9 / 34
第一章
四、新月の夜、あなたに助けられました。
しおりを挟む五年前の新月の夜。
蓬莱山の北方の森の中。白蛇は主である弁財天のお使いで、貴重な宝玉を運んでいる途中だった。
そんな中、あの黒竜が海の方から陸に上がってきたせいで、地面が大きな地震に似た振動を起こし、その反動で思わず咥えていた宝玉を落としてしまったのだ!
迫ってくる黒竜よりも、宝玉の方が大事だった白蛇は、右往左往しながらきょろきょろと辺りを見回していた。自分の身よりも、貴重な宝玉が砕けてしまうことの方が取り返しが付かないためだ。
どんどん迫ってくる黒竜の大きな体躯は、その場から逃げない白蛇を気にも留めず、なんならそのまま止まることなく進んでくる。
覚悟を決めたその時、なにがあろうと止まることのなかったあの横暴な黒竜が、なぜかその歩みを止めた。
それと同時に、目の前に現れた白い影によって、白蛇はそっと掬い上げられる。
「黒竜、ここはあなただけの道ではありません。そもそも誰のものでもありません。それなのに、あなたは自分の道だと言う。地を歩くなら、人形になればいいでしょう、」
白蛇は驚愕のあまり固まってしまう。このひとは一体どういう立場のひとなのか。
『地仙ごときが、我に楯突くとは····いくら長の知己と言えど、立場を弁えよ、櫻花』
黒竜の話を聞く限り、このひとは地仙らしい。地仙といえば、一応仙人という認識が白蛇にはあったが、どう考えても黒竜と会話ができる立場ではないだろう。このままでは最悪、黒竜に殺されてしまうかもしれない。
「それとこれとは関係ありません。黒竜よ、強き者は弱き者を守る義務があると思います。あなたの考えは神聖な者の考えとは思えません。この子に謝ってください」
白蛇はもちろんだが、黒竜も驚きのあまり言葉を失っていた。
「私は間違っていないので、謝りません」
『――――っどうなっても知らないからな!』
そんなことを考えている内に、危惧していた通りになってしまう。
次の瞬間、そのひとの身体の周りを、闇夜よりも深い漆黒の黒煙が、螺旋となってぐるぐると蠢き始める。
そのひとは自分を逃がそうとして、無造作に離れた場所へ放った。左手から離れた白蛇は地面に難なく着地し、黒煙に包まれていく命の恩人を呆然と見上げていた。
その時、尾の辺りになにか冷たい感覚を覚え、振り向く。そこには落として見失った宝玉が転がっていたのだ!
(なんでこんな所に?)
白蛇はこんな所まで転がっていた宝玉も気になったが、それよりもあのひとの事が気がかりで、再び振り向く。
「本当に法力が半減してる····余命十年? 意地悪なのか優しいのか解らないんだけれど?」
あの黒煙はいつの間にか消えていたが、ぽつんと佇むそのひとが言った言葉に対して、白蛇は長い躰が思わずピンと伸びた。そして慌ててそのひとの許へと這い寄って行く。
もしかしなくても自分のせいで、恐ろしい呪いを受けてしまったのでは?
しかしそのひとは、「君のせいじゃないから、気にしないで」とそっと小さな頭を撫でると、すぐに立ち上がる。そしてそのままどこかへ行ってしまったのだ。
白蛇はその後ろ姿をただ見守ることしかできず、しばらくしてやっと動き出す。近くに転がっていた宝玉を咥え、あるひとつの決意を胸に、自身の主の許へと戻った。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
つのつきの子は龍神の妻となる
白湯すい
BL
龍(人外)×片角の人間のBL。ハピエン/愛され/エロは気持ちだけ/ほのぼのスローライフ系の会話劇です。
毎週火曜・土曜の18時更新
――――――――――――――
とある東の小国に、ふたりの男児が産まれた。子はその国の皇子となる子どもだった。その時代、双子が産まれることは縁起の悪いこととされていた。そのうえ、先に生まれた兄の額には一本の角が生えていたのだった……『つのつき』と呼ばれ王宮に閉じ込められて生きてきた異形の子は、成人になると同時に国を守る龍神の元へ嫁ぐこととなる。その先で待つ未来とは?
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
ヤクザと捨て子
幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子
ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。
ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
3人の弟に逆らえない
ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。
主人公:高校2年生の瑠璃
長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。
次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。
三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい?
3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。
しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか?
そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。
調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m
親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺
toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染)
※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。
pixivでも同タイトルで投稿しています。
https://www.pixiv.net/users/3179376
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/98346398
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる