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可哀想な女の子

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*アシュレイ視点*








“王太子の婚約者の専属侍女は、かもしれない”






どこからか広まった噂話。

確かに、シルフィー=キリクスには左肩に傷痕があるが、コレは極秘だった筈だ。なら、身内がバラした─とは、絶対に有り得ない。彼女の父親も兄も彼女を溺愛しているから、態々彼女を貶める様な事を口外する事は無いだろう。寧ろこの噂が出た事で、きっと裏で動いているに違いない。ただ、“傷痕”と、そのままの意味ならまだ少しマシだが──

噂を流した者は、もう一つの方の意味を持たせて噂を流している。

『どうやら、王太子とその婚約者がお茶をしている間に、城内で男を漁っているらしい』

彼女が否定しない限り、その噂を信じる者も出て来るだろう。それなのに、何故否定しない?確かに、否定すればする程“本当の事だから必死になって”と言われる可能性があるのは分かるが……。

こう言った自分に関する事になると、途端に更に感情を隠してしまう。誰にも頼ろうとしない。何より──

俺から離れようとする事が…何故かイラッとしてしまう。

チラリと、彼女に視線を向ける。その彼女は今、治療を終えてソファーに座ったままで寝ている。
治療をすると魔力の流れが良くなり、一気にエネルギーを使う為、どうしても治療を終えると寝てしまう。最初は横になって寝ていたのだが

『王弟殿下の目の前で、失礼過ぎます!』

と言って、3回目以後からはソファーに横にならず座ったままで治療をする事になった。

彼女が起きないように少し距離を空けて、横に座る。

白銀の髪がサラリと肩から滑り落ち、静かに目を閉じて寝ている。

キズの話をすると、必ず“心ここにあらず”の様に距離を置かれる。目も、ただ前を見ているようで見ていない。何処か遠くを見ているような目をする。それがまた…俺を苛つかせた。














「───────マジか………」



片手で自分の顔を覆って項垂れる。

シルフィー=キリクスは16歳。俺とは12も年の差がある。自分で自分が信じられない。俺に何の感情も表さない彼女が面白かった。それだけの存在だった…筈だよな?

「はぁ───」

顔を上げて彼女を見る。

「─────マジか…」

どうやら、意識してしまったが最後……今迄何とも思わなかった寝顔すら可愛らしく見えてきた。

「……………」

あまり感情を表す事の無い彼女。俺が距離を詰めたらどんな反応をするだろう?それでも崩さないのか、それとも──
色々と想像して、また自然と口元が緩む。

「面白いな───」

噂の事や魔力の事や色々気になる事もあるが、彼女がと言うなら、俺も今は黙っておこう。

そっと手を伸ばして、彼女の白銀色の髪に触れる。

、厄介なやつに目を付けられて…可哀想に…。」

早く目を覚ませば良いのに─と思いながら、俺はその白銀色の髪にキスをした。



















*シルフィー視点*


ー一体、コレは…どう言う状況なんだろうか?ー



今回も、治療の後は寝てしまった。それはいつも通りの事だ。ただ──何故か目を覚ますと、私の直ぐ横に王弟殿下が座っていて、私の髪を掴んで、指にクルクルと巻き付けるようにしたりして弄られている。

の髪はサラサラしていて、触ると気持ち良いな。」

ーあれ?前から…名前呼びされてたっけ??ー

「……ありがとう…ございます?」

ーコレは一体…本当にどうなっているんだろうか?ー

これまたいつも通りに、目が覚めた後、必ず用意されている軽食を食べさせてもらっているんだけど、その間も王弟殿下は私の横に座ったままで、何故か愉しそうに私を見ている。

「ひょっとして、私の顔に何か付いていますか?」

「いや、何も付いてないが?」

ーじゃあ、こっちを見ないで下さいー

とは言えない…よね?いや、言っても良いのかもしれない。

「すみません。そうジロジロと見られていると、食べ難いのですが…」

「治療後の経過観察だから気にするな。」

「…………」

ー今迄、そんなことしてませんでしたよね?ー

とは言えず、何だかよく分からないけど、これ以上何を言っても無駄だと思い、私はいつもよりも早く軽食を平らげた。




















「あ、あの子だろ?の…」

「真面目そうな見た目なのになぁ」







王太子殿下とベルフォーネ様の不仲の噂はほぼ無くなったが、それとは反比例するかのように、私の“傷物”の噂は大きく広がっていった。
それでも、私は常に王太子の婚約者であり公爵令嬢であるベルフォーネ様と一緒に居る為、直接私にその噂の真偽を訊いて来たり、その事で私を貶めようとする人は居なかった。ただただ、少し離れた位置から私に聞こえるように、何かを囁くだけだった。

週に1日、ベルフォーネ様が朝から登城する日があり、その日だけは私は1人で登園している。そんな日だけは、たまに私に嫌味を言いに来る人もいるが、スルーしている。そして、昼休みには人が殆ど来ない庭園の奥のベンチでランチを食べ、午後の授業迄はそのまま本を読んで過ごしている。

今日も、そうやって過ごしていたのだけど─




「シルフィー!会えたわね!」





と、可愛らしい笑顔のエレーナがやって来た。














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