上 下
31 / 57

可哀想な女の子

しおりを挟む
*アシュレイ視点*








“王太子の婚約者の専属侍女は、かもしれない”






どこからか広まった噂話。

確かに、シルフィー=キリクスには左肩に傷痕があるが、コレは極秘だった筈だ。なら、身内がバラした─とは、絶対に有り得ない。彼女の父親も兄も彼女を溺愛しているから、態々彼女を貶める様な事を口外する事は無いだろう。寧ろこの噂が出た事で、きっと裏で動いているに違いない。ただ、“傷痕”と、そのままの意味ならまだ少しマシだが──

噂を流した者は、もう一つの方の意味を持たせて噂を流している。

『どうやら、王太子とその婚約者がお茶をしている間に、城内で男を漁っているらしい』

彼女が否定しない限り、その噂を信じる者も出て来るだろう。それなのに、何故否定しない?確かに、否定すればする程“本当の事だから必死になって”と言われる可能性があるのは分かるが……。

こう言った自分に関する事になると、途端に更に感情を隠してしまう。誰にも頼ろうとしない。何より──

俺から離れようとする事が…何故かイラッとしてしまう。

チラリと、彼女に視線を向ける。その彼女は今、治療を終えてソファーに座ったままで寝ている。
治療をすると魔力の流れが良くなり、一気にエネルギーを使う為、どうしても治療を終えると寝てしまう。最初は横になって寝ていたのだが

『王弟殿下の目の前で、失礼過ぎます!』

と言って、3回目以後からはソファーに横にならず座ったままで治療をする事になった。

彼女が起きないように少し距離を空けて、横に座る。

白銀の髪がサラリと肩から滑り落ち、静かに目を閉じて寝ている。

キズの話をすると、必ず“心ここにあらず”の様に距離を置かれる。目も、ただ前を見ているようで見ていない。何処か遠くを見ているような目をする。それがまた…俺を苛つかせた。














「───────マジか………」



片手で自分の顔を覆って項垂れる。

シルフィー=キリクスは16歳。俺とは12も年の差がある。自分で自分が信じられない。俺に何の感情も表さない彼女が面白かった。それだけの存在だった…筈だよな?

「はぁ───」

顔を上げて彼女を見る。

「─────マジか…」

どうやら、意識してしまったが最後……今迄何とも思わなかった寝顔すら可愛らしく見えてきた。

「……………」

あまり感情を表す事の無い彼女。俺が距離を詰めたらどんな反応をするだろう?それでも崩さないのか、それとも──
色々と想像して、また自然と口元が緩む。

「面白いな───」

噂の事や魔力の事や色々気になる事もあるが、彼女がと言うなら、俺も今は黙っておこう。

そっと手を伸ばして、彼女の白銀色の髪に触れる。

、厄介なやつに目を付けられて…可哀想に…。」

早く目を覚ませば良いのに─と思いながら、俺はその白銀色の髪にキスをした。



















*シルフィー視点*


ー一体、コレは…どう言う状況なんだろうか?ー



今回も、治療の後は寝てしまった。それはいつも通りの事だ。ただ──何故か目を覚ますと、私の直ぐ横に王弟殿下が座っていて、私の髪を掴んで、指にクルクルと巻き付けるようにしたりして弄られている。

の髪はサラサラしていて、触ると気持ち良いな。」

ーあれ?前から…名前呼びされてたっけ??ー

「……ありがとう…ございます?」

ーコレは一体…本当にどうなっているんだろうか?ー

これまたいつも通りに、目が覚めた後、必ず用意されている軽食を食べさせてもらっているんだけど、その間も王弟殿下は私の横に座ったままで、何故か愉しそうに私を見ている。

「ひょっとして、私の顔に何か付いていますか?」

「いや、何も付いてないが?」

ーじゃあ、こっちを見ないで下さいー

とは言えない…よね?いや、言っても良いのかもしれない。

「すみません。そうジロジロと見られていると、食べ難いのですが…」

「治療後の経過観察だから気にするな。」

「…………」

ー今迄、そんなことしてませんでしたよね?ー

とは言えず、何だかよく分からないけど、これ以上何を言っても無駄だと思い、私はいつもよりも早く軽食を平らげた。




















「あ、あの子だろ?の…」

「真面目そうな見た目なのになぁ」







王太子殿下とベルフォーネ様の不仲の噂はほぼ無くなったが、それとは反比例するかのように、私の“傷物”の噂は大きく広がっていった。
それでも、私は常に王太子の婚約者であり公爵令嬢であるベルフォーネ様と一緒に居る為、直接私にその噂の真偽を訊いて来たり、その事で私を貶めようとする人は居なかった。ただただ、少し離れた位置から私に聞こえるように、何かを囁くだけだった。

週に1日、ベルフォーネ様が朝から登城する日があり、その日だけは私は1人で登園している。そんな日だけは、たまに私に嫌味を言いに来る人もいるが、スルーしている。そして、昼休みには人が殆ど来ない庭園の奥のベンチでランチを食べ、午後の授業迄はそのまま本を読んで過ごしている。

今日も、そうやって過ごしていたのだけど─




「シルフィー!会えたわね!」





と、可愛らしい笑顔のエレーナがやって来た。














しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

〖完結〗私が死ねばいいのですね。

藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。 両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。 それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。 冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。 クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。 そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全21話で完結になります。

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ

水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。 ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。 なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。 アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。 ※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います ☆HOTランキング20位(2021.6.21) 感謝です*.* HOTランキング5位(2021.6.22)

【完結】妹が旦那様とキスしていたのを見たのが十日前

地鶏
恋愛
私、アリシア・ブルームは順風満帆な人生を送っていた。 あの日、私の婚約者であるライア様と私の妹が濃厚なキスを交わすあの場面をみるまでは……。 私の気持ちを裏切り、弄んだ二人を、私は許さない。 アリシア・ブルームの復讐が始まる。

あなたの事は記憶に御座いません

cyaru
恋愛
この婚約に意味ってあるんだろうか。 ロペ公爵家のグラシアナはいつも考えていた。 婚約者の王太子クリスティアンは幼馴染のオルタ侯爵家の令嬢イメルダを側に侍らせどちらが婚約者なのかよく判らない状況。 そんなある日、グラシアナはイメルダのちょっとした悪戯で負傷してしまう。 グラシアナは「このチャンス!貰った!」と・・・記憶喪失を装い逃げ切りを図る事にした。 のだが…王太子クリスティアンの様子がおかしい。 目覚め、記憶がないグラシアナに「こうなったのも全て私の責任だ。君の生涯、どんな時も私が隣で君を支え、いかなる声にも盾になると誓う」なんて言い出す。 そりゃ、元をただせば貴方がちゃんとしないからですけどね?? 記憶喪失を貫き、距離を取って逃げ切りを図ろうとするのだが何故かクリスティアンが今までに見せた事のない態度で纏わりついてくるのだった・・・。 ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★ニャンの日present♡ 5月18日投稿開始、完結は5月22日22時22分 ★今回久しぶりの5日間という長丁場の為、ご理解お願いします(なんの?) ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。

ご愛妾様は今日も無口。

ましろ
恋愛
「セレスティーヌ、お願いだ。一言でいい。私に声を聞かせてくれ」 今日もアロイス陛下が懇願している。 「……ご愛妾様、陛下がお呼びです」 「ご愛妾様?」 「……セレスティーヌ様」 名前で呼ぶとようやく俺の方を見た。 彼女が反応するのは俺だけ。陛下の護衛である俺だけなのだ。 軽く手で招かれ、耳元で囁かれる。 後ろからは陛下の殺気がだだ漏れしている。 死にたくないから止めてくれ! 「……セレスティーヌは何と?」 「あのですね、何の為に?と申されております。これ以上何を搾取するのですか、と」 ビキッ!と音がしそうなほど陛下の表情が引き攣った。 違うんだ。本当に彼女がそう言っているんです! 国王陛下と愛妾と、その二人に巻きこまれた護衛のお話。 設定緩めのご都合主義です。

【完結】わたしはお飾りの妻らしい。  〜16歳で継母になりました〜

たろ
恋愛
結婚して半年。 わたしはこの家には必要がない。 政略結婚。 愛は何処にもない。 要らないわたしを家から追い出したくて無理矢理結婚させたお義母様。 お義母様のご機嫌を悪くさせたくなくて、わたしを嫁に出したお父様。 とりあえず「嫁」という立場が欲しかった旦那様。 そうしてわたしは旦那様の「嫁」になった。 旦那様には愛する人がいる。 わたしはお飾りの妻。 せっかくのんびり暮らすのだから、好きなことだけさせてもらいますね。

処理中です...