木村と破綻した生活

青空かもめ

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その後

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 それから、僕と千夏は友達同士に戻った。ちょうどあの中学生の頃のように。あの頃と違うのは、僕達の歳と、山崎がいないことだった。あいつがいてくれれば、僕達はきっと、もっと幸せだったはずだ。
 確かに山崎が生きていたら、僕は千夏と結婚しなかっただろう。結婚当初の幸せもなかっただろう。
 でも僕は、この第二の親友・佐藤千夏がより幸せならば、もっと幸せだったはずだ。僕は、山崎以上に千夏を幸せにできそうな人を知らない。
 
「僕が生きていれば、君は幸せだったのかい?」
 山崎が言う。
 その通りだ。けど、僕ももう何も言わないよ。君は君の選択に従ったんだ。僕は君のいない世界で、精一杯の幸せを見つけるよ。
 山崎とは、もうそろそろ決別する時期なのかも知れない。
 幸せは、自分の手で掴むものだ。山崎が与えてくれるのを待っていてはだめだ。そもそも、それは無い物ねだりだった。山崎はこの世にいないのだから。だいたい、あいつがこんなに沢山の置き土産を僕達に遺してくれたこと自体が異常だった。それだから僕達は山崎の好意に甘え過ぎたのだ。
 山崎、君はお人好し過ぎた。でも、それが君らしくもある。
 
 僕と千夏が別れたその次の日曜日、僕は千夏に野田由香子を引き合わせた。二人は久し振りの再会を喜び、引き合わせた僕に感謝してくれた。二人はとても楽しそうで、幸せそうだった。見ている僕も幸せだった。そうなのだ、幸せとはこうやって手に入れるものなのだ。死人にねだりついて手に入れるものではないのだ。
 僕達三人は、新しい三人組になった。結局、山崎が開けた穴は野田で補充することになった。ずっと山崎が開けた穴を覗き込んでは泣いていた僕と千夏にとって、これは大きな進展だった。
 
 金曜日の夕方、僕はいつもの銅像の前で野田を待っていた。待ち合わせの時刻はとっくに過ぎていた。
「志賀君ごめん」
 野田が現れる。
「いや、いいんだよ由香子ちゃん」
 僕の精一杯の微笑みで答える。
 これで待ち合わせは二勝二敗一引き分けだ。成績は五分になった。
 僕はスーツを着ていたが、野田は落ち着いた感じのドレスを着ていた。
 
「結局千夏ちゃんとは別れたのね」
 レストランで夕食を取りながら、野田が言った。
「そうなんだ。双方ともに、これ以上やっていく自信がなかったんだ」
「この前私が千夏ちゃんと貴方に会った時には、あんなに仲が良さそうだったのに?」
「夫婦としては上手くいかなかったけど、僕と千夏は親友としては絶妙なバランスなんだ」
「そう、確かに親友っていう感じね。でも本当に仲が良さそうで、嫉妬しちゃいそうね」
 そう言って、野田は笑った。
 
 僕と千夏がしがらみなく親友として上手くいっているのは、山崎と決別したからだ。僕達はお互いの中に、山崎の影を追い求めていた。だから上手くいかなかったのだ。
 山崎と決別した今、もしかしたら千夏ともう一度夫婦としてやっていけるかも知れない。でもやめておこう。せっかくあの頃の関係に戻ったのだ。これは山崎の、本当に最後の置き土産だ。それを再びかき乱すことは無益だ。
 それに…
 
「志賀君、私だけ愛してるって証拠に、キスしてよ」
 今は由香子ちゃんがいる。山崎に出会う前、僕が自ら選んだ相手だ。
「後でね」
 僕は意地悪っぽく言う。
「意地悪」
 野田がむくれる。やっぱり可愛い。
「じゃあ、今キスしてあげたら、僕と結婚してくれるかい?」
 こんなセリフを吐く日がくるとは。
「いいわよ」
 野田は目を輝かせて答えた。
 僕はテーブルに身をのりだし、野田にくちづけした。これで由香子ちゃんは僕のものだ。
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