上 下
7 / 64

街へ

しおりを挟む
「アシーナ様!今日はこの野菜がイチオシですよ!」

「アシーナ様、コレ、おまけにどうぞ!」

「アシーナ様───」


私は今、アシーナさんと一緒に街まで出て来ている。

ここは“オーディアス王国”の、東の森がある“イスタンス”と呼ばれる領地。この領地を治めているのがイスタンス伯爵なのだが、東の森はアシーナさんが管理している為、例え領主であるイスタンス伯爵であっても、東の森に関しては干渉してはいけないそうだ。東の森は独立している─と言えるだろう。

アシーナさんは、過剰な魔素の調整をしたり、魔獣や魔物が出ると対処し、薬やポーションを作ったりと、イスタンス領に住む人達にとっては、とてもありがたい存在なのだそうだ。

なので、街に出て来た瞬間から、その辺に居た人達が次々にアシーナさんの元へと挨拶にやって来たり、露店で売り物をしている人達から色んな物を貰ったりしている。

「わー、可愛いですね!」

と、アシーナさんの足元に居る白狼わたしを見掛けると、皆が私をワシャワシャと撫で回す。

『…………』

ーくそう…やっぱり撫でられると…気持ちいい!ー

今朝目覚めると、やっぱり白狼姿に戻っていた。少しだけ残念な気持ちになったけど、この姿の方が色々と安全なんだ─と思うと、なんとか受け入れる事はできた。

“望月杏子”としては、(親以外から)“可愛い”と言われた事もなかった。陽真のお蔭で碌に友達もできず、同性から向けられるのはいつも嫌悪の篭った眼差しだけだった。

だから、“可愛い”と言われて撫でられるのは──正直、とても嬉しい。

ー犬じゃなくて狼だけどー



、“ルーナ”と言うんだけど、これから私と一緒に暮らす事になったから、よろしくね。」

アシーナさんは、街で会う人達に私の事を紹介してくれた。その街の人達は優しくて、「ルーナ、よろしくね」と言いながら笑顔で私の頭を撫でてくれるから、さっきからずーっと尻尾が揺れたままだ。


それから洋服屋さんに行き、「姪の服を買いに来たの」と言って、シンプルなワンピースを数枚と下着等を購入。
どうやら、本当に、年に何回かは王都に住んでいる姪や甥が来るらしく、街の人達もアシーナさんが若い子の服を買う事に関して、特に疑問に思っている様子はなかった。

因みに、アシーナさんは現在40歳。20歳の時に10歳からの婚約者だった人と結婚したが、その旦那さんは、アシーナさんが30歳の時に、魔獣討伐の遠征の時に帰らぬ人となったそうだ。それから、いくつかの縁談の話もあったが、独身を貫いているらしい。
アシーナさんの家のリビングに、男性の絵が飾られていて、その人が旦那さんだったと見せてくれた。その絵を見るアシーナさんの目はとても優しくて、未だに旦那さんの事が好きなんだろうな─と言う事が分かった。

恋愛や好きの気持ちは…正直に言うと、陽真達のお蔭か、“怖い”イメージしかない。恋愛はしてみたいとは思うけど……

ー今は満月の夜以外は、性別不詳な感じの白狼だもんねー

何故か、白狼姿の時の私の性別は、だけでは判別し難いようだ。それが、神の遣いである白狼だからなのか、水の精霊の意図なのかも分からない。
まぁ、白狼姿の時の性別云々は、特に問題はないから気にはしていないけど。


それから、露店で食べ物を買って食べながら街を歩き回り、最後に宝石店?のようなお店に寄ってから、アシーナさんと私は東の森の家に帰った。













「キョウコの姿に戻すには、その加護を付けた本人にお願いするのが一番早いのだけど……いつ会えるか、会いに来るか分からないから、取り敢えず、魔法を使えるように訓練を続けましょうか。」

『はい!宜しくお願いします!』


“白狼の姿になっているのは、杏子を危険から護る為”ならば、杏子わたしが自分自身を守れるようになれば、人間ひとの姿に戻れるのでは?─と言う事になったのだ。

加護を与えた相手に会いに来ない──と言うよりも、どうやら何百年以上も生きる精霊と人間とでは時間の感覚が違うらしく、「直ぐ会いに行く」と言ったとしても、それが数年後だったりするそうだ。
そんなに待てないよね?そもそも、会えるかどうかも分からない相手を待つ事が無理だ。
と言う事で、私は引き続き、アシーナさんから魔法を教えてもらう事になった。





のだけど───


「ルーナ、元気出して?ね?」


只今、絶賛凹み中な私です。
部屋の隅に鼻先をくっつけて床に伏せっています。耳は垂れ下がったまま、尻尾もピタリと止まったままです。それは何故か?と言うと──
魔法の訓練を始めて3ヶ月。未だに小さな水玉しか作る事ができない──ポンコツだからです。

そんな私を、「よしよし─」と、アシーナさんが背中を撫でて慰めてくれています。アシーナさんも月属性だからか、アシーナさんに撫でられると心まで癒やされるような感じになる。

「水玉しか作れないとしても、ルーナの創り出す水には浄化作用があるから、ポーション作りにはとても助かるのよ。」

そう。水玉しか作れないけど、ポーション作りには役立つそうで───それでも──

ー水玉では自分の身が守れないよね?ー

と、杏子の姿を取り戻すには、まだまだ時間が掛かりそうです。









しおりを挟む
感想 107

あなたにおすすめの小説

愛を知らない「頭巾被り」の令嬢は最強の騎士、「氷の辺境伯」に溺愛される

守次 奏
恋愛
「わたしは、このお方に出会えて、初めてこの世に産まれることができた」  貴族の間では忌み子の象徴である赤銅色の髪を持って生まれてきた少女、リリアーヌは常に家族から、妹であるマリアンヌからすらも蔑まれ、その髪を隠すように頭巾を被って生きてきた。  そんなリリアーヌは十五歳を迎えた折に、辺境領を収める「氷の辺境伯」「血まみれ辺境伯」の二つ名で呼ばれる、スターク・フォン・ピースレイヤーの元に嫁がされてしまう。  厄介払いのような結婚だったが、それは幸せという言葉を知らない、「頭巾被り」のリリアーヌの運命を変える、そして世界の運命をも揺るがしていく出会いの始まりに過ぎなかった。  これは、一人の少女が生まれた意味を探すために駆け抜けた日々の記録であり、とある幸せな夫婦の物語である。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」様にも短編という形で掲載しています。

氷の騎士は、還れなかったモブのリスを何度でも手中に落とす

みん
恋愛
【モブ】シリーズ③(本編完結済み) R4.9.25☆お礼の気持ちを込めて、子達の話を投稿しています。4話程になると思います。良ければ、覗いてみて下さい。 “巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について” “モブで薬師な魔法使いと、氷の騎士の物語” に続く続編となります。 色々あって、無事にエディオルと結婚して幸せな日々をに送っていたハル。しかし、トラブル体質?なハルは健在だったようで──。 ハルだけではなく、パルヴァンや某国も絡んだトラブルに巻き込まれていく。 そして、そこで知った真実とは? やっぱり、書き切れなかった話が書きたくてウズウズしたので、続編始めました。すみません。 相変わらずのゆるふわ設定なので、また、温かい目で見ていただけたら幸いです。 宜しくお願いします。

巻き込まれではなかった、その先で…

みん
恋愛
10歳の頃に記憶を失った状態で倒れていた私も、今では25歳になった。そんなある日、職場の上司の奥さんから、知り合いの息子だと言うイケメンを紹介されたところから、私の運命が動き出した。 懐かしい光に包まれて向かわされた、その先は………?? ❋相変わらずのゆるふわ&独自設定有りです。 ❋主人公以外の他視点のお話もあります。 ❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。すみません。 ❋基本は1日1話の更新ですが、余裕がある時は2話投稿する事もあります。

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

処理中です...