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第一章

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「ん…」
「あ、起きたか」
「…ここは…」
目を開けると、そこは真っ白な天井。
「公園で気を失ったの、覚えてるか?」
「あ…」
そういえば、あのぐしょぐしょの制服はどうなったのだろう。今の俺は身ぎれいなジャージを身に纏っている。
「軽く拭いて着替えさせた。下着はコンビニのだから、体操服だけ返してくれ。今洗濯機回してるからもう少し横になってな」
「ごめ…なさい…手間、かけさせて」
「気にするな気にするな。今日は授業も無かったし、暇だったからさ。それより気分はどうだ?」
「あ、だいじょ…ぶです…」
「熱はさっきは無さそうだったけど、もっかい測る?」
「や、大丈夫です。」
「そうか…疲れてたんだろ。家でゆっくり休めよ?」
「っす…」
「あ、洗濯終わったみたいだな。まだ濡れてるから家で乾かせ」
「…ありがとうございます」

 湿った靴に足を通す。尿ではなく、洗剤の匂い。
「あれ、時田じゃん。帰ったんじゃねえの?あと、何でジャージ?」
下駄箱で声をかけてきたのは、同じクラスの篠田。
「いやぁ…お恥ずかしながらゲロってしまって…村山に連れ戻されてしまったのだよ」
「大丈夫かよ…あ、でも顔色はさっき見たときより治ってる。お前、ほんとに真っ青だったからさ。ちゃんと安静にしとけよ?」
「ははっ、ありがとな。篠田は今から部活?」
「あ、そうそう。俺今日掃除当番でさー、早く行かなきゃ。じゃあ、お大事にー」
慌てた様子で体育館へと向かう篠田を横目に、校門を出る。
 今日はまるで悪い夢を見ているようだ。あの場所を思い浮かべて、鳥肌がたつ。
「…明日から、どうしよう…」




(っ…おしっこおしっこおしっこ…)
今、俺はあの時と同じ、いや、それ以上の尿意に苦しんでいる。
 あの日から、2週間。水分を控えること、朝何度もトイレに行って、体の中を空っぽにすることを徹底すれば、案外この生活にも対応出来た。しかし、今日は体育の時間の後、誘惑に負けて水をがぶ飲みしてしまったのだ。2時間耐えたけど、限界が近い。下腹はじくじくするし、椅子の下で押さえていないと、決壊してしまう。ただでさえ呪文みたいな英文が、全く頭に入らない。
「…時田?しんどい?」
こんなところでぶちまけたら…そんな緊張からくる冷や汗が隣の席の篠田からはそう見えるらしい。廊下側の一番後ろである俺の異変に気づくのは、俺だけだろう。
「…や、だい、じょ、ぶだから…」
「…でも!お前、ほんとに病人みたいだぞ。この前のこともあるだろ?早く保健室行くぞ!」
違うんだって、篠田。ただ、小便したいだけなんだ。どれだけ横になっても、どんな薬を飲んでも、治らない。出せばいい、ただの生理現象なんだよ。
「っはぁっ…ぅぅ…っぐ…」
荒い息が止められない。どうしよう、本当にここで、漏らしてしまう。でも、こんなに恥ずかしい未来が近くに来てもトイレには入れない。
「時田!?あーあー、泣くほど辛いんじゃん。せんせー、時田、気分悪そうなんで保健室連れて行きまーす」
「お、おう、って、めちゃくちゃやばそうだな。早く連れて行ってやれ」
ぼやけて見えない篠田の手に縋りつくしか、道がなかった。
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