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因果応報②

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*アデルバート(元王太子)*




今日は、妹─カミリア王女の結婚式。

相手は、カミリア王女が留学先で仲良くなり婚約を結んでいた、その国の第三王子だ。もともと、カミリア王女が公爵となる第三王子の元に嫁ぐ予定だったが、私が廃太子となり、カミリア王女が立太子した事で、その第三王子が王配となる事となった。

その結婚式には、私…は、正式には招待はされなかった。
公爵とは名ばかりの、一代限りの領地無し公爵。(一般的には知られてはいないが)水の精霊ウンディーネ様を怒らせてしまった夫婦私達には、何の後ろ盾も無い。王族の籍からは抹消され縁を切られ、妻であるロゼリアの親であったアークルハイン伯爵は、私達の婚姻後に爵位を返納した後、私達に何も知らせる事も無く、夫婦揃って何処か王都から離れた土地へと引っ越して行き、それ以降、一切の連絡は無い。ロゼリアもまた、両親から──切り捨てられたのだ。


は、色鮮やかな日々を過ごしていた。
私の隣には、凛として綺麗な顔立ちの愛しい彼女─リナが居た。そして、私の周りには、いつも色んな友や側近となるべく者達が居た。私は将来国王になる──と、信じて疑う事など微塵も無かった。

それが───

ほんの少し…ほんの少しだけの浮ついた心のせいで、全てを失った。

ロゼリア=アークルハイン伯爵令嬢。

いつも凛とした美しいリナとは違って、表情豊かな可愛らしいロゼリアに興味を持った。

こう言えば、ロゼリアはどんな顔をする?

コレをあげれば、ロゼリアはどう喜ぶ?

今だけ─学生のうちだけは、少し位自由にしても良いだろう。卒業すれば、リナとは結婚する。だから、それ迄は─

と、軽い気持ちで居たのだ。






そんな“少しだけ”の気持ちのつもりで、全てを失ってしまった。私に残ったのは、ロゼリアだけ……いや、もう、ロゼリアの心も失っている。自分が悪かった事も…理解してはいるが、どうしても、ロゼリアが、“に手出しをしていなければ”と言う思いが消える事が無く、私はロゼリアに対して愛情を持つ事はできず、今では嫌悪感を抱いている。

そして、そのロゼリアは──

結婚してから何度か閨を共にはしたが、三ヶ月も経たずして寝室を別にした。
今では、ロゼリアは外で色んな男の相手をしている。
そんな彼女を、私は止める気もなければ注意をする事も無い。どうせ、子供ができたとしても、その子が公爵を継ぐ事はないから。親子揃って平民に堕ちるだけだからだ。
だから私は、自分の為だけに、公爵でありながら平民のように毎日必死で働き続けている。










「カミリア様、おめでとうございます!」
「カミリア王女様、本当に綺麗!」

王都にある大聖堂で挙式をした後、パレードを行ないながら王城へ帰って行くカミリア王女と第三王子は、沿道に集まっている人の群れに向かって笑顔で手を振っている。時折2人で視線を絡ませては微笑み合って、とても幸せそうだった。

ー本来であれば、あそこには、私とリナがー

それが今ではどうだ?血の繋がった本当の妹の結婚式に参列する事もできず、公爵でありながら、平民と同じように人の群れの中から遠目でパレードを見つめている。

ーなんて惨めなんだろうかー

王太子を失ったと同時に、周りに居た者達も失った。結局は、王太子だった私に付いていただけで、私自身に付いていた者は居なかったと言う事だ。

「カミリア……おめでとう。」

私は遠目に見えたカミリアにそっと呟いた後、その群れから離れて邸へと帰った。





それから半年程経った後、リナがとある魔導士と婚約した─と、街の噂で知ったのだった。








それから5年程して、ロゼリアは、関係を持っていたうちの一人の男と口論になり、そのまま邸に帰って来る事はなかった。
アデルバートも捜索願いは出したものの、結局は彩香同様、見付かる事はなかった。



















*陽真*




「自分が強いから一人で大丈夫とか、自分勝手な単独行動は止めて下さい。」

初めてピシャリと言われた時は、正直腹が立った。魔導士やら精鋭騎士やら、数人掛かりで魔物を倒すよりも俺一人で動く方が早く終わるのに─と。

彼女の名前はケリー。4人居る聖女達の中で一番の年長者だった。見た目も至って普通。顔だけなら、彩香の方が美人だ。

それ以降も、何かと文句を言ってくるケリーにイライラした。でも、ケリーが懸念?していた事が現実となった。

魔物の中には人間並みの頭脳を持つモノが居て、そのモノ達が、最強レベルの俺に囮を向かわせ気を逸らせている間に、他の同行者に大勢で奇襲を掛けて来たのだ。
それでも、そこには最強レベルの魔導士である美緒と樹が居た為、怪我人は出たが死人が出る事は無く、奇襲して来た魔物達を殲滅する事ができた。

ー俺の、自分勝手な行動のせいでー

美緒や樹からもチクリと言われ、流石の俺も反省した。
それからの俺は、ケリーの小言も聞くようにした。

ケリー

至って普通の顔立ちの年上の女の子。俺がどんなに近付いても微笑んでも、顔を赤くしたり媚びたりする事が無いどころか、嫌悪感を表す事もある。そんなケリーが気になって仕方が無かった。側に居ても、俺を見る事は無い。視線が合う事も殆ど無い。それでも俺は、ケリーの側に居たいと思うようになっていた。








無事に浄化巡礼も終わり、樹と美緒と俺は、領地、使用人付きの邸と謝礼金を貰った。
それからの俺は、剣士として偶に現れる魔獣を討伐しながら、ケリーの居る修道院にケリーに会うために通い続けた。

どんなにアピールをしても靡いてはくれない。俺を見てもくれない。俺の存在すら……認めていないかのようだった。












「聞いてませんでしたか?ケリーさんは、故郷で病気で寝たきりだった婚約者が元気になられたらしく、一週間前にこの修道院での勤めを辞めて、故郷に帰られましたよ。」

俺が2週間程魔獣の討伐で王都に不在中に、ケリーが居なくなっていた。勿論、俺への手紙どころか、伝言すら残されてはいなかった。ずっとケリーの近くに居たのに。ケリーは、最初から最後まで、俺を見る事は無かった。

そうだ。杏子も、ずっと俺の側に置いていたのに、俺は杏子を見てはいなかった。



“自分の行ないは自分に返って来る”




この世界で、俺を見てくれる人は……居ないのかもしれない。


















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