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3章 王都救出絵巻
第82話 御用達の看板
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女店主―キャサリンさんは、派手派手しい衣装にちょっと引くほどの厚化粧でこちらを迎え入れた。
早々に店主を引っ張り出せたのは上々、折り入って頼みたいことがあるしな。
「紹介でもない一見の客に、店主自ら出てきてくださるとは恐縮です。
少しばかり実入りがあったので、浪費をする前に価値のあるものにしておきたくて。それで、以前から機会があればと思っていたこちらのお店に頼もうかと」
若い男が商売でも当てたかのように振る舞う。
掲示した予算含め、こうくると店主の鼻も膨らむというものだ。
「まあ、お若いのにしっかりとしたお方ですこと。
こんな素晴らしい方の目に適ったのは、とても嬉しく思いますわ。ささ、どうぞこちらへ」
と奥の応接間へと案内される。
予算、金貨50枚はちょっと効きすぎたかな?
応接間で二人きりになったところで、注文したいものと折り入っての相談をしておく。
「御冗談が過ぎますわ、いくらお金を積まれても、それはできません。私どもは『貴族様御用達』の信用があります。無理は通りません」
と、金に靡きそうに見えた店主が、頑なに断ってきた。まあ、そう簡単にはいかないよな。
では、これでどうかな?
「その『御用達』の看板、揺らいでいると噂を聞きましたが、コレが店主には必要なのでは?」
取り出したるは「裁縫」のスキルブック。
うん、何の捻りもない。
つい先日、貴族たちを相手に、全国の街中から一流の仕立て屋が集まっての衣装のコンテストがあり、その中で前年最優秀賞のキャサリンさんのドレス以上に注目を集めたドレスがあった、という噂が酒場でも流れていた。
来年もこんなことが続けば、『貴族様御用達』の看板も逃げていく。素振りに見せはしないが、店主にも焦りはあったのだろう。
実際、このスキルブックを見て内心はというと
(嘘っ、でもあれは確かに以前、オークションで競り落としたスキルブックと瓜二つ、これがあれば、あの田舎娘のセリーヌなんて目じゃないわっっ!)
と、興奮していたのだった。
「まあ、そんなものをお持ちで、こんなお願い事をしてくるだなんて……… 。
素敵なだけでなく、イケずな人ね」
何を思ったか、テーブル越しに体ごと乗り出し、こちらの顔から胸にかけて手を伸ばして艷やかに触れてくる。
「知ってた? 女は四十を超えてから、本当に熟れるのよ……… 。試してみない?」
そう囁きながら怪しく手は伸び、懐のスキルブックまで届くかというところで、
「店主、お戯れが過ぎますよ」
店主の腕を取り、「合気道」スキルでその場で一回転させて足から着地させる。
ふうっ、怖い怖いっ。
上級の魔物にアラクネという女郎蜘蛛がいるそうだが、その姿を想起させる。
頭から食われるかと思ったよ。そういや、前世の神話でもアラクネは機織の名手だったとか。
一瞬、慌てふためくキャサリンさんだが、すぐに気持ちを切り替えし
「じょっ、冗談よ。さてと、わかったわ。
そのスキルブックと交換条件で、私個人が請け負うわ。ただし、絶対に秘密よ!」
と、ここからは態度を変えて対等な取引として会話をするらしい。
「ええっ、私としても当然内密でなければ困ります。両者の同意を示す書面を用意したので、これでお互い、裏切りはなしですよ」
いつものスキルを使い、盤石の取引となった。
これで決行日までには用意できるだろう。
さて、次の手だ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
前話の引きでお気づきの方もいたかもしれませんが、今回の話は第13話と対になっています。
キャサリンって誰だよ?って方は読み直してみるのも面白いかと思います。
私としては1章の頃から書きたかったお話だったのでとても満足です。
早々に店主を引っ張り出せたのは上々、折り入って頼みたいことがあるしな。
「紹介でもない一見の客に、店主自ら出てきてくださるとは恐縮です。
少しばかり実入りがあったので、浪費をする前に価値のあるものにしておきたくて。それで、以前から機会があればと思っていたこちらのお店に頼もうかと」
若い男が商売でも当てたかのように振る舞う。
掲示した予算含め、こうくると店主の鼻も膨らむというものだ。
「まあ、お若いのにしっかりとしたお方ですこと。
こんな素晴らしい方の目に適ったのは、とても嬉しく思いますわ。ささ、どうぞこちらへ」
と奥の応接間へと案内される。
予算、金貨50枚はちょっと効きすぎたかな?
応接間で二人きりになったところで、注文したいものと折り入っての相談をしておく。
「御冗談が過ぎますわ、いくらお金を積まれても、それはできません。私どもは『貴族様御用達』の信用があります。無理は通りません」
と、金に靡きそうに見えた店主が、頑なに断ってきた。まあ、そう簡単にはいかないよな。
では、これでどうかな?
「その『御用達』の看板、揺らいでいると噂を聞きましたが、コレが店主には必要なのでは?」
取り出したるは「裁縫」のスキルブック。
うん、何の捻りもない。
つい先日、貴族たちを相手に、全国の街中から一流の仕立て屋が集まっての衣装のコンテストがあり、その中で前年最優秀賞のキャサリンさんのドレス以上に注目を集めたドレスがあった、という噂が酒場でも流れていた。
来年もこんなことが続けば、『貴族様御用達』の看板も逃げていく。素振りに見せはしないが、店主にも焦りはあったのだろう。
実際、このスキルブックを見て内心はというと
(嘘っ、でもあれは確かに以前、オークションで競り落としたスキルブックと瓜二つ、これがあれば、あの田舎娘のセリーヌなんて目じゃないわっっ!)
と、興奮していたのだった。
「まあ、そんなものをお持ちで、こんなお願い事をしてくるだなんて……… 。
素敵なだけでなく、イケずな人ね」
何を思ったか、テーブル越しに体ごと乗り出し、こちらの顔から胸にかけて手を伸ばして艷やかに触れてくる。
「知ってた? 女は四十を超えてから、本当に熟れるのよ……… 。試してみない?」
そう囁きながら怪しく手は伸び、懐のスキルブックまで届くかというところで、
「店主、お戯れが過ぎますよ」
店主の腕を取り、「合気道」スキルでその場で一回転させて足から着地させる。
ふうっ、怖い怖いっ。
上級の魔物にアラクネという女郎蜘蛛がいるそうだが、その姿を想起させる。
頭から食われるかと思ったよ。そういや、前世の神話でもアラクネは機織の名手だったとか。
一瞬、慌てふためくキャサリンさんだが、すぐに気持ちを切り替えし
「じょっ、冗談よ。さてと、わかったわ。
そのスキルブックと交換条件で、私個人が請け負うわ。ただし、絶対に秘密よ!」
と、ここからは態度を変えて対等な取引として会話をするらしい。
「ええっ、私としても当然内密でなければ困ります。両者の同意を示す書面を用意したので、これでお互い、裏切りはなしですよ」
いつものスキルを使い、盤石の取引となった。
これで決行日までには用意できるだろう。
さて、次の手だ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
前話の引きでお気づきの方もいたかもしれませんが、今回の話は第13話と対になっています。
キャサリンって誰だよ?って方は読み直してみるのも面白いかと思います。
私としては1章の頃から書きたかったお話だったのでとても満足です。
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