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「お疲れ様です!!遅れてすみません!!」
「おーおつかれ様」
バーの前で屈伸をしているのは玖宮さん。俺はこの人に憧れていると同時に苦手な感情も少し抱えている。
「アップちゃんとしとけよ。怪我すると癖になっから」
「っはい!!」
荷物を置いて、腕と足首をぐるぐる回し、肢体の筋肉をほぐしていく。
「掃除当番?」
「…へ?」
「いや、息切れてたから急いで来たんかなーって」
「あ、そうです、…ぇと…はい…」
「高校生してんなー」
「あ、はい、はは…」
ああ、またやっちゃった。せっかく話振ってくれたのに。どう返したらいいんだろう、なんてことを考えてたら、ドツボにハマってしまい、頭が真っ白になってしまう。
「準備できました!!」
「おけー。じゃあやるか」
白いTシャツから見える、細身ながらにしっかりとついた筋肉。柔軟な体。鍛え抜かれた体幹も合わさって、ダンスがすごく上手い。俺より3つしか変わらないのに、バラエティにも強くて、すごく頭が良くて。俺とは釣り合わなさすぎる。何で事務所はこのユニットを作ったんだろうって不思議になるくらいに。とにかく、この人の足だけは引っ張らないようにしないと。


(あ…おしっこ…)
練習が始まってから早10分。ジャンプをして着地した時、覚えのある違和感に苛まれた。そういえば、最後の授業が始まる前から少し催していたんだった。急いでたから忘れてたけど。
(でも、始まったばっかなのに…)
ギリギリにレッスン室に入って、待たせた挙句、中断させてしまうのも申し訳ない。この部屋は二時間しか使えないし、最近はありがたいことに仕事やら私生活やらで忙しいから、2人での練習時間は貴重。研究生の時にどうしても我慢できなくて途中で抜けた時、講師の人に滅茶苦茶怒られたこともあり、言いにくい。
(まだ我慢できるし…一時間ぐらい経ったら行こう…)


「じゃあ次2曲目詰めるか」
「っはいっ、」
「録画見ててアユのフォーム怪我しそうだなってのがあって」
まずい。結構したい。まだ、20分しか経ってないのに。じわりじわりとお腹がキツく張り詰めて、チクチクと落ち着かない。激しいダンスで汗をかいてるのに、お腹の中の水分は抜けていくどころか、蓄積されている。
「今日踊った中でも何個か同じような癖があった。ジャンプ前の踏み込み、膝使ってみ」
いつもなら頭に入るアドバイスも右から左に抜けていく。
「…アユ?」
「…っへ、あ、はいっ!!」
「きーてた?」
「あっ、え、はいっ」
「集中しろよー」
「すみません!!」
出口がヒクリと震える。冷たい汗がじっとりと手のひらを濡らして、ゾクリと背中が震えた。
(ほんとに、やばいかも…むり、行かせてもらお…)
そう頭で反芻するくせに、口に出そうとすると、まだ20分なのに、とか、怒られないかな、とか変なことを考えてしまって、言えない。
「動き今日固いな…どっか痛めてるとかねえよな?」
「あ、はい…」
じーっと上から下まで全身をクマなく観察してくる玖宮さん。じっとしないといけないのに、空気を読んでくれない膀胱は、ジクジクと落ち着かなくて、出口に押し寄せようとしてくる。
「っ、ん、」
前、押さえたい。あの時途中で抜けた時ぐらい、いやもっと、行きたい。太ももを意味もなく触って紛らわすけど、少しも楽にならない。
(おしっこ、おしっこおしっこおしっこ…)
行かせてもらおうか、漏らすよりはマシだ、そう頭ではわかってる。でも、怖い。あの時みたいに怒られたら、舐めてるって思われたら。それに、何より恥ずかしい。高校生にもなって我慢できないのかって思われたくない。
「まあいいか。とりあえず一旦ジャンプしてみ?」
「っん、」
空中に浮いた体を足が受け止める振動。じわり、なんかあったかい。
(やばい…ちょっとでた…!もうだめ、)
「あ、あの、玖宮さ、」
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