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ルチア=クルーデン
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「私は、25歳迄生きられるかどうか─と言われています。」
「──っ!それ……は……病名は……」
ヒュッと息を呑んだ後、王太子は感情を抑えるように声を出した。
「原因は判ってはいますが、それを治す薬はありません。」
フォレクシスの王宮の薬師達は、今でも色んな薬を調合してくれているのは知っている。ただ、どれだけ薬師が頑張ってくれても、効果を発揮する薬はない。きっと、これからも───
「唯一、症状を抑える…緩和するのに有効なのが、このブレスレットです。」
言いながら左の服の袖を少し捲り、左手首に着けているブレスレットを見せる。少し太目の黒色のシンプルなブレスレット。お世辞にも、綺麗とも可愛いとも言えないソレには、小さなペリドット1粒だけが付いている。
「これは、現竜王陛下である黒龍様の鱗で作られたブレスレットです。このブレスレットのお陰で、私の症状が……緩和されている状況なんです。」
きっと、これがなかったら、私は王宮から出る事もできなかっただろう。
「今更だが……そんな大事な話を、私にしても大丈夫なのか?」
「あ、それは大丈夫です。もともと、この留学時に起こった事に関しては、全て私が判断するようにと言われていますし、今回の事も、手紙で知らせてありますから。」
『最後の我儘です』
そう言って頭を下げた。
頭を下げていたから、その場に居た人達がどんな顔をしていたかなんて分からない。
暫くの沈黙が続いた後、『分かった。好きにすれば良い。』とだけ発した父であるフォレクシス国王は、私が頭を上げる前に部屋から出て行った。父が出て行った後、頭を上げると、母である王妃はただただ私をみているだけだった。
兄妹の顔は…見ていない。
「ですから、何か問題が起こったとしても、王太子殿下にご迷惑が掛かる事はありません。何かあったとしても…それは全て私が負う責ですから。」
王太子が押し黙ったところで、話を続けた。
もともと、いつまで持つか分からない命だったけど、竜王から頂いたブレスレットで、ほんの少しだけでも未来がみえたせいか、丁度婚約を打診されていたロルフ王子との婚約を受けれてしまったのだろう。友好の為の婚約でもあったから、断るのも難しかったのかもしれない。どう言う思惑があったからなのかは分からないけど、私とロルフ王子との婚約はアッサリ調ってしまった。
「それは、単純にロルフが“ジゼル様が好きだったから”だろうけどね。」
と、王太子は肩を竦めて笑った。
ブレスレットのお陰で、体調も悪化する事がなくなり、自由に動けるようになると、色んな事がしたくなった。無能な王女だったとしても、生きている間に出来る事は出来るだけしたいと。
したい事の一つは、勉強だった。他人と対面する事も難しかったから、ちゃんとした勉強をした事がなかったから。
兄や姉は学園に通っていた。王族ではあったが、学園帰りに友達と食べ歩きをした。買い物をしたと、楽しそうに話しているのを聞いていた。それもしたい事の一つだった。
ただ、“フォレクシス第二王女ジゼル”として動くのは、ある意味難しいだろう─と言う事も解っていた。
それでも、諦められなかったから、頭を下げて懇願した。
そして、条件付きで許可が下りた。
“ルチア=クルーデン伯爵令嬢”として動く事。
フォレクシス王国ではなく、レイノックス王国に留学生として行く事。
全て、自分の判断で動く事。
ヴァレリアを側に置く事。
それらの事柄に、私が自らお願いした事が、ロルフ様との婚約解消だった。
その願いに関してだけは、何故か父と母は驚いていた。「何かあったのか?」「何か言われたのか?」とも訊かれた。勿論、「何もないし、何も言われていない。」と答えた。彼からは贈り物をもらった上、いつも心が温かくなるような手紙しか貰った事がない。
『だからこそ、彼を、私なんかに縛り付けたくはないんです。』
そう言ってしまえば、誰も反対なんてできる筈もない。
婚約したまま相手が死んでしまうのと、元婚約者が死んだ─とでは、後々の印象も変わって来るだろう。それに、ロルフ様の事だから…きっと気に病むだろう。私なんかの為に気に病む必要なんてないんだ。
それから、数年掛けて“ルチア=クルーデン伯爵令嬢”を創り上げた。クルーデン伯爵は実際に存在する。そこの嫡子が、ジゼルの兄─王太子付きの近衛騎士であり、姉─第一王女の婚約者でもある。
「あぁ、それで、どれだけ“ルチア=クルーデン”を調べても、何も出なかったワケだ…」
と、調べた事を悪びれも無く口にする王太子。
ーやっぱり、この王太子は侮れないー
もともと侮るつもりもなかったけど─と、苦笑するしかない。
「ですから、私は、ロルフ様とは婚約を解消したいのです。王太子殿下も、解消に関しては異議はありませんよね?」
「あー…私も正直に話そう。勿論、異議は無い。寧ろ、どうやって“あの第二王女と婚約を解消させようか”と策を練っていたぐらいだ。」
ーこの王太子、本当にストレート過ぎるー
清々しい程のストレートな言葉には、ただ笑うしかできなかった。
❋エールを頂き、ありがとうございます❋
٩(*´꒳`*)۶°˖✧
「──っ!それ……は……病名は……」
ヒュッと息を呑んだ後、王太子は感情を抑えるように声を出した。
「原因は判ってはいますが、それを治す薬はありません。」
フォレクシスの王宮の薬師達は、今でも色んな薬を調合してくれているのは知っている。ただ、どれだけ薬師が頑張ってくれても、効果を発揮する薬はない。きっと、これからも───
「唯一、症状を抑える…緩和するのに有効なのが、このブレスレットです。」
言いながら左の服の袖を少し捲り、左手首に着けているブレスレットを見せる。少し太目の黒色のシンプルなブレスレット。お世辞にも、綺麗とも可愛いとも言えないソレには、小さなペリドット1粒だけが付いている。
「これは、現竜王陛下である黒龍様の鱗で作られたブレスレットです。このブレスレットのお陰で、私の症状が……緩和されている状況なんです。」
きっと、これがなかったら、私は王宮から出る事もできなかっただろう。
「今更だが……そんな大事な話を、私にしても大丈夫なのか?」
「あ、それは大丈夫です。もともと、この留学時に起こった事に関しては、全て私が判断するようにと言われていますし、今回の事も、手紙で知らせてありますから。」
『最後の我儘です』
そう言って頭を下げた。
頭を下げていたから、その場に居た人達がどんな顔をしていたかなんて分からない。
暫くの沈黙が続いた後、『分かった。好きにすれば良い。』とだけ発した父であるフォレクシス国王は、私が頭を上げる前に部屋から出て行った。父が出て行った後、頭を上げると、母である王妃はただただ私をみているだけだった。
兄妹の顔は…見ていない。
「ですから、何か問題が起こったとしても、王太子殿下にご迷惑が掛かる事はありません。何かあったとしても…それは全て私が負う責ですから。」
王太子が押し黙ったところで、話を続けた。
もともと、いつまで持つか分からない命だったけど、竜王から頂いたブレスレットで、ほんの少しだけでも未来がみえたせいか、丁度婚約を打診されていたロルフ王子との婚約を受けれてしまったのだろう。友好の為の婚約でもあったから、断るのも難しかったのかもしれない。どう言う思惑があったからなのかは分からないけど、私とロルフ王子との婚約はアッサリ調ってしまった。
「それは、単純にロルフが“ジゼル様が好きだったから”だろうけどね。」
と、王太子は肩を竦めて笑った。
ブレスレットのお陰で、体調も悪化する事がなくなり、自由に動けるようになると、色んな事がしたくなった。無能な王女だったとしても、生きている間に出来る事は出来るだけしたいと。
したい事の一つは、勉強だった。他人と対面する事も難しかったから、ちゃんとした勉強をした事がなかったから。
兄や姉は学園に通っていた。王族ではあったが、学園帰りに友達と食べ歩きをした。買い物をしたと、楽しそうに話しているのを聞いていた。それもしたい事の一つだった。
ただ、“フォレクシス第二王女ジゼル”として動くのは、ある意味難しいだろう─と言う事も解っていた。
それでも、諦められなかったから、頭を下げて懇願した。
そして、条件付きで許可が下りた。
“ルチア=クルーデン伯爵令嬢”として動く事。
フォレクシス王国ではなく、レイノックス王国に留学生として行く事。
全て、自分の判断で動く事。
ヴァレリアを側に置く事。
それらの事柄に、私が自らお願いした事が、ロルフ様との婚約解消だった。
その願いに関してだけは、何故か父と母は驚いていた。「何かあったのか?」「何か言われたのか?」とも訊かれた。勿論、「何もないし、何も言われていない。」と答えた。彼からは贈り物をもらった上、いつも心が温かくなるような手紙しか貰った事がない。
『だからこそ、彼を、私なんかに縛り付けたくはないんです。』
そう言ってしまえば、誰も反対なんてできる筈もない。
婚約したまま相手が死んでしまうのと、元婚約者が死んだ─とでは、後々の印象も変わって来るだろう。それに、ロルフ様の事だから…きっと気に病むだろう。私なんかの為に気に病む必要なんてないんだ。
それから、数年掛けて“ルチア=クルーデン伯爵令嬢”を創り上げた。クルーデン伯爵は実際に存在する。そこの嫡子が、ジゼルの兄─王太子付きの近衛騎士であり、姉─第一王女の婚約者でもある。
「あぁ、それで、どれだけ“ルチア=クルーデン”を調べても、何も出なかったワケだ…」
と、調べた事を悪びれも無く口にする王太子。
ーやっぱり、この王太子は侮れないー
もともと侮るつもりもなかったけど─と、苦笑するしかない。
「ですから、私は、ロルフ様とは婚約を解消したいのです。王太子殿下も、解消に関しては異議はありませんよね?」
「あー…私も正直に話そう。勿論、異議は無い。寧ろ、どうやって“あの第二王女と婚約を解消させようか”と策を練っていたぐらいだ。」
ーこの王太子、本当にストレート過ぎるー
清々しい程のストレートな言葉には、ただ笑うしかできなかった。
❋エールを頂き、ありがとうございます❋
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