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第二章 最強娘の学園生活
青の魔王、襲来?
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誰が最初に言ったのか分からないが、テレーヌ市を分断する、この壁は、後々『傲慢の壁』と皮肉を込めて呼ばれるようになる。
こけら落としの騒ぎも終わり、飽きてきたのか野次馬が一人、また一人と減っていく。
俺とアリステリアと熊五郎も富裕層の奴らを一瞥すると、その場を去ろうと踵を返す。
「アラキ! なんだ、来ていたのか?」
野次馬がはけた隙間から見知った顔を見かけると俺達は駆け寄った。しかし、アラキはいつものしかめた面ではなく、妙に神妙な面持ちのように思えた。
「どうかしたのか?」
「タツロウ、少し話いいか? 二人でな」
「二人? アリスもダメなのか?」
その答えはハッキリと口に出さずにアラキは難しい顔をして頷く。
「アリス、一人で帰れるか?」
「アリスちゃん、一人じゃないです。熊五郎がいるです」
熊五郎は、アラキと共闘しているのを見ていた傭兵により、噂になり、やがて街中に知れ渡ってしまったいた。
そのお陰もあってか、殆んどの住人に恐れられることはなくなっている。
「まぁ、それほど遠くないから大丈夫か」
俺は熊五郎にくれぐれもアリステリアを頼むと言い聞かせる。通じているかは不明だが、コクリと頷いた気がした。
俺とアラキは手頃な場所を探すが、人に聞かれたくない話なのか、アラキはかなり慎重であった。
「ここなら大丈夫か」
結局見つけたのは、バンクランク聖堂の屋上だった。とはいっても、正確には出来たばかりの七階部分から新たに八階を造る途中の資材が置かれた場所。
復興による人不足で、工事も止まっていて人が来たらすぐに分かる。
壁もなく吹きさらし。しかし、見晴らしはよく、テレーヌ市を一望出来る。『傲慢な壁』を乗り越え、富裕層側の様子も伺えた。
「それで、アラキ。話ってのは?」
「……」
しばらく沈黙したあと、アラキは重い口を開く。
「今、なんて!?」
俺は自分の耳を疑い、思わず聞き返す。それほど予想外の一言だった。
「青の魔王が現れた」と。
俺は驚き、戸惑ったがアラキの無事を確認して安堵する。
配下のスタンとピートであの強さだ。
青の魔王の強さは計り知れない。
「サラから聞いたが、タツロウの方は大丈夫なんか? 急に強くなったとか」
「あ、ああ。俺の方は元に戻ったよ。多分、偶然じゃないか?」
「そうか……。昨夜な、俺が泊まってる宿の部屋で休んでいる時、そいつは突然現れた。初めは別の客が間違って部屋に入って来たと思ってな。やべぇ女だと。何せ、見た目は普通の人間の女と変わんねぇ。そいつが自分を『青の魔王』と名乗るまでな」
アラキは淡々と話を始める。
部屋で天井を見上げて体を休めていると、入り口から視線を感じて顔を向けると、突如扉を開くこと無く入ってきた女性。
背丈も人間と変わらず、年齢は二十代後半くらいの色気漂う女性で、橙色した長い髪、膝下まである白衣が特徴的な華奢な体型に、聡明そうな綺麗な人だったとアラキは述べた。
だからか力負けしないだろうと剣を携帯せずに対応してしまったらしい。
「お前が我と相反する役割の勇者だな。我は『青の魔王』の役割を持つ者だ。お前に聞きたい事がある」
女はそう自己紹介すると、文字通り目の色が変わる。コバルトブルーだった瞳が赤く、白目が黒く染まり、スタンやピートと同じになると、アラキはその目から逸らす事が出来なくなる。
まさに畏怖を感じたのだと。
「タツロウは覚醒したのか?」
この時、アラキは何も言わなかった。青の魔王もそれ以上は言わずに、ただアラキの目を見ているだけ。
「そうか。目覚めたのか」と勝手に納得したらしい。
ピート戦の一部始終はサラから聞いて知っていたアラキだったが、直接見てはいない。だからこそ、青の魔王のこの言葉はおかしいと俺は感じた。
何故なら、サラが駆けつけたのは、魔王の言葉を借りれば俺が”目覚めた“後なのだから。
さらに青の魔王は言葉を続けたという。
「タツロウに伝えておけ。お前が好き勝手に生きていると、世界が迷惑だとな。そして我はいつまでもお前を最果ての大陸で待つともな」
アラキはようやく口を開きどういう意味か尋ねたみたいだが、青の魔王はただ、「我は世界の均衡を保つだけだ」と言い姿を消したという。
「俺が世界の迷惑? どういう事だ」
考えても考えても答えはサッパリと出ない。そもそも、青の魔王は何故、俺ではなくアラキの前に現れたんだろうか。
俺を拐うのが目的ならば、テレーヌ市に来た時点で自分の手でやればいい。
自らの手を汚さないという魔王の矜持か?
「タツロウ……」
アラキは少し思い詰めたような顔で俺の名前を呼んだ。何か聞きたそうにしているが、いつもの思い切りの良さがなく、躊躇いを見せていた。
「どうした、何か他にあるのか?」
「あ、いや……その、気になってだな……」
「随分と歯切れが悪いな。何でも聞いてくれ、俺が分かることなら答えるから」
まだ少し躊躇うもアラキは、真剣な眼差しで此方を見ながら口を開いた。
「青の魔王だがな、その、似ている気がするんだ。アリスのクソガキに……。あいつが成長したら、ああなるんじゃねぇかってくらいに」
口を開いたまま、俺は固まってしまった。
何故、青の魔王が俺に固執するのかとずっと思っていた。知らない相手に何故と。だが、一つの可能性が頭に過る。
俺は青の魔王を知っている。いや、彼女が青の魔王だと知らなかったが正解か。
「リディル……」
俺は自然と一人の女性の名前を口にしていた。
リディル……アリステリアの母親の名前を。
気づくと俺は自宅に戻っていた。どうやって戻って来たのかは覚えていない。ただ、椅子に座りテーブルの上に顔を伏せていた。
アリステリアが生まれてすぐに姿を眩ましたアリステリアの母親リディル。
まさか青の魔王となって再び関わって来ることになるとは。
アリステリアには彼女は死んだ事にしている。俺も男と出ていったものと思い、断ち切って来た。
悲しみは既に無く、再会出来るかもとの嬉しさもない。
ただただ怒りがフツフツと沸いてくる。
どうして俺の事ばかりで、娘の事を気にかけもしないのだと、彼女に対しての怒りと苛立ちで頭は一杯だった。
こけら落としの騒ぎも終わり、飽きてきたのか野次馬が一人、また一人と減っていく。
俺とアリステリアと熊五郎も富裕層の奴らを一瞥すると、その場を去ろうと踵を返す。
「アラキ! なんだ、来ていたのか?」
野次馬がはけた隙間から見知った顔を見かけると俺達は駆け寄った。しかし、アラキはいつものしかめた面ではなく、妙に神妙な面持ちのように思えた。
「どうかしたのか?」
「タツロウ、少し話いいか? 二人でな」
「二人? アリスもダメなのか?」
その答えはハッキリと口に出さずにアラキは難しい顔をして頷く。
「アリス、一人で帰れるか?」
「アリスちゃん、一人じゃないです。熊五郎がいるです」
熊五郎は、アラキと共闘しているのを見ていた傭兵により、噂になり、やがて街中に知れ渡ってしまったいた。
そのお陰もあってか、殆んどの住人に恐れられることはなくなっている。
「まぁ、それほど遠くないから大丈夫か」
俺は熊五郎にくれぐれもアリステリアを頼むと言い聞かせる。通じているかは不明だが、コクリと頷いた気がした。
俺とアラキは手頃な場所を探すが、人に聞かれたくない話なのか、アラキはかなり慎重であった。
「ここなら大丈夫か」
結局見つけたのは、バンクランク聖堂の屋上だった。とはいっても、正確には出来たばかりの七階部分から新たに八階を造る途中の資材が置かれた場所。
復興による人不足で、工事も止まっていて人が来たらすぐに分かる。
壁もなく吹きさらし。しかし、見晴らしはよく、テレーヌ市を一望出来る。『傲慢な壁』を乗り越え、富裕層側の様子も伺えた。
「それで、アラキ。話ってのは?」
「……」
しばらく沈黙したあと、アラキは重い口を開く。
「今、なんて!?」
俺は自分の耳を疑い、思わず聞き返す。それほど予想外の一言だった。
「青の魔王が現れた」と。
俺は驚き、戸惑ったがアラキの無事を確認して安堵する。
配下のスタンとピートであの強さだ。
青の魔王の強さは計り知れない。
「サラから聞いたが、タツロウの方は大丈夫なんか? 急に強くなったとか」
「あ、ああ。俺の方は元に戻ったよ。多分、偶然じゃないか?」
「そうか……。昨夜な、俺が泊まってる宿の部屋で休んでいる時、そいつは突然現れた。初めは別の客が間違って部屋に入って来たと思ってな。やべぇ女だと。何せ、見た目は普通の人間の女と変わんねぇ。そいつが自分を『青の魔王』と名乗るまでな」
アラキは淡々と話を始める。
部屋で天井を見上げて体を休めていると、入り口から視線を感じて顔を向けると、突如扉を開くこと無く入ってきた女性。
背丈も人間と変わらず、年齢は二十代後半くらいの色気漂う女性で、橙色した長い髪、膝下まである白衣が特徴的な華奢な体型に、聡明そうな綺麗な人だったとアラキは述べた。
だからか力負けしないだろうと剣を携帯せずに対応してしまったらしい。
「お前が我と相反する役割の勇者だな。我は『青の魔王』の役割を持つ者だ。お前に聞きたい事がある」
女はそう自己紹介すると、文字通り目の色が変わる。コバルトブルーだった瞳が赤く、白目が黒く染まり、スタンやピートと同じになると、アラキはその目から逸らす事が出来なくなる。
まさに畏怖を感じたのだと。
「タツロウは覚醒したのか?」
この時、アラキは何も言わなかった。青の魔王もそれ以上は言わずに、ただアラキの目を見ているだけ。
「そうか。目覚めたのか」と勝手に納得したらしい。
ピート戦の一部始終はサラから聞いて知っていたアラキだったが、直接見てはいない。だからこそ、青の魔王のこの言葉はおかしいと俺は感じた。
何故なら、サラが駆けつけたのは、魔王の言葉を借りれば俺が”目覚めた“後なのだから。
さらに青の魔王は言葉を続けたという。
「タツロウに伝えておけ。お前が好き勝手に生きていると、世界が迷惑だとな。そして我はいつまでもお前を最果ての大陸で待つともな」
アラキはようやく口を開きどういう意味か尋ねたみたいだが、青の魔王はただ、「我は世界の均衡を保つだけだ」と言い姿を消したという。
「俺が世界の迷惑? どういう事だ」
考えても考えても答えはサッパリと出ない。そもそも、青の魔王は何故、俺ではなくアラキの前に現れたんだろうか。
俺を拐うのが目的ならば、テレーヌ市に来た時点で自分の手でやればいい。
自らの手を汚さないという魔王の矜持か?
「タツロウ……」
アラキは少し思い詰めたような顔で俺の名前を呼んだ。何か聞きたそうにしているが、いつもの思い切りの良さがなく、躊躇いを見せていた。
「どうした、何か他にあるのか?」
「あ、いや……その、気になってだな……」
「随分と歯切れが悪いな。何でも聞いてくれ、俺が分かることなら答えるから」
まだ少し躊躇うもアラキは、真剣な眼差しで此方を見ながら口を開いた。
「青の魔王だがな、その、似ている気がするんだ。アリスのクソガキに……。あいつが成長したら、ああなるんじゃねぇかってくらいに」
口を開いたまま、俺は固まってしまった。
何故、青の魔王が俺に固執するのかとずっと思っていた。知らない相手に何故と。だが、一つの可能性が頭に過る。
俺は青の魔王を知っている。いや、彼女が青の魔王だと知らなかったが正解か。
「リディル……」
俺は自然と一人の女性の名前を口にしていた。
リディル……アリステリアの母親の名前を。
気づくと俺は自宅に戻っていた。どうやって戻って来たのかは覚えていない。ただ、椅子に座りテーブルの上に顔を伏せていた。
アリステリアが生まれてすぐに姿を眩ましたアリステリアの母親リディル。
まさか青の魔王となって再び関わって来ることになるとは。
アリステリアには彼女は死んだ事にしている。俺も男と出ていったものと思い、断ち切って来た。
悲しみは既に無く、再会出来るかもとの嬉しさもない。
ただただ怒りがフツフツと沸いてくる。
どうして俺の事ばかりで、娘の事を気にかけもしないのだと、彼女に対しての怒りと苛立ちで頭は一杯だった。
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