上 下
53 / 57

最終話

しおりを挟む
「今日の華やかな夜会において、更にめでたい発表がある。デビュタント達にも、一緒に祝ってもらいたい。」



国王陛下の言葉と共に、目の前の扉が開き、私は王弟殿下─アシュレイ様のエスコートでホールへと入って行った。








「何故、王弟殿下と“傷物”が?」

「王弟殿下は、をご存知無いのでは?」

「身の程を知らない“傷物”が─」


入場と共に、先輩達から囁かれる言葉。こうなるとは分かっていた。でも、私をエスコートしているアシュレイ様の表情も態度も変わらない。なら、今の私にできる事は、そんな周りの言葉に惑わされずに、真っ直ぐ前を向くだけだ。


そのまま国王両陛下の居る前迄進み、2人揃って挨拶をしてからホールの方へと振り返る。



「この度、我が弟であるアシュレイと、シルフィー=キリクス伯爵令嬢の婚約が調った。婚姻は、2年後とする。」

ー婚姻が2年後!?え?私、聞いてない…わよね!?ー

ホールが一気にざわつき、私も表情を変えずにアシュレイ様を見上げると

「2年もあれば、から、安心して準備をしておくと良い。」

と、耳元で囁かれた。

ーな─────っ!!ー


「失礼ながら、申し上げます!」

もう少しで叫びそうになったところで、ホールの人だかりの方から声が掛かった。

「ふむ──発言を許そう──。」

人だかりの中から、デビュタントではない女性が前えと進み出て来た。おそらく、付き添いで来ているデビュタントの姉だろう。

「陛下は、学園内におけるをご存知ありませんでしょうか?そこの─シルフィー=キリクス嬢は、学園をサボリがちで、王城では男漁りをしている“傷物”だと言う事を。その様な者が、王弟殿下の婚約者とは…認める訳には参りませんわ。」

その女性は大声でハッキリと、勝ち誇ったかのような顔で言い切り、今は私を睨みつけるようにして見ている。

ーあ、ひょっとして…この人、過去にアシュレイ様と…ー

横に居るアシュレイ様に視線を向けると、物凄い腹黒な笑顔で微笑んでいた。

「面白い。何故、俺の婚約に関して、公爵令嬢でしかないお前の許可が必要なんだ?」

「え?」

「それと、お前は今言ったな?“噂”だと。ルブルナ公爵家は、噂だけで物事を判断するんだな。その様な家の者が公爵を名乗っているとは…そちらの方が問題ではないのか?」

「そ…その様な事はございません!今の事は、娘が勝手に──」

慌てて出て来たのが、おそらくこの女性の父であるルブルナ公爵だろう。気の毒な位顔が真っ青になっている。

「お前に説明してやろう。シルフィーは学園をサボっていた訳ではない。俺との婚約の為に1年飛び級して卒業する事になったから、毎日学園に来ていたが、別室で授業を受けていたんだ。それは、学園の先生や学園長に訊けばすぐ分かる事だ。」

「飛び級!?」

ー“婚約の為”ではないけどー

「後、王城での男漁りだったか?勿論、漁ってなどいない。シルフィーが、ベルフォーネ嬢の付き添いで登城した時は、俺のとこに来ていたんだ。婚約者の俺に会いにね。これも、魔法棟の者に訊けば良い。シルフィーが俺の執務室に来ていた事は、知っているからな。」


「じゃあ、アレは全部嘘だったの?」

「一体誰がそんな嘘を!?」

ホール全体がざわついたが、アシュレイ様は気にする事なく話を続ける。

「貴族筆頭である公爵の者が、真偽を確かめもせず噂を信じ行動するとは…ルブルナ公爵、これからの事、しっかり考えた方が良いのではないか?今日は、デビュタントの祝いの夜会だ。今の事は不問にするが──二度目はないからな?また、シルフィーを貶める様な事をすれば、次は一切容赦はしない。」

「申し訳ございませんでした!」

と、ルブルナ公爵は頭を下げて謝り、娘を引き摺るようにしてホールから出て行った。

それから、国王陛下が仕切り直し、デビュタント達のダンスを再開させ、毎年通りの流れで執り行われた。



















「シルフィー、お疲れさん。」

「アシュレイ様、お疲れ様でした。」

アシュレイ様がソファーに座り、その横をポンポンと叩く。

“ここに座れ”と言う意味だろう。
その為、近すぎるなぁ…と思いながらも腰を掛けようとすると、そのまま腰をひかれてアシュレイ様の足の上に座り、後ろから抱きしめられる格好になってしまった。

「アシュレイ様!下ろして下さい!」

「俺、立て続けに苦手な夜会に参加させられて疲れてるんだ。だから、シルフィーで癒やしてもらう。」

「癒し!?私で癒しって何ですか!?」

「ん?好きな子を抱きしめてると、癒やされるって事だ。」

「─つ!?」

ー好きな子って…癒やされるって!?!?ー

そんな事、こんな格好で耳元で囁かないで欲しい!

「シルフィー?」

「……はい、なんでしょうか?」

「こっちに向こうか?」

と、グイッと顔を向けさせられる。

「…顔が真っ赤だな……。可愛いな。」

「かわっ───」

口を開きかけた瞬間に、アシュレイ様にキスされた。
触れるだけのキスじゃなくて、深いキスだった。

ーなっ…に…これ!?ー

深いキスだっけど、長くしていた訳じゃないのに、体中がドクドクと熱を持つ。それなのに、初めてなのに、全く嫌な感じではなく、寧ろ────

「はぁ──キスでコレか──」

頭がふわふわしてポヤッとしていると、アシュレイ様が困った様に呟く。

「キス?コレ?一体…どう言う…」

「前に言っただろう?魔力の相性が良いと、他にもメリットがあると。」

「──────まさ…か…」

「あぁ、そのだ。身体の相性も良いらしい。」

「っっっ!!??」

「あぁ、大丈夫だ。シルフィーはまだ成人していないからな。今はこれで我慢しておくから。後1年は逃してやる。その代わり、成人した後は逃さないからな。」

アシュレイ様はニッコリ微笑んで、また私に深いキスをした。


ーコレで我慢って…もう、私にはコレだけでもいっぱいいっぱいです!!ー



















それから1年。ベルフォーネ様と共に学園に行き、ベルフォーネ様が授業を受けている間はアシュレイ様先生のお手伝いをしながら過ごして



ベルフォーネ様が卒業し、私達も無事デビューを果たした。



その、デビューの夜会の後、私はアシュレイ様の宣言通りに……



身体の相性がどれだけ良いのか─たっぷりと思い知らされたのでした。








ー“いばら姫”になんてなれないー

そう思って恋愛も諦めていたけど……私にも私だけの騎士が現れました。

これからは、そのアシュレイ愛しい騎士と共に歩んで行く。
















❋これで、本編は完結となります。後、余話を3話投稿して終わりになります。そちらも、覗いていただければ幸いです。本編最後まで読んでいただき、ありがとうございました❋
*.+゚★☆感d(≧▽≦)b謝☆★゚+.*









しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

余命七日の治癒魔法師

鈴野あや(鈴野葉桜)
恋愛
王太子であるレオナルドと婚約をし、エマは順風満帆な人生を送っていた。 しかしそれは唐突に終わりを告げられる。 【魔力過多症】と呼ばれる余命一年を宣告された病気によって――。 ※完結まで毎日更新予定です。(分量はおよそ文庫本一冊分) ※小説家になろうにも掲載しています。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

この裏切りは、君を守るため

島崎 紗都子
恋愛
幼なじみであるファンローゼとコンツェットは、隣国エスツェリアの侵略の手から逃れようと亡命を決意する。「二人で幸せになろう。僕が君を守るから」しかし逃亡中、敵軍に追いつめられ二人は無残にも引き裂かれてしまう。架空ヨーロッパを舞台にした恋と陰謀 ロマンティック冒険活劇!

没落令嬢は、おじさん魔道士を尽くスルーする

みん
恋愛
とある国の辺境地にある修道院で育った“ニア”は、元伯爵令嬢だ。この国では、平民の殆どは魔力無しで、魔力持ちの殆どが貴族。その貴族でも魔力持ちは少ない。色んな事情から、魔力があると言う理由で、15歳の頃から働かされていた。ただ言われるがままに働くだけの毎日。 そんな日々を過ごしていたある日、新しい魔力持ちの……“おじさん魔道士”がやって来た。 ❋相変わらずのゆるふわ設定なので、軽く読んでいただければ幸いです。 ❋気を付けてはいますが、どうしても誤字脱字を出してしまいます。すみません。 ❋他視点による話もあります。 ❋基本は、1日1話の更新になります。

王太子殿下が私を諦めない

風見ゆうみ
恋愛
公爵令嬢であるミア様の侍女である私、ルルア・ウィンスレットは伯爵家の次女として生まれた。父は姉だけをバカみたいに可愛がるし、姉は姉で私に婚約者が決まったと思ったら、婚約者に近付き、私から奪う事を繰り返していた。 今年でもう21歳。こうなったら、一生、ミア様の侍女として生きる、と決めたのに、幼なじみであり俺様系の王太子殿下、アーク・ミドラッドから結婚を申し込まれる。 きっぱりとお断りしたのに、アーク殿下はなぜか諦めてくれない。 どうせ、姉にとられるのだから、最初から姉に渡そうとしても、なぜか、アーク殿下は私以外に興味を示さない? 逆に自分に興味を示さない彼に姉が恋におちてしまい…。 ※史実とは関係ない、異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

赤貧令嬢の借金返済契約

夏菜しの
恋愛
 大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。  いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。  クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。  王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。  彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。  それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。  赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...