだった。
その後、王城内を探そうとしたところで、竜国からの知らせが届いた。
“魔女の呪いが発動した為、竜国で暫くの間預かる”
「発動……した?」
理由は、本人にも分からない─と言う事だった。
兎に角、他人との接触は極力避けた方が良いと言う事で、侍女兼護衛のヴァレリアもそのままレイノックスでの待機となった。
それからは、手紙などで連絡を取り合う日々が続いた。
ジゼル様の好きなフルーツタルトを買って、それをプリュイに渡してもらうようにお願いする。
『きっと、ジゼルは喜ぶよ』
と、プリュイは嬉しそうな声で言うと、パチンッ─と水が弾けるのと同時に姿を消した。
毎月、盛られているフルーツが変わるフルーツタルト。“毎月変わる”事を口実に、彼女を誘って一緒に食べるつもりだった。
魔女の呪いが発動した事で、俺の想いを受け入れてくれない可能性が大きくなった。
それでも───
グッと手に力を入れて、青空を見上げた。
❋エールを頂き、ありがとうございます❋
(*˘︶˘人)♡*。+
「プリュイ、いつもありがとう」
竜国で過ごし始めてから2週間が過ぎた。
まだ新しいブレスレットができていない為、ヴァレリアを呼ぶ事もできてはいないが、その分、プリュイが下界と竜国に居る私とを繋いでくれている。
私からはヴァレリアやリルに手紙を書き、ヴァレリアやリルからも手紙や、時々クッキーなどが贈られて来る。
そして、今日、プリュイが持って来てくれたのはフルーツタルト。以前、ヴィンス様が私に持って来てくれた物だ。
「ヴィンス様…から?」
『よく分かったね。そう。ヴィンスから。後、手紙も預かったよ。』
パシャッ─と、弾けた水の玉から一通の手紙が現れ、私の手元に落ちて来た。
「ありがとう。」
お礼を言った後、その手紙を開けて読み始めると、プリュイはこの部屋にある、プリュイ専用の水槽にダイブした。その水槽はトリーが用意してくれたもので、プリュイも気に入っているらしく、寝る時はよくその水槽の中に入っている。
その水槽の中には、綺麗な真っ白な砂が敷き詰められていて、海藻や珊瑚も設置されている。プリュイだけの水槽にしては、とても大きなサイズの水槽だ。
お遣いの終わったプリュイは、この水槽にダイブした後、珊瑚の隙間や、海藻に尻尾を巻き付けたりしてお昼寝をする。
「可愛い」
癒やしのタツノオトシゴである。
相変わらず、フルーツタルトは美味しい。毎月使われるフルーツが変わるらしく、以前、ヴィンス様と一緒に食べた時のフルーツとは違う物になっていた。
ーヴィンス様と…食べたかったなぁー
「───っ…」
フルフルと頭を軽く振る。
少し前迄は、1人でも平気だったのに…。最近では、辛い時はヴィンス様が居たから……“慣れ”とは怖いものだなと思う。
魔女の呪いが発動してしまった今。ヴィンス様が私に想いを寄せてくれているとしても……素直に受け入れる事はできない。もう、いっその事、竜国で暮らしていくのも……アリなのでは?と思わなくもない。
でも──
ー長生きして、恋だってしたい。まだ…諦めるのは…早いよね?ー
*フォレクシス王国にて*
「何故模様が完成した!?」
「「「「…………」」」」
酷く低い声でありながら、怒りを含んで呟いたのは、ジゼルの父親であるフォレクシス国王だった。
少し前にレイノックスで行われた祭典に参加していたレナルドからは、ジゼルは楽しそうに笑って過ごしていたと報告を受けていた。自国では王宮から出る事もままならず、自由がなかったジゼルだったが、レイノックスでは街に繰り出し楽しんでいると。
安心したのも束の間。
竜国のシモンから届いた知らせは、ジゼルの左手首のイバラの模様が完成してしまい、魔女の呪いが発動したと言う事だった。
ジゼルが誰かを癒やした訳でもなく、誰かに触れてもいないのに完成した。
“癒やす以外にも、発動条件があったのかもしれない”
との見解だった。今更そんな事を言われても──
「もう……遅い!」
ジゼルはまだ17歳。25歳迄生きられるかどうか─
その25歳と言うのも、魔女の呪いが発動した当時の癒しの巫女が25歳だったからだ。ならば、ジゼルは──
この知らせを聞いた王妃は、その場で意識を失い、そのままずっと寝込んでいる。
ただ、救いとしては、ジゼルが竜国に居る事だ。
呪いと関係の無い国に居て、竜王と水の妖精の加護を受けているせいか、体調は良いそうで、レイノックスやフォレクシスに居る時よりも元気で居ると言う事だった。
「何が何でも、解呪方法を見付けます!」と言って、レナルドはずっと王宮の自室に閉じ篭って、ありとあらゆる書物を読みあさっている。
「ジゼル……最後まで…諦めるな…」
父親であるフォレクシス国王はそう呟いた後、そっと目を閉じた。
*レイノックス王国にて*
(ヴィンス視点)
「ルチア様が部屋にいないんです!」
血相を変えて、王太子の執務室迄やって来たのはヴァレリア=メルサンデスだった。
その後、王城内を探そうとしたところで、竜国からの知らせが届いた。
“魔女の呪いが発動した為、竜国で暫くの間預かる”
「発動……した?」
理由は、本人にも分からない─と言う事だった。
兎に角、他人との接触は極力避けた方が良いと言う事で、侍女兼護衛のヴァレリアもそのままレイノックスでの待機となった。
それからは、手紙などで連絡を取り合う日々が続いた。
ジゼル様の好きなフルーツタルトを買って、それをプリュイに渡してもらうようにお願いする。
『きっと、ジゼルは喜ぶよ』
と、プリュイは嬉しそうな声で言うと、パチンッ─と水が弾けるのと同時に姿を消した。
毎月、盛られているフルーツが変わるフルーツタルト。“毎月変わる”事を口実に、彼女を誘って一緒に食べるつもりだった。
魔女の呪いが発動した事で、俺の想いを受け入れてくれない可能性が大きくなった。
それでも───
グッと手に力を入れて、青空を見上げた。
❋エールを頂き、ありがとうございます❋
(*˘︶˘人)♡*。+
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