上 下
118 / 123
ー余話ー

クレイル=ダルシニアン

しおりを挟む
「花びらを飛ばす?」

「そう。ハルの世界の結婚式では普通に行われるらしいんだ。」

どうやら、ハル殿の世界とこの世界での結婚式には、色々と違うところがあるらしい。エディオルは、少しでもハル殿の世界の結婚式でする事を、可能な限りしてあげたいようだ。

「本来、式の参列者が新郎新婦に向かって花びらなどを振り撒くそうなんだが、この世界には魔法や魔術があるだろう?なら、ソレで花びらを散らした方が、より綺麗じゃないかと思ってな。それで、婚姻届にサインをした後、クレイルに花びらを散らしてもらおうと思って。」

ーコレ、本当に、氷の騎士なんだろうか?ー

目の前に居る、その氷の騎士様は、本当に優しい目をしながら話をしている。それはそうか─。最愛であるハル殿との結婚式の事だからなぁ。

「勿論、喜んでさせてもらうよ。それで?他にもできそうな事はある?あるなら、出来る事はやらせてもらうよ。」

「ありがとう、クレイル──」

「その代わり!!」

笑顔でお礼を言って来るエディオルに被せるように、私は声をあげてエディオルを指差した。

「一度だけで良いから、ハル殿に“可愛い”と言わせ欲しい!それと、仲間であるエディオルと結婚して嫁となったら、私とも仲間になったって事で、私の事を名前呼びしてもらおうと思ってるけど、良いかな?」

「「「………」」」

今、ランバルトの執務室この部屋には、エディオルの他に、ランバルトとイリスも居るのだが、その3人ともが、可哀想な子を見るような目で私を見ている。

ーうん。こうなる事は分かっていたー

「クレイル…遊び人だったお前が……人とは、変わるものなんだな。」

「初孫を愛でる─みたいな?」

「…クレイル…そもそも、俺は、“可愛いと言うな”と言った事は無いのだが?」

「「えっ!?そうなの!?」」

エディオルの言葉に、ランバルトとイリスが驚く。

「てっきり、クレイルがハル殿に“可愛い”と言う事さえ、エディオルが気に入らないから言うな─とか言っているのかと思っていたが…。」

「そこは、私なりのケジメとして言わないだけだよ。それで?名前呼びをお願いしても良いかな?」

改めてエディオルに尋ねると、苦笑しながら

「俺は別に構わない。」

「よし!言質は取ったからな!」

















ウェディングドレス姿のハル殿は、可愛いと言うよりも綺麗だった──が、“可愛い”と言えた。それに、“クレイル様”と、はにかみながらも名前呼びしてくれた。

ーうん、その時の顔は、やっぱり可愛かったー

が、しかし!だ!

ネロの擬人化した姿には本当に驚いた。3年前のハル殿にそっくりだった。本当に可愛い。
一緒に浄化の旅に出て言葉を交わすまでは、何とも思わなかったんだけど…一度話してみると、何と言うか…言動がいちいち可愛かったんだよね。
ソレが、“恋”ではないと言う事だけは分かった。エディオルを選んでくれたら良いな─と思った。

まぁ、本当に、この2人には色々あったけど、こうして結婚する事になって本当に良かった。これからは、2人でもっと幸せになってもらいたい。



















『……また来たのか?』
『まどーしー!』

ネージュ殿に、少し呆れたような顔をされたが、ネロが嬉しそうに私の元へとやって来てくれたから気にしない事にする。
その、足元にやって来たネロを、ワシャワシャと撫で回す。

「ネロは、フェンリルの姿でも可愛いな!」

『ありがとーなのー』

尻尾がフリフリと揺れている。


「あれ?クレイル様、また来てたんですか?」

そう言われてふり返ると、ハル殿が居た。

「ハル殿、こんにちは。お邪魔してるよ。」

「ふふっ。今日も、ネロに会いに来たんですか?」

ハル殿が、私の横に来て、私と同じようにしゃがんでネージュ殿を撫で始めた。そうすると、ネージュ殿は嬉しそうに目を細めて、尻尾がゆらゆらと揺れ出した。

「ネロは可愛いし、撫でていると癒されるんだよね。」

「それ!すごく分かります!もふもふは最強ですよね!?」

と、握り拳を作りドヤ顔で私の方へと視線を向ける。

「かっ───!本当にね!ネロは癒やされるし可愛いよね!」

ーハル殿も、相変わらず可愛いな!ー

「あ、クレイル様、いつもネロ達に果物を持って来てくれて、ありがとうございます。ネロ、いつも喜んで食べてますよ。」

「それなら良かったよ。」

ニコリと私が微笑むと、ハル殿もニコリと微笑む。

ーあぁ…そうだったなー

ハル殿は、最初からそうだった。

自分で言うのもアレだけど、私は容姿が整っている。だから、私が少し微笑めば、大抵の女性はすぐに。容姿と肩書しか見ない令嬢達。別に、そこに関しては批難する気は無いし、私だってソレを利用して遊んだのだから、文句も無い。後悔だってしていない。

ただ、ハル殿は私に対して初めて、何の感情も表さない女の子だった。ソレが、とても印象的で──それから、ハル殿の事が気になりだしたんだっけ?まぁ、父の事もあったからだけど。強いて言うなら、義理の妹─みたいなモノだろうか?

「そうだ!クレイル様、そろそろお茶の時間なので、一緒にティータイムにしませんか?結婚式の時のお礼もまだでしたし…」

と、ハル殿が相変わらずニコニコと笑顔を向けて来る。

「お礼は…うん。お言葉に甘えて頂こうかな?」

「はい!じゃあ、邸の方へ案内しますね。」

ーお礼として、“クレイル様呼び”の許可をもらったんだけどー

とは、ハル殿には内緒だ。

そうして、その日は癒しのネロと、可愛いハル殿とのお茶で幸せな1日を過ごした。














しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

逃げるための後宮行きでしたが、なぜか奴が皇帝になっていました

吉高 花
恋愛
◆転生&ループの中華風ファンタジー◆ 第15回恋愛小説大賞「中華・後宮ラブ賞」受賞しました!ありがとうございます! かつて散々腐れ縁だったあいつが「俺たち、もし三十になってもお互いに独身だったら、結婚するか」 なんてことを言ったから、私は密かに三十になるのを待っていた。でもそんな私たちは、仲良く一緒にトラックに轢かれてしまった。 そして転生しても奴を忘れられなかった私は、ある日奴が綺麗なお嫁さんと仲良く微笑み合っている場面を見てしまう。 なにあれ! 許せん! 私も別の男と幸せになってやる!  しかしそんな決意もむなしく私はまた、今度は馬車に轢かれて逝ってしまう。 そして二度目。なんと今度は最後の人生をループした。ならば今度は前の記憶をフルに使って今度こそ幸せになってやる! しかし私は気づいてしまった。このままでは、また奴の幸せな姿を見ることになるのでは? それは嫌だ絶対に嫌だ。そうだ! 後宮に行ってしまえば、奴とは会わずにすむじゃない!  そうして私は意気揚々と、女官として後宮に潜り込んだのだった。 奴が、今世では皇帝になっているとも知らずに。 ※タイトル試行錯誤中なのでたまに変わります。最初のタイトルは「ループの二度目は後宮で ~逃げるための後宮でしたが、なぜか奴が皇帝になっていました~」 ※設定は架空なので史実には基づいて「おりません」

【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?

氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!   気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、 「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。  しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。  なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。  そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります! ✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

神の子扱いされている優しい義兄に気を遣ってたら、なんか執着されていました

下菊みこと
恋愛
突然通り魔に殺されたと思ったら望んでもないのに記憶を持ったまま転生してしまう主人公。転生したは良いが見目が怪しいと実親に捨てられて、代わりにその怪しい見た目から宗教の教徒を名乗る人たちに拾ってもらう。 そこには自分と同い年で、神の子と崇められる兄がいた。 自分ははっきりと神の子なんかじゃないと拒否したので助かったが、兄は大人たちの期待に応えようと頑張っている。 そんな兄に気を遣っていたら、いつのまにやらかなり溺愛、執着されていたお話。 小説家になろう様でも投稿しています。 勝手ながら、タイトルとあらすじなんか違うなと思ってちょっと変えました。

【完結】一緒なら最強★ ~夫に殺された王太子妃は、姿を変えて暗躍します~

竜妃杏
恋愛
王太子妃のオフィーリアは、王太子の子を身に宿して幸せに暮らしていた。 だがある日、聖女リリスに夫を奪われれ、自分に不貞の濡れ衣を着せられて殺されてしまう。 夫とリリスに復讐を誓いながら死んだ……と思ったらなんと翌朝、義弟リチャードの婚約者・シャーロットになって目が覚めた! 入り込んでしまったシャーロットの記憶を頼りに、オフィーリアは奔走する。 義弟リチャードを助けるため、そして憎き二人に復讐するため、オフィーリアが周囲の人々を巻き込んで奮闘する物語です。 ※前半はシリアス展開で残虐なシーンが出てきます。 後半はギャグテイストを含みます。 R15はその保険です。苦手な方はお気をつけて下さい。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

処理中です...