痴漢される高校生

7

　バスで漏らして、病院のお世話になって。そんでまた、達也さん呼び出して、邪魔した。また迷惑、かけた。
　部屋の中に充満しているアンモニア臭。布団を捲るとまた一層強くなる。これも、なんとかしなきゃいけない。
「あ゛ー…」
アイツに触られたところがまだ気持ち悪い。てか、情報が多すぎて現実味がない。だから逆に落ち着いている。
「俺、ホスト以下かぁー…」
俺がケツの穴に挿れられて、泣き叫んで喚いていると分かっていながら、母さんは他の男に貢いでいたのか。逆に笑えてくる。
「俺って何なんだろ…」



　洗濯機に今日の朝汚したシーツとパジャマと共に、制服を入れて回す。体が変に軽くて、怠さがない。病院でいっぱい寝たからだろうか。
「きったねえ体…」
全身を鏡で映すと、まあ酷い。アザはあちこちにできてしまっているし、手も、下も、腹も、全部、触られてるし。もう、セックスもしてるし。まあ、蛙の子は蛙だから、そう思ってしまえば何となく割り切れる。元々汚かったから、仕方ないって。




「食べれそう？」
「あ、ああはい、食べれそう、です…」
朝何も食べていないからか、腹は減っていて。それに、気まずさも相まって食べるスピードが早い。
「ごちそーさまでした、」
「よかった、食欲あって。…ねえ、ちょっと話していい？」
あ、やっぱり。この話題は避けて通れない。
「…座席汚した分の弁償代、いくらでした？」
「え？いや、運転手の人に良いよって言われたけど…」
「そっか。ごめん、迷惑ばっか」
「いやそれは良いんだけど…何で今日バス乗ってたの？電車苦手？」
あ、これはダメだ。そらせない。
「あー…えっと…そうっすね、何か、電車って人多いじゃないっすか。それが、何か、ダメになっちゃって、へへ、」
あれ、何だろこれ。
「何か、…この前、人多いからか、ケツ、触られた、みたいな？そんで何か、気味悪くって、なんか、それだけなんですけど、」
何だろこれ。笑いながらだと、スラスラ言葉が出てくる。あれだけ言いあぐねていたのが嘘みたいだ。
「あきは…」
「それでね、それで、それが、前の父親、で、今日、隣、来て…キモいですよね！！せっかくバスで平和だったのに、どうしてくれんだって話！！っていう、」
「あきは、ねえ」
「あ、でも今日のはトイレ済ませてなかった、だけで…お腹押されて、びっくりしちゃって、拍子抜けしちゃいますよね、」
「あきは、聞いて」
「だから、そんな重いのじゃない、くて、」
「秋葉！！」
「…？」
「そんな笑いながら話すことじゃないでしょ？」
「え、だって、でもっ、俺男ですよ？ネタじゃないですか、あー美人だったら良かったのにー、なんて…」
「誰かに言われたの？それ」
「…いや、だって、俺ガキの頃もっと、…えっと、からだ、触られたり、っ、えっと、もっとすげえことされて、今さらだし、」
「一旦笑うのやめな。辛かったんでしょ？」
「何で、」
「手、震えてる」
太ももに乗せた手をギュッて握られるけど、不快感はない。けど、何か、壊れそう。
「そんな事ないんだけどなぁ…あ、今日その人に一万貰ったんですよ、クリーニング代の足しにしてもらったら、あ、でもいいって言われたのか…何か美味しいもの食べに行きましょうよ、」
目がゆらゆらする。きょろきょろと動かしていないと落ち着かない。
「でね？酷いんですよ？俺がガキの頃は母親にその分の金払ってたって！！俺も欲しかったなぁ、くれたらいくらでも触らせたのになぁ、リアルパパ活ーなんちゃって、はは、」
瞬間、両手で頬を挟まれる。対峙させられるのは、達也さんの顔で、凄く険しい顔。
「それ俺の目見ながら言ってごらん？」
低い、声。何か怖い。暴力も、大声も出していないはずなのに逆らえない圧があって、そらせない。
「だってさ、俺さ、あの人の息子だよ…？蛙の子は蛙、だからさ、だからっ、っ゛、」
　ぼろり、一粒流れれば早かった。喉の痙攣がおさまらない。ぎゅうううう、って締め付けられて涙が次々と溢れてくる。
「すみませ、泣くつもりじゃ、なかったんだけど、っ、」
「ん、言いづらかったね。よく頑張った」
背中をさすられて、抱きしめられて。こんなの、されたことない。されたことないから戸惑うけど、すごく安心する。
「ずーっと頑張ってたもんね、偉いよほんとに」
　俺ね、本当はずっと怖くて、死にたいほど恥ずかしくって。クラスの奴と恋バナとかするの、惨めになるからすっごく苦手で、どうせ普通の恋愛出来ないって悟ってしまうって。
　こんな感じの事を泣きながら、支離滅裂な言葉で言った気がする。そんな意味不明な事を言っても達也さんは頭を撫でながら相槌を打ってくれた。
やっと言えた。ちゃんと言えてよかった。
　この人に打ち明けられて、本当によかった。