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反撃④
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「キリクスは代々王城勤めであり、有り難くも国王陛下に仕えている為、手紙一つにまで細心の注意を払って扱っています。何事もない手紙一つでも、ソレを悪用してキリクスを蹴落とそうする者が居るからです。確かに、この手紙─便箋にはキリクスの家紋が入ってあり、封蝋もシルフィー=キリクスの物に間違いはありません。」
「では──」
と、口を開き掛けたマクウェル様を、私は視線を向けて止める。
「ですが、コレだけでは簡単に悪用されますから、本当に私が使う便箋には、更に印となるモノをつけてあります。それと、使用するインクにも工夫を施しています。」
「印?工夫?」
ここで、ようやく、少しだけエレーナの表情が翳る。
アーロンから手渡された5通のうちの1通が、私がアヤメさんに宛てた手紙だった。
ーアーロンとアヤメさんの準備は完璧ですー
「この手紙は、本当に私が叔母様に宛てた手紙です。その便箋の右下を見てもらえますか?」
先ずは王弟殿下に渡し、それから部屋に居る人達に順番に見てもらう。その後に、他の4通の手紙も見てもらう。
「透かし…か?」
「そうです。右下に、透かしで家紋を入れています。それも、その手紙を書く時によって、透かしの位置を変えています。」
勿論、4通の手紙の便箋に透かしは無い。
「それと、使用しているインクですが、特殊なインクで、その時時で変えていますが、熱を当てると色が変化するようになっています。」
火の魔力を持つユシール王子が、手の平にほんのりと火を灯し、便箋に軽くその熱を当てると、黒色だったインクが黄色に変化した。
もう一人、火の魔力を持つベルフォーネ様も同じように持っている便箋に熱を当てる─が、その便箋のインクの色は変化しなかった。
「これでお分かりだと思いますが、その4通の手紙は私が書いたモノではありません。」
「そんなの!それを逆手に取って、わざとやったのかも知れないじゃない!」
「どうしてそんな事をする必要が?それこそ、何故、私がキリクスに付け入る隙を与えるような事をしなければならないの?」
エレーナは、これでもまだ……
「それは…シルフィーがマクウェル様の事が好きなのに、マクウェル様が選んだのが平民の私で…嫉妬したからじゃないの!?」
これには、マクウェル様と王弟殿下が微かに反応した。
私は軽く息を吐き、王弟殿下へと視線を向けてニコリと微笑んだ。そして、それからマクウェル様へと視線を向けた。
「確かに…幼い頃は、マクウェル様に恋心を抱いていました。」
マクウェル様から視線を逸らす事なく、私はそのまま言葉を続ける。
「ですが、それも幼かった頃の話です。私にとっては、もう既に過去の事です。キリクスの祖父母、父や兄に訊いてもらっても構いませんが、もともと、私はマクウェル様の婚約者候補から外して欲しいと─ずっとお願いしていました。それを、学園を卒業する迄は─と、祖父とレオグル様にお願いをされたから外れる事ができなかっただけです。ですから、私がエレーナに嫉妬するなんて事は…有り得ないんです。」
ハッキリと言い切ると、マクウェル様は私から視線を逸し、手で顔を覆って俯いた。
「でもっ──」
それでもまだ言い募ろうとするエレーナ。
「“影”が付いている─と言ったでしょう?“影”は、ユシール王子、王弟殿下は勿論の事…王太子殿下の婚約者でもあるベルフォーネ様にも付いているわ。その意味…エレーナには分かるかしら?」
「“影”?意味?」
「王族には、その身を守る為に“影”を付けられるの。常に監視されている─ようなモノなのよ。だから…その“影”達は、全てを見ているの。そして、私は常にベルフォーネ様と行動を共にしているのよ。」
「あ……」
そこで、エレーナもようやく理解をしたのだろう。一気に顔色を無くし、カタカタと震え出した。
「ようやく、分かってくれたようで…安心したわ。念の為に言っておくけど、その“影”達は、決して雇い主に嘘を吐く事も裏切る事も無いわ。」
「もし、その“影”が…雇い主に命令されて…エレーナに手を出したとか…シルフィーが…“影”の目を盗んでやった…とか…」
「マクウェル様……」
自分でも、おかしい事を言っている自覚はあるのだろう。今にも泣きそうな─苦しそうな顔をしている。
ならば───私が止を刺すだけだ。
「先ず、王族に付く“影”の雇い主は国王陛下です。国王陛下がそのような下らない命令を下す意味は…ありません。次に、私が─と言う事ですが…私も“影”の一人なんです。なので、私も、私の雇い主には嘘を吐く事はできません。私の無実が信じられないなら、私の雇い主に誓う事で信じてもらうしかありません。」
敢えて、私が“影の盾”だと言う事と、雇い主が国王陛下だと言う事を伏せておく。
表立っては、私が普通の“影”で、雇い主がベルフォーネ様の父である宰相となっている為だ。おそらく、王弟殿下以外の皆も、そう思っているだろう。
「そうか…。すまなかった…シルフィー。」
ここでようやく、マクウェル様が私に謝罪を口にした。
❋【モブ】の続編も、今日から始めました。お時間ある時にでも覗いていただければ幸いです❋
「では──」
と、口を開き掛けたマクウェル様を、私は視線を向けて止める。
「ですが、コレだけでは簡単に悪用されますから、本当に私が使う便箋には、更に印となるモノをつけてあります。それと、使用するインクにも工夫を施しています。」
「印?工夫?」
ここで、ようやく、少しだけエレーナの表情が翳る。
アーロンから手渡された5通のうちの1通が、私がアヤメさんに宛てた手紙だった。
ーアーロンとアヤメさんの準備は完璧ですー
「この手紙は、本当に私が叔母様に宛てた手紙です。その便箋の右下を見てもらえますか?」
先ずは王弟殿下に渡し、それから部屋に居る人達に順番に見てもらう。その後に、他の4通の手紙も見てもらう。
「透かし…か?」
「そうです。右下に、透かしで家紋を入れています。それも、その手紙を書く時によって、透かしの位置を変えています。」
勿論、4通の手紙の便箋に透かしは無い。
「それと、使用しているインクですが、特殊なインクで、その時時で変えていますが、熱を当てると色が変化するようになっています。」
火の魔力を持つユシール王子が、手の平にほんのりと火を灯し、便箋に軽くその熱を当てると、黒色だったインクが黄色に変化した。
もう一人、火の魔力を持つベルフォーネ様も同じように持っている便箋に熱を当てる─が、その便箋のインクの色は変化しなかった。
「これでお分かりだと思いますが、その4通の手紙は私が書いたモノではありません。」
「そんなの!それを逆手に取って、わざとやったのかも知れないじゃない!」
「どうしてそんな事をする必要が?それこそ、何故、私がキリクスに付け入る隙を与えるような事をしなければならないの?」
エレーナは、これでもまだ……
「それは…シルフィーがマクウェル様の事が好きなのに、マクウェル様が選んだのが平民の私で…嫉妬したからじゃないの!?」
これには、マクウェル様と王弟殿下が微かに反応した。
私は軽く息を吐き、王弟殿下へと視線を向けてニコリと微笑んだ。そして、それからマクウェル様へと視線を向けた。
「確かに…幼い頃は、マクウェル様に恋心を抱いていました。」
マクウェル様から視線を逸らす事なく、私はそのまま言葉を続ける。
「ですが、それも幼かった頃の話です。私にとっては、もう既に過去の事です。キリクスの祖父母、父や兄に訊いてもらっても構いませんが、もともと、私はマクウェル様の婚約者候補から外して欲しいと─ずっとお願いしていました。それを、学園を卒業する迄は─と、祖父とレオグル様にお願いをされたから外れる事ができなかっただけです。ですから、私がエレーナに嫉妬するなんて事は…有り得ないんです。」
ハッキリと言い切ると、マクウェル様は私から視線を逸し、手で顔を覆って俯いた。
「でもっ──」
それでもまだ言い募ろうとするエレーナ。
「“影”が付いている─と言ったでしょう?“影”は、ユシール王子、王弟殿下は勿論の事…王太子殿下の婚約者でもあるベルフォーネ様にも付いているわ。その意味…エレーナには分かるかしら?」
「“影”?意味?」
「王族には、その身を守る為に“影”を付けられるの。常に監視されている─ようなモノなのよ。だから…その“影”達は、全てを見ているの。そして、私は常にベルフォーネ様と行動を共にしているのよ。」
「あ……」
そこで、エレーナもようやく理解をしたのだろう。一気に顔色を無くし、カタカタと震え出した。
「ようやく、分かってくれたようで…安心したわ。念の為に言っておくけど、その“影”達は、決して雇い主に嘘を吐く事も裏切る事も無いわ。」
「もし、その“影”が…雇い主に命令されて…エレーナに手を出したとか…シルフィーが…“影”の目を盗んでやった…とか…」
「マクウェル様……」
自分でも、おかしい事を言っている自覚はあるのだろう。今にも泣きそうな─苦しそうな顔をしている。
ならば───私が止を刺すだけだ。
「先ず、王族に付く“影”の雇い主は国王陛下です。国王陛下がそのような下らない命令を下す意味は…ありません。次に、私が─と言う事ですが…私も“影”の一人なんです。なので、私も、私の雇い主には嘘を吐く事はできません。私の無実が信じられないなら、私の雇い主に誓う事で信じてもらうしかありません。」
敢えて、私が“影の盾”だと言う事と、雇い主が国王陛下だと言う事を伏せておく。
表立っては、私が普通の“影”で、雇い主がベルフォーネ様の父である宰相となっている為だ。おそらく、王弟殿下以外の皆も、そう思っているだろう。
「そうか…。すまなかった…シルフィー。」
ここでようやく、マクウェル様が私に謝罪を口にした。
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