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第四章 ノースの街作り

第106話 その頃、ホオズキの街では②

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「い、一体なにを……」
「うん? なにをって……。ああ、ちょっとね。私のギフトで街の住民達を煽り立てて森に食料を取りに行かせたんだ。君が言ったんだろう? 森で狩りをする予定だったのですってさ」
「な、なんですって……!?」

『扇動者』は、人の気持ちを煽り立てて、ある行動を起こすようにしむけるギフト。それを言葉にしなくても私の自由に民衆を扇動できる。素晴らしい恩寵だ。

「さあ、私はいま空腹だ。君達も街の皆と共に、森に食料調達に出てくれたまえ。数名の兵士は隣国へ向かい食料調達の手配を……。もう数名は父にお金の催促をしてきてくれたまえ。この街にはいま、お金がまったくない状態だからね。そうだ! 街を管理するのも大変だし、いっそのこと、この街を売ってしまおう! 父にバレたら大変だから内密に頼むね? さあ忙しくなるよ。隣国からの食料調達はいつになるかな? 亡命の準備もしなくてはならないし、それまでの間、一緒に頑張ろう!」
「はい! フォーリッシュ様!」
「うん。それでよろしい。それじゃあ、皆、行っておいで」

 私の言うことに共感してくれた看守から鍵を受け取ると、牢屋の鍵を開け、隣国の兵士達を解き放つ。それぞれに、剣と盾を持たせると、兵士達を森に向かわせた。

 ズズズズズッ!

「ん? なんだ??」

 私のスキルで同調状態においた兵士達を森に向かわせてすぐ、大きな地震に見舞われる。

「おお、なんだいこの揺れは……。随分と、大きな揺れだったね」

 階段を上がり外に出ると、街の外、森の中にとんでもない大きさの木が立っていた。

「……すごいなぁ。あれはなんだろう?」

 あれほど、巨大な木は見たことがない。
 生命力に溢れ、木の下に神々しい光を送り込んでいる。
 あの木の下で日光浴をしたら気持ちよさそうだ。

 兵士を森に向かわせてから、そう時間は経っていない。
 折角だ。まだ食料調達に時間はかかりそうだし、私自ら調査に……いや駄目か。

 身体に筋肉が付き多少の自信は付いたものの、それでモンスターを倒せるかどうかは別問題。
 この辺りのモンスターは須く強い。それに、近くにはエルフの集落もある。

「はあっ……。私ではあの場所に行くのは無理だな。神々しいまでのあの光。とても、筋肉に良さそうなんだけど、残念だ」

 そう呟くと、私は自分の家に戻ることにした。

 ◇◆◇

 その頃、アベコベの街にいるオーダー・インベーションはというと……。

「あ、あれは、世界樹……。なぜあのようなものが、あんな所に」

 ただただ驚愕の表情を浮かべていた。

 折角、『領主』の力が及ばないノース君を、フォーリッシュ君の治めるホオズキの街に追い出したというのに……。

 この辺りにエルフの集落があることは知っている。あの種族は、世界樹が絡むと妄執にも似た感情を見せる。
 この未開の辺境の開拓が進まない理由の一つがエルフの存在だ。
 この辺り一帯を治めているといっても、私のギフトでは、領地内にいる者にしか影響を及ぼすことができない。
 なにより、私のギフトはまだ不明な点が多く。『私の治める領地』判定が曖昧だ。
 現在、国に認められ公布されている領地に関しては、問題なく『領主』の力を発揮できている。しかし、領地外の森に住むエルフに私のギフトは効かない。

 世界樹が生えた方向。あの辺りは、フォーリッシュ君が治めるホオズキの街があったはず。

「なにもなければ良いのだが……」

 それにしても、ノース君をホオズキの街に送り出してすぐ、世界樹が生えてくるなんて、一体なにが起こっているんだ……。

 絶大な力を持つノース君をホオズキの街に送り出したの失敗だったかもしれない。

 まあ、アメリア君がついているし大丈夫か?
 少し気になることはあるが、いまの所、ホオズキの街にそれ程の問題が起こっているようではないようだし……。

 とはいえ、あれ程巨大な世界樹が領外に生えたのだ。この地を治める辺境伯として忙しくなりそうだ。
 そのことを考えると頭が痛い。

 私は世界樹を見上げると、盛大なため息を吐いた。

 ◇◆◇

「あ、あれは、世界樹?」

 ホオズキの街近くにあるエルフの集落では、突然現れた世界樹に驚きと歓喜の声を上げていた。

 エルフにとって世界樹は神聖な樹にして、守り神のような存在。世界樹の光が明るく住処を照らし、世界樹の葉や実はエルフに富をもたらし、生活を豊かにしてくれる。

 世界樹の幹の下で生活を送れば十年はなにもしなくても豊かな生活を送ることができ、世界樹が枯れた後も、その木材を売れば財が築ける。

「世界樹はエルフの守り神。人間やモンスター如きに奪われてはなりません! 世界樹を手に入れます! 直ちに集落を畳み、世界樹の下へ向かいますよ!」
「はいっ!!!」

 その集落を治めるエルフの長の言葉を聞き、エルフ達はいま住んでいる集落を畳んでいく。

「どの道、この湧泉ももう限界でしたからね……」

 湧泉に視線を向けると、そこには汚泥に塗れた湧泉があった。
 エルフの生活排水等による汚濁負荷が増加し、湧泉の水質が極端に悪化した結果である。
 泥地を見てみれば、所々から毒ガスを含んだ気泡が吹き出している。
 とてもじゃないが、この集落に住み続けることはできない。

 それに元々、目を付けていた湧泉の下に世界樹が生えてきたのだ。
 これは天の啓示に違いない。

 こうして、エルフはいま住んでいる集落を畳み、世界樹の下へと向かった。
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