上 下
48 / 64

陽真との対面

しおりを挟む
お披露目の夜会の3日前。

私─望月杏子は、梶原陽真と大森彩香と、それぞれ個別で会って話をする事にした。
場所は、ともに第二騎士団長リュークレインさんの執務室。部屋には2人きりにしてもらい、リュークレインさんは隣の部屋で待機してもらう事にした。

執務室で1人座って待っていると、指定された時間に陽真がやって来た。

「───きょう……こ?」

「陽真……久し振り。」

「杏子!無事で良かった!!」

美緒さんと樹君の時と同様に、陽真も一瞬戸惑った後、私が肯定すると私に近付いて来た。

「あぁ、本当に、無事で良かった!今迄どこに?いや、それもどうでも良いか。安心しろ!これからは俺が、側に居て守ってあげるから!」

なんて言いながら、私を抱きしめようとしてか、両手を広げる陽真。そんな陽真に対して、私は嫌悪感しか抱けない。

「ちょっ─その両手は何?」

陽真に抱きしめられそうになるのを阻止するように、私は最大限に両手を伸ばして陽真を突っぱねた。

「お前こそ、この手は何だよ!?」

「それ以上、近付かないで欲しい。私は、陽真と話しがしたいだけなの。だから、そこの椅子に座ってくれる?」

眉間に皺を寄せて、少し不機嫌になった陽真だったけど、取り敢えずはそのまま椅子に座ってくれた。

そして、陽真には、白狼ルーナの事は伏せて、私の今迄の話をした。



「……2年も……ズレてた?」

「そう。だから、私と陽真の間にも、2年の差ができたの。私はもうすぐ20歳になる。それと………もうすぐ、結婚もするの。」

「───は?結婚?────は?」

「だから、陽真がさっき、側で守るとか言ってたけど─」
「誰と!結婚するんだ!?無理矢理なら俺が───!いや、無理矢理じゃなくても、杏子が俺以外と結婚なんて………許す訳ないだろう!」

ドンッ──と、陽真がテーブルを叩き付けた。

「その相手は誰だ?俺が……やる!」

「何故、陽真に許してもらわないといけないの?」

陽真こいつは、一体何を言ってるんだろうか?ー

「それに、無理強いされた訳じゃないから。私も………ちゃんと……すっ…………好きっ………で、結婚するから。陽真に許す許さないと言われても関係ないから。」

ーどもってしまった事は許して欲しい。だって………横の部屋で本人に聞かれていると思ったら…恥ずかしいからね!!ー

「それ、本気で言ってるのか?杏子。杏子、お前は………俺のモノだろ?」

「─────は?」

ー“俺のモノ”って……何?ー

「ずっと、独りだったお前を、俺がずっと側に置いてやっただろう?この世界でだって、1人違う時間に飛ばされて……。この2年は独りだっただろうけど、これからは、俺の側に居れば良いんだ。結婚なんてしなくても、俺が───」
「何を言ってるの?」

ーえ?何?ちょっと怖いんですけど?ー

「“私がから、側に置いた”って何?それ、本気で言ってるの?」

「本気もなにも、本当の事だろう?」

キョトン─どころか、“お前、何言ってるの?”みたいな顔をしている陽真。どうやら、本当に本気で言っているようだ。

「私は、独りなんかじゃなかった。独りになったのは、陽真が私を──陽真の言うところの、陽真が私を陽真の側に置いてからだった。私は、陽真のせいで………独りになったの。陽真は、自分がモテてた自覚はあったよね?彼女を取っ替え引っ替えしてたんだから…。そんなモテる陽真が、幼馴染みを免罪符のように側に置いている私が、どんな扱いをされてたか…知ってた?」

「──どんなって……女友達は増えただろう?俺の周りに居た子達とは、仲良くしてただろう?」

「“幼馴染みだからって調子に乗るな”“暗くて鬱陶しい”何て言うような子が友達?あぁ、制服を水浸しにしたり、貸した教科書を破るような子を、どうやったら友達だと呼べるの?」

「──知らなかった………。」

陽真は、本当に知らなかったんだろう。一気に顔色を失うように真っ青になった。でも、“知らなかった”で許せる筈もない。

「陽真が私に絡んで来るようになってから……私は本当に苦痛でしかなかった。高校は離れられると思ったのに……高校での3年間は、更に地獄だった。だから、この世界に陽真と離れ離れで飛ばされた事は……正直、本当に………良かったって思った。陽真の居ないこの2年間……本当に楽しかった。だから、これから先も、私は陽真の側に居るつもりはないし、会うつもりも無いから。」

「苛めの事は、悪かった!本当に知らなかったんだ!これからは気を付ける…杏子をちゃんと守るから俺の側にいて欲しい。俺……杏子が好きなんだ!」

「私を……好き?ふふっ───」

私が笑ったのを、私が好意的に受け取った─と思ったんだろう、陽真はホッとしたような顔をして私の方へと手を伸ばしかけた。その手が私に届く前に、私は陽真の目をしっかりと見据えた。

「それこそ、私に対する最大限の嫌がらせとしか……思えない。私が、陽真の側に戻る事は………万が一にも有り得ない。」

「──っ!杏子、いい加減、我儘を言うのも大概にしろよ!?俺が!下手に出てるうちに───」

陽真が更に手を伸ばして私に掴み掛かって来た。

バチッ

「い─────っ」

すると、(予想通り)陽真はその手に衝撃を受けたようで、その手を反対側の手で押さえながら、後ろに倒れるように椅子に座り直した。

「私には、加護があって、私に害を成そうする人には、みたいなの。ふふっ。が、陽真の本心なのよ。ただ、おとなしくて従順?な私を守ってるのヒーローな自分に酔っていただけ。本当に私の事が好きと言うなら、私が反抗しても、私に害を成そう何て事はしないと思う。」

陽真は、押さえている手に視線を落としたままで、ジッと黙り込んだままだ。

「兎に角、これから行く浄化巡礼は……大変だと思うけど……気を付けて……頑張ってね。皆の無事を祈ってる。」


陽真との面会時間は1時間。何か考えているのか、ずっと黙ったままの陽真は、予定時間になり迎えに来た第一騎士団の副団長と一緒に、「──それじゃあ、な。杏子。」とだけ囁いて部屋から出て行った。

その“またな”が、少し怖かった。








しおりを挟む
感想 107

あなたにおすすめの小説

愛を知らない「頭巾被り」の令嬢は最強の騎士、「氷の辺境伯」に溺愛される

守次 奏
恋愛
「わたしは、このお方に出会えて、初めてこの世に産まれることができた」  貴族の間では忌み子の象徴である赤銅色の髪を持って生まれてきた少女、リリアーヌは常に家族から、妹であるマリアンヌからすらも蔑まれ、その髪を隠すように頭巾を被って生きてきた。  そんなリリアーヌは十五歳を迎えた折に、辺境領を収める「氷の辺境伯」「血まみれ辺境伯」の二つ名で呼ばれる、スターク・フォン・ピースレイヤーの元に嫁がされてしまう。  厄介払いのような結婚だったが、それは幸せという言葉を知らない、「頭巾被り」のリリアーヌの運命を変える、そして世界の運命をも揺るがしていく出会いの始まりに過ぎなかった。  これは、一人の少女が生まれた意味を探すために駆け抜けた日々の記録であり、とある幸せな夫婦の物語である。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」様にも短編という形で掲載しています。

氷の騎士は、還れなかったモブのリスを何度でも手中に落とす

みん
恋愛
【モブ】シリーズ③(本編完結済み) R4.9.25☆お礼の気持ちを込めて、子達の話を投稿しています。4話程になると思います。良ければ、覗いてみて下さい。 “巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について” “モブで薬師な魔法使いと、氷の騎士の物語” に続く続編となります。 色々あって、無事にエディオルと結婚して幸せな日々をに送っていたハル。しかし、トラブル体質?なハルは健在だったようで──。 ハルだけではなく、パルヴァンや某国も絡んだトラブルに巻き込まれていく。 そして、そこで知った真実とは? やっぱり、書き切れなかった話が書きたくてウズウズしたので、続編始めました。すみません。 相変わらずのゆるふわ設定なので、また、温かい目で見ていただけたら幸いです。 宜しくお願いします。

巻き込まれではなかった、その先で…

みん
恋愛
10歳の頃に記憶を失った状態で倒れていた私も、今では25歳になった。そんなある日、職場の上司の奥さんから、知り合いの息子だと言うイケメンを紹介されたところから、私の運命が動き出した。 懐かしい光に包まれて向かわされた、その先は………?? ❋相変わらずのゆるふわ&独自設定有りです。 ❋主人公以外の他視点のお話もあります。 ❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。すみません。 ❋基本は1日1話の更新ですが、余裕がある時は2話投稿する事もあります。

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

処理中です...