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しおりを挟む「ごめんね、お風呂入る?」
いきなりトイレに駆け込んだ秋葉さんが帰ってきた。精液まみれだった手は綺麗になっている。
「…はいりたい」
「ん、着替え置いとくからいっといで」
「秋葉さんは?」
「俺は…後で入るよ」
あ、一緒に入ってくれないんだ。考えて、ちょっと気分が落ちた。
(狭い浴槽で抱っこしてもらうの、好きなのにな…)
頭にふと浮かんで一気に恥ずかしくなった。そうだよな、あの日は特別だっただけ。普通は体は自分で洗うものだし、一緒に風呂入るのも狭いし。甘え過ぎだろ自分。
でも、さっきからずっと目が合わない。背中を摩る手も心なしかぎこちない。どこか遠慮してるみたいによそよそしい。
これだけ迷惑をかけてしまったから、愛想を尽かしてしまったのだろうか。めんどくさいって思っただろうか。
汚い、って思っただろうか。
「おれのこと、」
嫌いになった?言おうとするけど喉がキュッと詰まる。
「…はいってくる、」
数秒おいて発した言葉は自分でもびっくりするくらいに掠れていた。
ちゃんとできた。吐かなかったし、息も苦しくならなかった。怖くないのは秋葉さんだからだろうか。夢で見た出来事みたいなことが起こった。現実感がない。
ドッと疲れて、それでいてふわふわして。いつも1人でシている時の不快感がなく、むしろ。
コレってこんなにいいものなんだ。皆んなが好き好んでする理由が今やっと分かった気がする。すとんと何かが落ちた。
「宇津希、髪乾かした?」
「乾かしてない、」
「んもー、風邪ひくよ?…ここドライヤー置いとくから」
寝る前の食べそびれたうどんを食べている時だった。手に持ったままコンセントにさして、スイッチを入れようとしていた。このまま乾かしてくれると思ってまた、反省した。何でもやってもらう癖がついてしまっている。ちゃんと自分のことは自分でしないとって。
「あ、全部食べれたの?えらいえら……、
食器置いときな、洗っとくから」
あれ?
「歯磨いておいで」
あれ、何か。何か変。
「ん?どしたの、まだお腹空いてる?」
さっき偉いって言いかけたのに。いつもなら頭、わしゃわしゃって撫でてくれるのに。
「どしたの?しんどい?」
おーい、目の前で手がゆらゆら揺れる。
おでこ触ってくれない。ほっぺも、背中もさすってくれない。
「…なんでもない、」
俺のこと、触らないようにしてる?
「…ねえ、布団はいっていい?」
緊張で声が震えていたと思う。先に布団にねっ転がってスマホを触っていた秋葉さんに恐る恐る近づく。
「…こわいの、みた、から、」
いつもみたいに何も言わずに潜り込めなかった。別に今日は怖い夢は見ていない。むしろあんな恥ずかしい夢をみてしまったから、嘘をついてしまったから、後ろめたい方が勝っている。
「…ん、いいよ。おいで」
布団が持ち上がったことにひどく安心してしまう。拒絶、されるんじゃないかって思った。でも、俺のことを抱いてくれない。壁の方を向いて、布団がたるむくらいに端っこに寄っている。
「っうわぁっ、」
そばによって、背中に抱きついた途端、びっくりしたように飛び起きる秋葉さん。
「ぁっ、ごめんね、ごめんごめん…」
やっぱり。触って欲しくないんだ。
「びっくりしちゃった、」
「…きらい?」
「ん?何か言った?」
「…おれのこと、きらいになった?」
そりゃそうか。あれだけ当たり散らして、夜も失敗して、今日も散々時間を使わせて。
「何でそうなるの、」
「だって、さけてるじゃん、…あきらかに、」
「だってそれは、…それは…………」
「…汚いの、さわらせてごめん、…もうおねがいしない、」
「何でそうなるの!?っぁ~…」
「男なのに、さ、もう無理って、」
「違うっ!!逆だって!!!宇津希で興奮したんだって!!!」
「………え?」
よくよく秋葉さんの顔を見ると赤い。それも耳まで。
「おれの…さわったでしょ?」
「…え?なにが?」
「……………おちんちん、…かたいの、」
ぶぁっと自身の顔が熱くなるのを感じた。覚えていない。ボーッとしてて、でも、よくよく思い返してみると、そんな気もしなくもない。
慌ててトイレに行ったのは、手を洗いに行ったのではなく、…。
「…宇津希こそ、いやでしょ?こんな奴…」
俯きながら、スウェットを握りしめながら。
何でだろう。秋葉さんは、俺のことをそういう目で見ないから、好きだったのに。他人からそういう目で見られるの、苦手だったはずなのに。
(…かわいい、)
胸の奥が痒い。ずっとムズムズしている。
「ちょっ、う、うつき、!?」
慌てふためく秋葉さんの心臓はずっとドクドクしている。もっと、もっと彼の狼狽する顔を見たい。もっともっと困らせたい。
「…すき、」
ぎこちない手で背に手を回される。
身震いするほどの多幸感が俺を襲った。
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