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条件

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「それで、3年前、ようやく今の第二王子が立太子されて、国が落ち着いた頃を見計らって、マクウェル殿をルーラント公爵に─と言う流れになったんだ。もともと後継ぎ問題もあったし、養子縁組してこの国の者になれば、これから先何かあっても手を出して来る事もないだろうからとな。」

隣国が、数年前迄ごたついていたとは耳にしていたけど…そんな事があったのね…。
と言うか…マクウェル様は、王族の血を引き継いでいるのね。

「シルフィーは、これからどうしたい?」

「これから?」

「あの時の記憶が戻ったのなら、傷の事をマクウェル殿に打ち明ける事もできる。少なからず、シルフィーはマクウェル殿には好意を寄せているだろう?おそらく、マクウェル殿もね。」

確かに、私はマクウェル様の事は…素敵な人だなと思っている。でも、マクウェル様は…

「いえ。逆に、マクウェル様には、その事を知られたくはありません。そんなの…“この傷の責任を取って!”と言っているようなモノでしょう?この傷は、私が勝手に彼を庇って受けた傷です。彼は何も…悪くないのだもの。責任を感じて受け入れられても…嬉しくないわ。」

“いばら姫”のように、傷痕迄もが愛しい─なんて言ってもらえる事はないだろう。

「そうか。なら、この話は、ここだけの話しにしておこう。」

そう言うお祖父様は、少し切なそうな顔をしている。
貴族の令嬢にとっての幸せの一つである“結婚”を、私が望んでいないから。

「ただし、シルフィーに訓練をつける時に言った条件は、変更しないからな。後4年ある。ゆっくり考えなさい。」

「はい。分かりました。」















お祖父様につけられた条件とは──



15歳から3年間、王都の学園に通う事。
その3年の間は、マクウェル様の婚約者を辞さない事。

その為に、お祖父様はこの3年で私をミッチリとしごき上げたのだ。お祖父様は王都には付いて来ないから。
何となく

ーその辺の騎士にだって負ける気がしないー

程になっているんじゃないだろうか?
訓練の様子を見に来たアヤメさんが、何故か軽くショック?を受けたような顔をしていたし。
まぁ、その後は

『いやいや!こんなシルフィーちゃんも素敵じゃないの!』

と、また少し興奮していた姿には、少しだけ笑ってしまった。アヤメさん、私の事……好き…過ぎじゃない?なんて…心が温かくなったのは…内緒にしておいた。


カルディア叔母様のせいて心が疲れてしまった私。
そんな私を救ってくれたのはアヤメさん。アヤメさんには本当に感謝している。いつも、可愛いと言ってくれて、困った時は声を掛けてくれて──とても温かい人だなと思う。

そのお蔭で、私はこうして前に進めている。
これからも…誰かの為になれる存在になる為に頑張ろう。
傷痕になんて…負けないように。














翌日、予想していた通り、マクウェル様が私を心配して邸にやって来た。

「シルフィー、大丈夫?─っと…元気そうで良かった。」

前触れがあっての訪問だった為、玄関ホールでマクウェル様のお迎えをしていると、私の存在に気付いた途端、早足で私との距離を詰めて来た。

「ご心配お掛けしてすみませんでした。どうやら疲れていたようで…。一晩グッスリ寝て、スッカリ元気になりました。」

相変わらず表情豊かではない私の、微々たる笑顔を添えて謝罪をする。

「いや─謝る必要はないよ。うん。本当に元気そうで良かった。それじゃあ、今日はこれから、一緒にお茶でもしていただけますか?」

と、マクウェル様が自身の胸に手を当てて、軽くお辞儀をする。そんな軽い行動でさえ、様になるから不思議である。そんなマクウェル様に私は

「勿論、喜んで。」

と返事をして、お茶の用意をしている部屋へと向かった。

その日、エレーナとアーロンも来るかも?と心構えをしていたけど、結局その日は2人とも来る事はなく、マクウェル様と2人だけでのお茶となった。

マクウェル様は、1ヶ月程はカントリーハウスに滞在して、それから王都へと行くそうだ。
そして、15歳になったら王都の学園に通うようだ。



「シルフィーも、来年からは学園に通うと聞いたけど、いつ頃王都に来る予定なの?」

「色々準備などもあるので、入園の3か月前迄には帰ろうかと思っています。」

「そうか。なら、王都に帰って来る時は私にも知らせてくれるかな?また、お茶もしたいし…。」

ーそうやって、こんな私にも笑顔を向けてくれるから…諦め切れないんだろうなー

「はい。王都に帰る時は手紙でも書きますね。」


その日は、久し振りに2人で穏やかな時間を過ごした。


その日以後は、マクウェル様が来た時はエレーナもアーロンもやって来て、4人でお茶をする流れに戻っていた。

そんな日々を送り、1ヶ月後には、マクウェル様は予定通りに王都へと行ってしまった。








それと同じタイミングで、この国の王太子の婚約者が決定した。
その事により、私にも想定外の事が起こる事など、この時の私は勿論の事、アヤメさんでさえ知らずに居たのだった。













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