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「お待たせ」
 部屋に戻った栄之助の準備は整っていた。彼は黒いジャケットに細身のパンツ姿だ。アクセサリーも控えめに付けていて、シンプルだが洗練された印象を受ける。司と違って背も高いしスタイルも良いので、こういう服装がよく似合っている。
(かっこいい……)
 司は思わず心の中で呟く。しかしすぐに我に返ると慌てて首を振った。
「な、なんでもない!ほら!早く行こう!」
 司は照れ隠しのように叫ぶと、栄之助の手を引いて歩き出した。すると栄之助が司の手を強く握り返す。
(えっ…)
「あ…」
「…んだよ。自分から繋いで来たくせに」
「ま、それは…そうなんだけど…」
 大きな手に比べて自分の指が華奢に見える。司はドキドキしながら栄之助の顔を見上げた。
「んな可愛い顔すんなし。キスされてぇの?」
「もう!バカ!」
 司は顔を赤くすると、ぷいっと前を向いて歩いた。しかし手は振りほどかない。栄之助も離すつもりはなかったので、そのまま2人は手を繋いだままショッピングモールへと向かった。
***
 栄之助の様子がおかしいことに気づいたのは、家を出て間もなくだった。どこに行きたいかも聞かずに早足で歩くのだ。しかも腕を掴まれていて逃げられないようになっている。司は不安になった。
(なんか、怒ってる……?)
 しかし栄之助は何も言わない。司はモヤモヤしながらも栄之助についていくしかなかった。そして到着したのは、ファッションビルに入っているランジェリーショップだった。
(え……?)
 司は目を点にして固まる。しかし栄之助は気にする様子もなく中に入っていった。
(ちょ、ちょっと待って!)
「司」
「ひゃいっ!?」
 いきなり声をかけられてビクッとする。すると栄之助が首を傾げた。
「どうした?」
「い、いや……その……」
(こ、これって…まさか……)
 司は嫌な予感がして冷や汗をかく。栄之助はそんな司に微笑みかけた。
「司、どれにする?」
(やっぱりー!!)
 司は心の中で絶叫する。しかしそれを口に出せるはずもなく、ただ固まったまま立ち尽くすしかなかった。
「ほら、早く選べよ」
(選べって言われても困るんだけど!?ていうかなんでこんなことになっているの!?)
「あ、あのさ……なんでランジェリーショップ……」
「決まってるだろ?俺が見たいのと、お前に着てほしいのがあるからだよ」
(何その欲望ダダ漏れの発言!?)
「もう、えっちすることしか考えてないの?折角栄之助が好きそうな服着てきたのに」
 僕は上目遣いで拗ねたように唇を尖らせる。すると栄之助は片手で顔を覆った。
「司……お前、それわざとやってるのか?それとも天然か?」
(わざと……なのかな?)
 正直自分でもよくわからない。でも僕はもっと栄之助に喜んで欲しくて必死だった。
「そこまでされてら下着まで完璧に俺好みの着てて欲しいんだけど」
「栄之助ってさ…」
「何?」
「オレサマだよね」
「今更だろ?」
 栄之助はニヤリと笑うと、そのまま司の手を引きながら店内を進んでいく。ちなみに店員さんに「彼氏サンカッコいいねー」と言われたのだが、司はスルーしていた。
(だって今でこそ2人で下着選んだりしてるけど、元々はライバルで、僕は男で、栄之助は女装した僕が大好きな変態で……)
「あ、そうだ」
 司は栄之助の服の裾を引っ張ると、耳元に口を寄せて囁いた。
「今日の格好、可愛いでしょ?」
「……は?」
 栄之助はポカンとした顔を向けたので、司はクスリと笑った。
「ね?見るだけで我慢できるの?栄之助♡」
(だって僕だって男なんだからね!)
 挑発的に微笑むと、栄之助に上目遣いで問いかける。すると栄之助は驚いた顔から一転、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「もちろん、今すぐにでも抱いてやりたい」
(っ……!?)
 ストレートな物言いに顔を赤くする。栄之助はクスリと笑うと、司の頬に手を当てた。そしてそのまま親指で唇をなぞってくる。ゾクリとした快感が背中を駆け抜けていった。
「でもまあ、まずはデートしないとな…こないだすぐホテル行ったから、今日は焦らすのもいいかもな……」
 栄之助は楽しそうに笑いながら髪を一房掬って口づけた。そしてそのまま耳元へ口を寄せてくる。
「帰ったら、楽しみにしてる」
(っ……!?)
 声にならない悲鳴を上げるが、栄之助はそんな司を見下ろして笑う。
「ははっ!期待通りの反応ありがと」
(な、なんなんだよー!!)
 司は心の中で叫んだ。
「も、もう!からかうなよ!栄之助なんてしーらない!僕先に帰るから!」
 司は拗ねて顔を背けると、その場から逃げ出す。しかしすぐに捕まってしまった。
「待てよ、司」
 栄之助は司の腕を摑んで引き止める。そしてそのまま抱きしめた。
「離せよ……バカ……」
 司は頬を赤らめながら抵抗していたが、やがて諦めたのか大人しくなった。
「拗ねるなって」
(もう!なんでこんなに僕のこと好きなの!?)
 司は心の中で叫びながらも、抵抗をやめた。
「栄之助のバカ」
「はいはい、すみませんでした」
「絶対反省してないじゃん!」
 司が不満げに唇を尖らせていると、栄之助は楽しそうに笑った。
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