君が好き

石田愛

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満たしたいのは

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入学初日、俺は、この学園に友達など作る気はなかった。普通の一般家庭に生まれた俺が金持ちの坊ちゃん共と仲良くなんてなれるはずがない。そもそもなりたくもなかった。この学園で優秀な成績のまま卒業し、将来苦労することがないように、女手ひとつでここまで育ててくれた母に恩返しするために。ただ、それだけのために入学した。だから、それ以外を望む必要はなかった。
そのはずだった。

「谷屋紫陽です。好きな食べ物はハンバーグ。みんなと仲良くなれたらいいなって思ってます。」

初めは珍しい名前だな、くらいにしか思わなかった。顔は整っていたがそれ以上の関心はなかった。けれど、紫陽は、俺によく話しかけてきた。

「桜木千夜君であってるよね?俺、谷屋紫陽。特待生なんでしょ?すごいね!」

邪気の無い純粋な褒め言葉だった。特待生制度は他の生徒たちにあまり良く思われていない。自分たちと違う生活をしてきた人間を異物に感じるのかもしれない。けれど、紫陽はそんなことも気にせずに俺に話しかけてきた。その眩しさに俺は何度も目が眩みそうになった。

「なんで、俺だったんだ?人脈作りとか他に大切なことがあったんじゃ無いか?」
「うーん、そう言うのは別にいらない。俺は、俺と仲良くなってくれそうな人にしか声かけないから。千夜を見た時、こいつなら俺と仲良くなってくれそうって思ったんだよ。」

二年になる少し前、紫陽に何気なくした質問。あの時、紫陽は少しだけ寂しそうな目をしていた。俺はその寂しさを埋めてやりたいと思ってしまった。そしてそのためには自分が求めていたものよりもさらに上を目指さなければならないと決心した。なるつもりもなかった風紀委員長にもなったのはそのためだ。全て、紫陽を手に入れるため。

「千夜、千夜!やばいって、起きろよ!遅刻だぞ!?」
体を揺すられ目を開けると制服を着た紫陽の姿があった。時計を見れば八時を少し過ぎたあたり。確かに、危ないな。起き上がり、制服を着るために服を脱ぐ。
「ばっばか!目の前で脱ぐなよ!」
さっと後ろを向く紫陽があまりにも愛しくて制服を着て、後ろから抱きしめる。ああ、幸せだ。
「どこにも逃げるなよ?」
「はあ?当たり前だろ?ほら、さっさと行こーぜ!」
差し出された手を握り、指を絡める。一気に赤くなる紫陽を見て、俺の中の何かが満たされるのを確かに感じた。

「愛してる。」
きっとこれから先、何があってもこの気持ちは変わらない。
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