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第20話 ボウ国へ向かう馬車の中で見たものは……
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「ふん! 全く無礼な奴等だ!」
ハジマリノ王国は勇者マコトを輩出した国。
しかし、魔王を倒した勇者マコトはもうこの世にはいない。
何せ勇者マコトは、魔王と相打ちになってしまったのだから……。
「何が戦争だ! 勇者マコトを輩出した国という以外に何の特色もない弱小国家のくせに生意気な! お前達もそう思うだろう!」
ハジマリノ王国の対応に怒り狂うボウ国の使者ザマールは、部下に対し肯定前提の質問を投げ掛ける。
「ザマール様のいう通りでございます。ハジマリノ王国は自分達の立場をよく理解されていないご様子……」
「全くだ! 折角、魔王討伐によって採れなくなった魔石の補償だけで済ませてやろうといえばつけあがりやがって!」
勇者マコトのいないハジマリノ王国は、魔物が消え魔石が採れず財政に喘ぐ近隣の国々にしてみれば絶好の獲物。近隣諸国はみんなハジマリノ王国を狙っている。
「それにしても、ハジマリノ王国の国民が可哀相でなりませんな。戦争の知らせに今頃、国民達はパニックに陥っている事でしょう」
「全くだな。勇者マコトのいないハジマリノ王国なんて、城壁のない国の様なもの……。肝心の勇者は魔王との戦いで相打ちとなり、頼れる者などいない状況。無能な者が上に立つ国の国民は可哀相だな」
「ザマール様もお人が悪い。本当であればこちらから戦争を吹っ掛ける予定だったのでしょう?」
何せボウ国とハジマリノ王国の国境付近に3万を超える軍隊を配置している。
「ふふ、わかるか? 中々の演技力だっただろう。まああんな簡単に戦争に持っていく事ができるとは思っていなかったが……」
「全くですな。あの男、今頃ハジマリノ王国の国民から石を投げられているんじゃありませんか?」
何せ交渉のテーブルを跳ね除け、簡単に戦争に飛びつく様な愚か者だ。
テーブルに乗せていた足を払われた時には腸が煮えくり返る思いをしたが、戦争に持っていく事に成功した今となってはどうでも良い。
「そろそろ国境だな……。くくくっ、奴等から戦争すると宣言したのだ。覚悟あっての事だろう」
ザマールは笑みを浮かべながら馬車の窓から外の様子を眺める。
「うん? 曇ってきたな……。嫌な天気だ」
「全くですな……。ん? あ、あれ? おかしい! ザマール様、何か様子がおかしいですぞ!」
ザマールの部下、カストリスが焦った様子で窓の外に視線を向ける。
「……全く。何がおかしいと言うのだ?」
「……おりません」
「はぁ? カストリス、貴様何を言っている?」
カストリスは馬車の窓に手を貼りつかせ叫び声を上げる。
「国境付近に配置した3万の軍隊がおりません!」
「なんだとっ!」
カストリスの言葉にザマールは急ぎ馬車の窓から外を覗く。
「み、見間違えではないのか?」
「お、おりません! 軍隊がおりませんぞ!」
「なんだ? 一体何が起きている?」
「それだけではありません! ボウ国を……ボウ国が……」
「ボウ国を……ボウ国が……」と呟くカストリスの言葉を受け亡国のある方向に視線を向ける。
すると、衝撃的な光景が視界に飛び込んできた。
「……一体、一体何が起こっているというのだ」
ザマールがボウ国の方向に視線を向けると、そこには黒い霧に覆われたボウ国の姿が見えてくる。
それはとても不思議な光景だった。
なにせ、ボウ国のある方角だけ黒い霧に覆われているのだ。
そしてその黒い霧は見覚えがある。
あの黒い霧は……。
「ま、まさか……まさか魔王が復活したのか……」
「……その可能性が高いかと」
ボウ国を覆う黒い霧。
それは数日前迄、この世界全体を覆っていた霧とまったく同じものだった。
「ハ、ハジマリノ王国へ……。ハジマリノ王国へ至急救援を! あの国にはまだ勇者マコトと共に戦った大賢者や大戦士、大神官がいるはずだ!」
ザマールがそう声を上げると、部下であるカストリスは首を振る。
「ハ、ハジマリノ王国からの救援は難しいかと……」
「な、何故だ! これは世界規模の危機なのだぞ!」
「ハジマリノ王国とボウ国は今や戦争状態にあります。恐らく話も聞いてもらえないかと……」
そうだった。
先程、ハジマリノ王国とボウ国は戦争状態に突入している。
しかも、戦争に持っていく為、散々挑発行為をしてしまった。
「……で、ではどうすると言うのだ! このままではボウ国が、ボウ国が魔王に侵略されてしまう!」
「まだ魔王が復活したと決まった訳ではありません。まずは事実確認をする為、ボウ国へと向かいましょう。大丈夫……ボウ国の兵士は優秀です。今迄数多くの魔物を屠り魔石に換えてきたではありませんか」
確かにボウ国の兵士は優秀だ。
その力を以って数々の魔物を屠り魔石と化してきた。
だが、それは相手が魔物だからだ。
復活したであろう魔王相手にその力が通じるだろうか……。
それだけではない。
あの類いまれな力を持つ勇者ですら魔王と相打ちになったと言うではないか。
仮に復活した魔王を倒したとしてどれだけの被害が出るのか……考えるだけで頭が痛い。
「わかった。まずは事実確認を優先させる! あの黒い霧に突入せよ!」
「は、はいっ!」
ボウ国の使者ザマールは御者に向かって声を上げると、腰を落として頭を抱えた。
こんな事になる位ならハジマリノ王国に戦争を吹っ掛けられに行くんじゃなかったと……。
ハジマリノ王国は勇者マコトを輩出した国。
しかし、魔王を倒した勇者マコトはもうこの世にはいない。
何せ勇者マコトは、魔王と相打ちになってしまったのだから……。
「何が戦争だ! 勇者マコトを輩出した国という以外に何の特色もない弱小国家のくせに生意気な! お前達もそう思うだろう!」
ハジマリノ王国の対応に怒り狂うボウ国の使者ザマールは、部下に対し肯定前提の質問を投げ掛ける。
「ザマール様のいう通りでございます。ハジマリノ王国は自分達の立場をよく理解されていないご様子……」
「全くだ! 折角、魔王討伐によって採れなくなった魔石の補償だけで済ませてやろうといえばつけあがりやがって!」
勇者マコトのいないハジマリノ王国は、魔物が消え魔石が採れず財政に喘ぐ近隣の国々にしてみれば絶好の獲物。近隣諸国はみんなハジマリノ王国を狙っている。
「それにしても、ハジマリノ王国の国民が可哀相でなりませんな。戦争の知らせに今頃、国民達はパニックに陥っている事でしょう」
「全くだな。勇者マコトのいないハジマリノ王国なんて、城壁のない国の様なもの……。肝心の勇者は魔王との戦いで相打ちとなり、頼れる者などいない状況。無能な者が上に立つ国の国民は可哀相だな」
「ザマール様もお人が悪い。本当であればこちらから戦争を吹っ掛ける予定だったのでしょう?」
何せボウ国とハジマリノ王国の国境付近に3万を超える軍隊を配置している。
「ふふ、わかるか? 中々の演技力だっただろう。まああんな簡単に戦争に持っていく事ができるとは思っていなかったが……」
「全くですな。あの男、今頃ハジマリノ王国の国民から石を投げられているんじゃありませんか?」
何せ交渉のテーブルを跳ね除け、簡単に戦争に飛びつく様な愚か者だ。
テーブルに乗せていた足を払われた時には腸が煮えくり返る思いをしたが、戦争に持っていく事に成功した今となってはどうでも良い。
「そろそろ国境だな……。くくくっ、奴等から戦争すると宣言したのだ。覚悟あっての事だろう」
ザマールは笑みを浮かべながら馬車の窓から外の様子を眺める。
「うん? 曇ってきたな……。嫌な天気だ」
「全くですな……。ん? あ、あれ? おかしい! ザマール様、何か様子がおかしいですぞ!」
ザマールの部下、カストリスが焦った様子で窓の外に視線を向ける。
「……全く。何がおかしいと言うのだ?」
「……おりません」
「はぁ? カストリス、貴様何を言っている?」
カストリスは馬車の窓に手を貼りつかせ叫び声を上げる。
「国境付近に配置した3万の軍隊がおりません!」
「なんだとっ!」
カストリスの言葉にザマールは急ぎ馬車の窓から外を覗く。
「み、見間違えではないのか?」
「お、おりません! 軍隊がおりませんぞ!」
「なんだ? 一体何が起きている?」
「それだけではありません! ボウ国を……ボウ国が……」
「ボウ国を……ボウ国が……」と呟くカストリスの言葉を受け亡国のある方向に視線を向ける。
すると、衝撃的な光景が視界に飛び込んできた。
「……一体、一体何が起こっているというのだ」
ザマールがボウ国の方向に視線を向けると、そこには黒い霧に覆われたボウ国の姿が見えてくる。
それはとても不思議な光景だった。
なにせ、ボウ国のある方角だけ黒い霧に覆われているのだ。
そしてその黒い霧は見覚えがある。
あの黒い霧は……。
「ま、まさか……まさか魔王が復活したのか……」
「……その可能性が高いかと」
ボウ国を覆う黒い霧。
それは数日前迄、この世界全体を覆っていた霧とまったく同じものだった。
「ハ、ハジマリノ王国へ……。ハジマリノ王国へ至急救援を! あの国にはまだ勇者マコトと共に戦った大賢者や大戦士、大神官がいるはずだ!」
ザマールがそう声を上げると、部下であるカストリスは首を振る。
「ハ、ハジマリノ王国からの救援は難しいかと……」
「な、何故だ! これは世界規模の危機なのだぞ!」
「ハジマリノ王国とボウ国は今や戦争状態にあります。恐らく話も聞いてもらえないかと……」
そうだった。
先程、ハジマリノ王国とボウ国は戦争状態に突入している。
しかも、戦争に持っていく為、散々挑発行為をしてしまった。
「……で、ではどうすると言うのだ! このままではボウ国が、ボウ国が魔王に侵略されてしまう!」
「まだ魔王が復活したと決まった訳ではありません。まずは事実確認をする為、ボウ国へと向かいましょう。大丈夫……ボウ国の兵士は優秀です。今迄数多くの魔物を屠り魔石に換えてきたではありませんか」
確かにボウ国の兵士は優秀だ。
その力を以って数々の魔物を屠り魔石と化してきた。
だが、それは相手が魔物だからだ。
復活したであろう魔王相手にその力が通じるだろうか……。
それだけではない。
あの類いまれな力を持つ勇者ですら魔王と相打ちになったと言うではないか。
仮に復活した魔王を倒したとしてどれだけの被害が出るのか……考えるだけで頭が痛い。
「わかった。まずは事実確認を優先させる! あの黒い霧に突入せよ!」
「は、はいっ!」
ボウ国の使者ザマールは御者に向かって声を上げると、腰を落として頭を抱えた。
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