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第二章ー同棲ー

手を出してはいけない人物

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「着飾るしか脳が無いと言われたの!」

と言いながら、父であるアクラス侯爵に泣き付く娘であるイライザ。

「何と失礼な!もう、その様な男は止めて、他の…もっとお前に相応しい男を探してやろう。お前は美人だから、相手などすぐ見付かるだろう。」

アクラス侯爵は、イライザの頭を撫でながら娘を宥めるが

「それは嫌ですわ!私は、どうしてもエディオル=カルザイン様が良いの!彼が欲しいの!あの、ハルと言う娘、何とかなりませんか!?それに…カルザイン騎士団長が、ハルにはパルヴァンが付いていると言ってましたが、どう言う意味ですか?お父様は、お分かりですか?」

「パルヴァン?あの辺境地の?あそこは…前の第一騎士団長であったグレンが継いだ筈だが…それだけたろう?武に秀でているだけの脳筋ではないか。国を救った─などと言われてはいるが、それだけだ。取るに足らん存在だろう。」

アクラス侯爵は、何て事無い─ように言う。それもその筈である。侯爵としての執務の殆どを執事に押し付け、自分は遊び呆けている為、社交だけではなく、政情にも疎くなっていたのだ。

「イライザが、どうしてもエディオル=カルザインが良い、欲しいと言うなら…私に任せなさい。ハルとやらを…何とかしよう。」

「お父様!ありがとうございます!」

と、この瞬間、この2人の未来が決まった。




ーはい、アウトー




と、闇の中で誰かが呟き、その者はそのまま闇に溶けて行った。











*****


ピクリッ


『『………』』


エディオルの邸の馬小屋に居た、ネージュとノアの耳が反応し、お互いが顔を見合わせる。

『我らに…手を出そうとするのか?』

『愚か─としか言いようがありませんね。』

2頭は一瞬にして殺気を放つが── 

「ネージュ殿、ノア殿、すまないが…殺気を収めてくれ。」

そこにゼンがやって来た。

『最強執事か…何故なにゆえか?我が主を狙ってやって来たを見逃せと言うのか?』

「見逃しはしない。泳がせているだけだ─完璧に潰す為に。」

と、ゼンがニヤリと口角を上げれば

『『成る程』』 

と、ネージュとノアは殺気を収めた。

『不可能であると思うが、主に…傷一つ付ける事は…許さぬぞ?』

「それは、同感だな。」


ーアクラス侯爵。一体誰を敵に回したのか──その体にしっかりと分からせてやろうー

ゼンはほくそ笑みながら、エディオル邸に視線を向けた。







「──来たのか…。」

寝室にあるソファーに座っていたエディオルが呟く。

どうやら、アクラス侯爵は本物の馬鹿だったようだ。俺とハルの邸に入り込んで来るとは…命を棄てたようなものだろう。

この邸には、武の象徴である“カルザイン”と“パルヴァン”が揃っているのだ。しかも、ハルには…

「やり過ぎなければいいが…。」

いや、やり過ぎたところで問題ないか─

と、エディオルはを気にする事もなく、“今夜の出来事は、何も知らなかった”様に、ベッドに潜り込んだ。









『主、おはよう』

「んー?あれ?ネージュ?あれ?昨日は、ノアと一緒じゃなかった?」

朝、目が覚めると、前足をベッドの端にチョコンと掛けて顔を乗せている──ウチの可愛い子と目が合った。

「はぅ─っ。朝からネージュが可愛い!」

ネージュの前足をギュウッと握って───

「はっ!肉球ーっ!!!」

今の今迄、モフモフに目が行ってたけど!肉球!プニプニです!!

「え?何?ネージュは、癒ししかないの?」

『主?』

と言って、コテンと首を傾げるネージュ。

「うぅ─朝からご褒美と癒し、ありがとうございます。」

そう言ってネージュをベッドの上に引き上げて、暫くの間、ハルはネージュのモフモフとプニプニを堪能した。


『ふむ。主は何も気付いてはいないし、怪我も無くて…良かった。』

と、ネージュは尻尾をフリフリさせた。










「ハル様、おはようございます。昨夜も…眠れましたか?」

「ん?はい、ゆっくりグッスリ眠れましたよ?」

何故か、ルナさんに綺麗な笑顔で尋ねられた。

「それは…良かったです。私とリディは、少し…遊んでしまいまして…テンションが上がってしまって…少し騒がしくなかったかな?と気になりまして。」

「夜に?あ、皆で飲んだり…したんですか?大丈夫ですよ。夜中にも一度も目は覚めませんでしたから。ふふっ。ルナさん達も、羽目を外しちゃう事があるんですね。」

「ついつい…久し振りだったので。…とは、難しいモノですね?でも…しました。」

ルナさんもリディさんも、本当にスッキリしたような晴々とした笑顔になる。

ーん?飲み会?をしたんだよね?少しゾワッとしたのは…気のせいだよね?いや、敢えて訊かないけどー








数日後、先代アクラス侯爵夫人─王太后の再従姉妹が後見人となり、アクラス侯爵の妹夫婦の次男がアクラス侯爵を継ぐ事になった。


そうして、ハルの知らない所で、ハルの知らないうちにアクラス侯爵と娘のイライザが姿を消したのだった。


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